[7日目 - 午前] みらい地図 - みらい地図の示す場所で ②
終始、僕たちはあまり話さなかった。
時折、ミライ地図の指すとおりに進んでいるかを確認する程度である。
地図上の点で示された灯篭は、ちゃんと道の左右に点々と設置されていた。
ただ、結構長い間手入れがされていないのか、いくつか崩れてしまっている灯篭もあった。
しかしながら、地図の示すとおりに進んでいることを確認するには十分な目印だった。
そうしてしばらく山を登る。
登って、登って。歩いて、また登って。
そして10分強歩いていると。
「あっ!」
千夏が真っ先に道の先に広がる光景に気が付いた。
僕たちは歩く速度を速める。
そうして、この道を抜けた先には。
コンクリートで舗装された道に繋がっていて。
「神社だ」
明らかにそれとわかる立派な赤い鳥居が、そこに建っていた。
僕たちは、しばらく何も言えずに立ち尽くす。
「なぁ、ミライ。地図の示す場所はここで良いのか?」
「え、あ、うーん」
ミライが慌てて地図の方に目を向ける。
僕たちも囲むようにして見る。
間違いない。この地図が指示していたのは、この神社だった。
「この神社、私たち越路家が手入れしてるんです。だから、私は偶にここに来るんですけど、でもこんな道があるなんて知りませんでした」
千夏が言う。
そう言えば越路家の裏側から、神社に通じる道、みたいなものが通っていたっけ?
「取りあえず、神社、行ってみるか」
僕たちは4人で揃って神社の鳥居へと近づく。
「あっ!」
急にミライが大きな声を上げた。
「どうしたの?」
僕はミライの方を見て言う。
ミライは鳥居の先の神社の方を見つめていた。
「ミライ?」
僕はミライの肩を軽く叩く。
反応が無い。何かが気になって、何かに囚われているような、そんな雰囲気だった。
「おい、ミライ、どうした?」
カイも気が付いた。
ミライの様子がおかしい。
「そうだ」
ミライが呟く。
ミライが鳥居に向かって、一歩ずつ歩き始めた。
もはや、その目は僕たちのことを見ていない。
「どうしたの、ミライ?」
問いかけても、ミライは僕たちの方を振り返ることは無かった。
一歩ずつ、鳥居の方へと歩を進める。
僕もミライの後ろに従うように、鳥居の方へと向かった。
そして、ミライだけ鳥居をくぐった時。
フッと、辺りに光が溢れたように思った。
淡い水色の光が目を眩ませる。
思わず僕は手をかざして、目を閉じた。
様子を窺うように、目を薄く開く。
既に、何事もなく辺りの景色が戻っていた。
僕たち3人は目を開いて、前を見る。
鳥居を挟んで、ミライが立っている。
ミライは僕たちの方を見ていた。
直立して、表情に笑顔はなく、ただ、僕たちのことを見つめていた。
僕は妙な雰囲気に戸惑って、何も言えなかった。
すると、ミライは口を開いた。
「お願いがあるんです」
違和感。
ミライではない声がする。
声のトーン、話し方、言葉、全てがミライの物ではない。
でも、話しているのは、確かにミライだった。
ミライは言葉を続ける。
「この地図の歴史を探してください」
「地図の歴史……?」
「今日、それがもう一度起きます」
何を言っているか分からない。
地図の歴史がもう一度起きる?
「時間が無いんです。君達にかかっている」
ミライは僕に目を合わせた。
強い意思を感じる。強い願いを感じた。
ただ、ミライが適当な事を言っているだけではないと直感した。
多分、何かちゃんとした意図を持って、この言葉を発している。
「歴史を探して、誰かに助けを求めるんです」
また、辺りが明るく輝くように感じた。
ミライを中心に、目が眩むような眩しさを感じる。
「どうか、よろしく頼みます」
淡々とした言葉の中で、この最後の言葉に、僕は特に強い感情を感じ取った。
縋りつくような、救いを求めるような感情を、僕は感じた。
この感情に、何故か僕は覚えがある。
輝きが一段と強くなった。
思わず眩しさに目を閉じる。
ふっと僕たちの間に風が吹いたように感じた。
その風は僕たちを離れ去って、どこかへと吹いていく。
そして、眩しさは徐々に薄れていく。
僕は閉じていた目を恐る恐る開く。
そこには、元通りの景色がそこにはあった。
鳥居、神社。
でもそこには。
「……ミライ?」
ミライの姿が無かった。
「おいおいおい」
カイが呟くように言う。
千夏も焦ったように、周囲を見渡している。
その様子を見て、さっきの不思議な状況が、僕だけが見た幻覚ではない事を理解する。
「おいおいおいおいおい!!」
カイが走りだす。鳥居をくぐって、辺りを見渡す。
「おい、ミライ。ミライ!!」
カイが大きな声で叫ぶ。
そうだ、ミライだ!ミライはどこに行った!?
僕と千夏も慌てて走って、鳥居をくぐって、神社の中を走り回って。
「ミライ!ミライ!!どこにいるの?」
千夏は叫んだ。
僕も辺りを探す。
……でも、ミライは見つからなかった。
焦る。怖くなってくる。
「ミライっ!」
様子がおかしかった。鳥居をくぐってから、変なことを口走って。
何かミライが思い出したのか!?何かミライが変になるようなことを思い出したのか!?
まさか、ミライが消えてしまったわけじゃないよな?
頭の中を最悪の状況がよぎる。
おいおいおいおい!!!
「ミライ!!!」
神社の中、小道の方向、最後には神社の外のほうまで。
隈なく探した。千夏と僕で、あらゆる場所を探した。
それでも。
やっぱりミライは見つからなかった。
「消え……ちゃったの?」
千夏が、震える声で言う。
いつも冷静な千夏が焦っている。
でもそりゃそうなる。
僕たちは理解のできない光景を目にした。
自然光ではない眩しさを感じたり、明らかに今までと様子の違うミライを見たり、そしてミライが消えてしまって。
僕たちの理解できる状況を遥かに超えてしまっている。
どうすれば良い?
僕たちはどうすれば良いんだ?
ふと、カイが神社の真ん中で腕を組んで立っているのが見えた。
そう言えばカイは途中からミライを探すことなく、ずっとそうしている気がする。
今はミライを探すために人手が必要だろう。
僕はカイに探すのを手伝うよう、頼みに行こうとした。
千夏も僕についてくる。
僕たち二人がカイに近づくと。
「なぁ、ミライはいたか?」
カイが聞く。
「いない。探さないと!」
僕は答える。
「待った」
カイが僕の目を直視して、一言。
「まず、今は非常事態だ。明らかにおかしなことが起きた。これは2人とも、同じ認識でいいよな」
「……うん」
「そうだね」
僕に続いて、千夏も答える。
カイは腕を組んだまま、地面を見つめている。
「俺は、今この辺りを探したとして、ミライが見つかるとは思えないんだ」
「……どういうこと?」
「ミライ、俺らになんか頼んでただろ」
そういえばそうだ。
「地図の歴史を探して?」
千夏が答える。
そうだ、それが今日起きる、と言っていた。
「そうだ。俺にはそれの意味は解らないけど、でも凄く重要そうにミライが言ってたと思うんだ」
「……確かにそうかもしれない」
鬼気迫るような、そんな雰囲気ではあった。
「俺はミライを信用してる。そのミライがあんな風に言ったんだ。意味は解らないけど、一旦それに従った方が良い。そんな気がする」
カイはそう言って、地面から僕たちに目を向けた。
「どうかな」
僕は考える。
ミライを信用している。それは僕もそうだ。
そして、意味は解らないけど、確かにミライがお願いした事だった。
地図の歴史を探して。
今日、それがもう一度起きる。
助けを求めて。
それに、だ。
「そもそも、意味もなく、断りもなくミライが僕たちから離れるっていうのも、おかしいね」
「そうですね」
千夏も顎に手を当てて、頷く。
「だな。すると、ミライがいなくなったのにも、何か理由があるんだろう」
パン、とカイは手を叩いた。
「なら、一旦ミライの願い通りに、急いで地図の歴史を探すぞ」
カイの言葉に、僕と千夏は頷く。
と、神社の方から、さ、さ、さ、と何か小さなものが歩いて来る音が聞こえた。
3人で音のする方を見る。
「きつね様だ」
千夏が言った。
小さなキツネが、神社の方から歩いてきていた。
「この神社の守り神様なんです」
千夏がキツネのほうに近づく。
「あれ、なにか……」
そのキツネは何かを咥えていた。
キツネは千夏の前に、それを置いて、さ、さ、さ、と神社の境内の方に戻っていく。
千夏はそれを手に取って、僕たちの方へと戻ってきた。
「これ、見てください」
そう言って、千夏が拾ったものを差し出す。
僕とカイは、近づいてその紙を眺めた。
それは、三つ折りにされた古ぼけた紙だった。
ボロボロなその紙の表面には、微かに何かが書かれているのが見える。
崩された文字だけど、大きく書かれた言葉は簡単に読み取ることが出来た。
そこには、縦書きでこう書かれていた。
――みらい地図、と。




