[7日目 - 午後] みらい地図 - 大事な記憶を繋ぐ事①
なぜ、きつね様がみらい地図を持っていたのか?という話はさておき、僕たちは神社を離れて村に降りることにした。
ミライがいなくなる前に言っていたこと。
地図の歴史を探して。
それが今日起きる。
歴史を探して、誰かに助けを求めるんだ。
僕たちは、全く意味を理解していなかった。
だけど、ミライの口から僕たちにお願いされたことだ。
何か意図があって、こんなことを頼んできたのだろう。
ミライがいなくなってしまったけど、でも僕たちはそれを信じて、ミライの頼みを叶えよう。
そう話し合った。
「なぁ、ハル、千夏。この地図の歴史を探す、っていっても、何をすればいいんだ?」
早歩きで道を進む。
「地図の歴史っていっても、この地図が何なのか、僕たちは知らないよね?」
「そうなんだよなぁ」
うーん……
「千夏、なんかいいアイデア無いか?」
僕とカイは千夏の方を見る。
「そうですね」
歩きながらも、千夏は腕を組んで考える。
「その地図、ミライが持っていたものよりも古そうですよね」
カイが持っている地図を見る。
きつね様が持ってきた地図は、ミライが落としたものかと思ったら、そうではなかった。僕たちが拾った地図よりももっとボロボロの地図だったのだ。
「古いものを調べるなら、図書館で何か調べてみませんか?」
「お、それ良さそう!」
カイが、同意する。
僕も良いアイデアだと思った。
「確かに、歴史あるものかもしれないから、図書館に行くのはいいかも!」
「おし、じゃぁそうしよう」
まずは、図書館でみらい地図について調べてみることになった。
―――――――
道を下ると、越路家の横の広場に出てきた。
以前手押し車を取り出した物置が見える。
そのまま少し歩けば、図書館に着いた。
僕たちは、3人で図書館の中に入る。
今日は図書館の中はシンとしていた。
勉強をしている人もおらず、男性の司書さんがカウンターで1人本を読んでいた。
「こんにちは」
千夏が司書さんの方に行く。僕たちは後ろに付いて行く。
「おや、こんにちは。どうしましたか?」
司書さんは本を閉じて、丁寧な口調で聞いてくれた。
「私たち、この地図が何かを調べたいんです」
千夏はカイにアイコンタクトを送る。
カイは手に持ったボロボロのみらい地図を、カウンターの上に置いた。
「へぇ?」
司書さんはポケットから薄手の手袋を取り出して手に付けて、地図を持ち上げる。
「……あぁ、みらい地図だね。よくこんなに古いものを持っていたね?」
「ははは」
千夏は曖昧に笑う。
神社できつねが持ってきた、と説明するわけにもいかないか。話がややこしくなるだけだ。
適当に誤魔化すのが良いかもしれない。
「最新の地図があるよ。それと、みらい地図に関しての資料もあるだろうから、ちょっと待っててね」
そう言って、司書さんはカウンターの裏に消えていった。
僕たちは近くに置いてあった椅子に座って、静かに待つ。
図書館は独特の雰囲気のある空間だ。
わくわくするような、でも緊張感があるような。独特の静けさを感じる。
裏の方から、何かを印刷するような音が聞こえた。
プリンターの稼働音が、静かな館内に響く。
「よし、おまたせ」
司書さんがカウンターに戻ってきた。
僕たちは椅子から立ち上がって、カウンターに向かう。
「これが、最新の地図だよ。で、みらい地図がどういうものかの説明は、これを読むといいよ」
綺麗な三つ折りの地図と印刷された1枚の資料を手渡された。
「ありがとうございます」
千夏がお礼を言う。
僕たちも軽く軽く頭を下げて、椅子の方に戻って行った。
「まず、これが最新の地図らしいですね」
千夏は三つ折りの紙をテーブルに置く。
その表面には、「みらい地図」という言葉ではなく、別の言葉か書かれていた。
ーー水ヶ谷村 避難地図
背筋がゾクっとする。
ミライが言っていたことを思い出す。
地図の歴史が、今日もう一度起きる。
歴史を探して、誰かに助けを求めるんだ。
みらい地図の最新版が避難地図?
避難って……
「おいおい、なんか嫌な感じだな」
カイが顔をしかめて言う。
千夏は地図を開いた。
中にはカラー印刷で水ヶ谷村の地図が描かれていた。
村が幾つかのエリアに分けられている。
その中で避難経路、避難先が丁寧に、詳しく記載されていた。
避難時にどの道路を通るか、そのエリアの代表者の家はどこかなど。
山守家と、畑のあるエリアは、赤い丸で囲まれていた。
土砂災害のリスクの高いエリアとのことだ。
そして、広域の緊急避難先として示されていたのは、あの神社だった。
ただ、避難経路としては僕たちがここに来るまでに歩いてきた、越路家の裏の舗装された道路が指定されていた。みらい地図とは異なる点である。
「道のりは違いますが、みらい地図も行き先は神社を示していましたね」
千夏が言う。
ということはだ。
「ということは、みらい地図も避難地図だった、ってこと?」
「かもしれませんね」
うーん、でもなんでみらい地図、なんていう名前にしたのだろうか。
「な、千夏。そっちの紙も見ようぜ」
司書さんが、みらい地図の説明、と言って渡してくれた紙をカイが指す。
千夏はその紙もテーブルの上に置いた。
紙は、かなり昔の村内で作られた月報の一面を印刷したものだった。
その中で、コラムのように書かれた枠を司書さんがマーカーで示してくれている。
僕たちは無言でそのコラムを読む。コラムは、地図の筆者によって書かれたものだった。
書いてあることは、簡単に纏めるとこういうことだ。
数年前、村を大規模な土石流が襲った。川上から流れてきた土砂に流され、水ヶ谷村は甚大な被害を被った。家は流され、多数の犠牲者が出てしまう。その中で、筆者は大事な友人、「みらい」を失ったという。
それを悲しみ、悔やんだ筆者は、仲間と共にどうすれば誰も犠牲者を出さずに済んだかを考えた。
筆者は当時まだ若かった。でも若いながらに出来ることを考えて、作り上げたのが村の避難地図だった。
村の役人や、専門家も巻き込んで製作されたそれは、村の公式な避難地図として使用することが決まった。
そして、その地図は友人を失った悲しさを忘れないために、「みらい地図」と名付けられた。
コラムの書かれた当時には、みらい地図は全ての家庭、建物に配布されて、それを元に年に1回の避難訓練も実施しているという。
これを伝統として、二度と同じ悲しみを感じる人が出ない様に、遥か未来まで伝えていきたい。
このような言葉で、コラムは締めくくられていた。
最後にコラムの筆者が書かれていた。
その筆者の名前は、あまりにも身近な人の名前だった。
「山守 実」
ぼくは呟くように口に出す。
僕のおじいちゃんの名前だ。
「ってことは、みらい地図を書いたのは、僕のおじいちゃんだったんだ」
そう言って、僕はカイと千夏の方を見た。
2人とも、顔を真っ青にして僕の方を見ていた。
そして、その状況を見て、僕は事態の深刻さにようやく気が付くのであった。
「なぁ、千夏。ミライがなんて言ってたか覚えてるよな」
「はい」
千夏はミライの言葉を正確になぞる。
この地図の歴史を探してください。
今日、それがもう一度起きます。
時間が無いんです。君達にかかっている。
歴史を探して、誰かに助けを求めるんです。
どうか、よろしく頼みます。
「なぁ、ハル。どう思う」
「……」
どうすればいいんだ。
「もし、ミライの言っていたことが本当なのなら、大変なことが起きる」
「そうだな」
カイが顔をしかめる。
「でも、ミライがそんなことを予知なんてできるのでしょうか?」
千夏が言う。その疑問はもっともだと思った。
「そうだな」
カイがそう答えて、腕を組んだ。
でも、直ぐに椅子から立ち上がってこういった。
「取りあえずここを出るぞ」
カイはそう言って、1人図書館を出て行った。
僕たちも慌ててカイの後ろに付いて行く。
「なぁ、ハル、千夏。ミライの事、信じるか?」
外に出たとたん、カイは真剣な声で僕たちに問う。
「僕は、信じるよ。あの言葉、ミライは何かを意図して言ったのだと思う」
僕は即答した。ミライのことは、信じられる。
千夏は少し考えて、言った。
「いろいろ疑問はあります。でも、私も信じられます」
「よし、じゃぁここで俺らは解散だ」
カイが、パン、と手を打った。
僕はその意図を掴みかねた。
「ミライは、助けを求めろって言った。別れるぞ。まずは各々の家に帰って親に相談するぞ。3人とも親がジジ団だ。頼れるだろ」
カイはそう言う。
「わかった」
「わかりました」
僕と千夏も頷く。
「よし、色々意味わからんけど、取りあえずできることをするぞ!」
カイの掛け声に合わせて、僕たちは頷き合う。
千夏は直ぐ近くの家に帰って行った。
僕とカイは肩を並べて小走りで家に向かう。
「なぁ、ハル」
「なに?」
「もし、ミライの話が本当だったら、マジでヤバいよな」
「そうだね」
走りながら話す。
息が上がってくるけど、ここは踏ん張りどころだ。
「俺、正直本当にヤバい事が起きる気がするんだ」
カイが言う。
「だから、俺らで出来ることをやるぞ。ハルも頼むな」
言われずとも。
「僕はミライのことは信じるって決めてるんだ。言われなくてもそうするよ」
カイが僕の方を見て、プッと笑う。
「ちょっと、なんで笑うのさ!」
「わははは、何かハル、変わったな!」
「どこがだよ!」
ちょっとだけ雰囲気がほぐれる。
すると、カイの住む家が見えてきた。
「じゃぁ、また後で」
手を振って、僕たちは分かれる。
辺りが少し暗くなってきた。太陽が雲に隠れる。
いっそう寒い気温が、走って火照った頭を冷やしてくれる。
僕は一直線に家を目指して走っていた。




