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遥か、ミライ地図  作者: もりたろう


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29/45

[7日目 - 午前] みらい地図 - みらい地図の示す場所で ①

 ガタガタ、ピシャン!

 客間の襖が勢いよく開く。その音で目が覚めた。


 足音が近づいて来る。


「おきてーーーー!!!」


 ミライの声。うるさい……


「うーん……」


 眠い。昨日、夜遅くまで起きていたからだ。

 頭がガンガンする。


「ほら、おきて!」


 足で布団の上からゆっさゆっさと、揺さぶられる。


「わかった…… わかったよ」


 ミライに起こしてもらうのは、久しぶりな気がする。

 何とか寝返りを打って、布団から外に出る。


「うぅ、さぶい」


 ぶるっ、と体が震える。

 今日は、今までに増して寒かった。下手したら雪でも降るんじゃないだろうか。


 服を持って、洗面台へ。

 着替えて、歯を磨いて、顔を洗う。少しずつ目が覚めてくる。


 脱いだ服を持って客間に戻ると、既に布団が畳まれていた。

 ミライが片づけてくれたのだろうか、後でお礼言わないとな。


 簡単に身支度を整えて、朝ご飯を食べに食卓に向かった。



「おじいさまと、聡さん、今日は用事で朝早くから出かけてるんだってさ」


 ミライが、食パンを齧りながらテレビを見ていた。


「そっか。布団ありがとう」


「はいはい」


 僕も既に用意されているトーストを口に運ぶ。


「ね、ついにあの壁の向こうに行けるね」


「そうだね」


「ハルは楽しみ?」


「ちょっと楽しみ。ミライこそ、どう?」


「私も楽しみだよ」


 そんな会話をしながら、僕たちは朝ご飯を食べた。


「私、みらい地図の示す場所に着いたら、色々上手くいく気がするんだよね」


「そう?」


「うん、なんだか、そんな気がする」


「うーん」


 そんなに上手くいくだろうか。

 忘れてしまいそうになるけど、ミライは記憶喪失中。ミライの記憶を、その場所に行くだけで取り戻せるかどうか。かなり可能性は低いような気がする。


 ただ、記憶に関して全然手掛かりを見つけられなかった中、唯一ミライが気になったのが、みらい地図だった。

 そう考えると、ミライの記憶の手掛かりになる可能性は十分にあるのかも。


「ごちそうさまでした」


 ミライが手を合わせて、食事を終える。


「じゃ、後で」


 そう言ってお皿を片付け始めた。

 僕も朝ご飯を食べる手を進める。



 しばらくして、丁度良い時間になったころ、僕たちは揃って家を出た。


「いってきます」

「いってきまーす!」


 2人で揃えて、誰もいない家に一声かけて外に出る。

 そして、今まで通り、2人で並んで村へと続く小道を降りていくのだった。



―――――――



「おはよう、千夏」


 バス停に着いたら、既に千夏は待合室の中にいた。

 僕は待合室に顔を覗かせて、挨拶をする。


「おはようございます。ハル、ミライ」


 千夏が待合室から外に出てくる。


「今日は寒いですね」


「ね、本当に」


 ミライが手を擦る。

 僕の住んでいた方ではここまで寒くなる事は、滅多になかった。

 中々に堪える寒さだった。


「そして、カイは来ないですね」


「そうだね」


 時刻は10時ちょうど、最近はカイは遅刻することが無かったのに、今日はちゃんと遅刻しているようだ。


「寒いですし、待合室の中で待ちましょうか」


 千夏に誘われて、僕たちも待合室の中のベンチに座る。


 カイが登場したのは、それから15分後の事だった。


「おはよう、みんな!」


 うっす!と手を上げながら、平然とカイがやってきた。


「遅いわ」


 千夏がチョップ。


「いやぁ、最近寝坊しなかったんだけどなぁ。寒くてベッドから出れなくてな」


 うーん、それはわかる。

 ミライが起こしてくれなかったら、僕も起きれなかったかもしれない。


「さ、遊び場に行こう!あの梯子運ぶの大変だろうから、父ちゃんに頼んであるんだ。軽トラで運んでもらうぞ!」


「お、カイ。準備が良い!」


「わはは、ハル、任せろ!」


 4人で足取り軽く、遊び場の方へ向かうのだった。



―――――――



 遊び場には軽トラックが既に駐められていた。

 既に梯子は積み込まれていて、それ以外にも地面に梯子を固定するのに使いそうな土台と、何か尖ったフックの付いた大層な何かも積み込まれていた。明らかに、梯子の為にはオーバースペックな代物に見える。


「おう、皆。おはよう」


「父ちゃん、先に来てたのか」


「じゃぁ、先に運んでおくから壁の前で集合な」


「わかった」


 カイと勇輔さんの2人で話を纏める。すでに遊び場での用事は済んでいたようだ。

 勇輔さんは、軽トラックを走らせて遠くに去って行った。



「んじゃぁ、また歩きだな」


 遊び場を去って、今度は壁の方へと歩き始める。


 ミライが、みらい地図を取り出した。


「ようやく、この地図の先を確かめられるね」


「そうですね。ちょっと私、楽しみです」


 千夏が言う。


「何だかんだ、結構時間かかっちまったなぁ」


 カイが頭の後ろで手を組みながら言う。


「地図拾って、次の日父ちゃんに設計してもらって、次は田中さん所、で、昨日で今日」


 指を折って数える。


「4日くらいかかっちゃいましたね」


 千夏も指折り数えていた。

 4日か。


「なんだか、僕は4日だけだったのか、って思っちゃうな」


 何だかもっともっと長い時間を過ごしていた気がする。


「私も」


 ミライも同意する。


「そうかなぁ」


 カイは空を見ながら考えるように言う。


「でも、4人でずっと遊んでて、中々楽しい日々だったな」


「そうだね」


 カイと千夏は顔を見合わせて、そう言った。

 1分くらい無言で歩き続ける。


 呟くようにカイが言う。


「ミライの記憶が戻って、春休みが終わったら、寂しくなるな」


 いつになく本当に寂しそうな声だった。

 そうだ。この日々には終わりがある。もしミライ地図を辿って、ミライの記憶が戻ったならば、あるべき場所へミライは帰っていくのだろう。

 それに僕も、いつかは僕の住む都心部の家へ帰らなければならない。


 楽しい日々を過ごす中、考えたくはない事だった。

 でも、どうしても事実である。


「ねぇ、ミライ、ハル」


 千夏が言った。


「本当に、もし気が向いたらでもいいんです。いつでも、この村に帰ってきてくださいね」


 前を歩いていた千夏は振り返って、僕とミライの方を向く。


「私は、皆さんとこうして過ごせて、本当に楽しいんです。いつでも、歓迎しますからね!」


 カイも振り返って言う。


「水ヶ谷村で同い年くらいの友達は、俺ら2人だけだったんだ。やっぱり、2人より4人の方が、良いもんだ」


 僕の方に駆け寄ってきて、いつも通り肩に腕を回してくる。


「だからな、俺、いつでも待ってるからな。ハル、ミライ。いつでも俺らに会いに来てくれよ?」


 温かいな、と思った。


 この村に来てから、人と人の距離がとても近く感じる。

 少なくとも、僕が過ごしてきた高校生活よりも、この村では人同士の繋がりを感じることが多い。

 そして、その繋がりの輪の中に、そっと自然に僕を招き入れてくれた。

 そして、色々問題のあった僕も受け入れてくれた。それが堪らなく暖かい、と感じたんだ。


 ずっとこの場所にいられないのだろうけども、でも叶うならば、僕はこの場所に居たい。そう思った。

 この居心地が良くて、温かい輪の中でなら、不器用な僕でも、きっと上手くやっていける。そんな気がした。


「……もちろんだよ、カイ。叶うなら、僕はずっとここに居たいくらいだよ」


「そうか、そうか!」


 カイはご機嫌な様子でそう言った。


「ミライもだぞ。俺たち、いつでも待ってるからな」


「……うん。カイ、千夏、ありがとうね」


 ミライは笑顔でそう言った。



 いつか別れの時が来ることはわかっている。

 だけども、その時までは楽しく精一杯過ごしたいな。


 僕はそう思った。



―――――――



 民家を抜けるような細道を辿って、しめ縄の付いた岩を通り過ぎる。

 坂道を登って、僕たちは壁の正面までたどり着いた。


 既に勇輔さんが到着していて、軽トラックから荷物を降ろしている。


 もう一人、その手伝いをしている人がいた。農家のおじさんだ。

 前にみらい地図を初めて辿った時、あの壁の上に道が続いていたであろう、と教えてくれた農家さんだった。


「父ちゃん!と……こちらの方は?」


 カイが勇輔さんに声を掛ける。


「おう、山野さんだ。そこの家に住んでる見守り隊のメンバーで、今日は手伝って貰ってるんだ」


「山野さん、お世話になります」


 千夏が頭を下げる。

 いいのよ~、と軍手を付けた手を振って、山野さんは答えた。


「ま、準備はこっちでするから、皆はそこで見てな」


 勇輔さんはそう言って、梯子をかける準備を進めた。



 既に梯子を地面に固定するための土台は設置されていた。

 これも中々大層なもので、杭のようなものが4か所地面に打ち付けられている。そこに、既製品の脚立ががっちりと固定されていた。しかしこれだけでは壁の上には全然届かない。


 勇輔さんがその脚立の一番上まで登る。ポケットから縄のような物を取り出した。先端にフックが付いている。

 そーれ、と壁の上に縄を投げた。フックが地面に突き刺さる。上手く縄に足を絡めて、いとも簡単に壁の上まで登ってしまった。


「登れちゃったじゃねえか」


 カイがつぶやく。


「いや、僕たちには無理だよ……」


「そりゃそうか」


 僕は突っ込んだ。


「おおい、皆、手伝ってくれ」


 山野さんから号令がかかる。僕たちも梯子の組み立てを手伝う事にした。



 とはいえやることは簡単だった。

 まず、フックの付いたよくわからない構造物を勇輔さんが垂らしたロープに括りつけて、壁の上に持ち上げる。それを勇輔さんが何やら上手く壁の上で固定した。

 後は、その構造物と、地面の足場の間に梯子を2つ固定すれば完成という事らしい。


 梯子本体は結構な重量があった。カイとミライで持ち上げる。それで、壁に立てかけるように土台の上にのせて、僕と山野さんで固定した。

 次にその上に梯子を載せるのが大変だ。壁の上の構造物に、簡単な滑車が付いていて、それで梯子を吊り上げる。宙ぶらりんになっている梯子を勇輔さんが捕まえて、何とか上部を固定した。

 その後、梯子と梯子を繋ぎ合わせるように、山野さんが固定具を取り付ける。


『大部から川南(かわみなみ坂上さかうえ、上側はオッケーだ。下はどうですか?』


 山野さんの腰から声がする。目をやるとトランシーバーを付けていた。そういえば、前会った時も付けていた気がする。

 山野さんは手慣れた手つきでトランシーバーで話す。


「川南坂上から大部、こっちも固定OKです。後は手すり付けましょう」


 レンチで固定具を捻りながら、山野さんは言った。

 トランシーバー、もしかして村中の結構な人数持ってるのかな?

 ……なんでこんなに普及してるんだ?


 考えている間に、山野さんがロープを2本持って梯子を上る。

 上で勇輔さんと受け渡して、ロープが梯子の左右にピンと張って固定される。


『よし、じゃぁ登らせましょう』


 勇輔さんの声が聞こえた。


「よし、じゃぁ皆、準備は良いかな?」


 山野さんが僕たちの方を見て言う。


「OKだ!」


 カイが答える。


「よし、じゃぁ順番に上に登ろうか」


 しっかり、下の土台を山野さんが支える。

 壁の上からは勇輔さんが梯子を掴んでいる。

 相当万全な体制だ。しかも梯子に手すりまでついている。

 これなら安心して梯子を登れるだろう。


 カイ、ミライ、千夏、僕。

 この順で僕たちは梯子を上った。


「……やったな!」


 壁の上でカイに合わせて、僕たちは皆でハイタッチした。

 ついに、この壁を登り切ったんだ。


 僕たちの後ろから見守るように、勇輔さんが腕を組んでニコニコしていた。


「んじゃ、俺は下に降りるぞ。梯子から降りても良いし、上の道から降りても良いけど、この梯子から降りる時は気を付けるんだぞ」


 そう言って、勇輔さんはひょいひょい、と梯子を下りて行った。



「じゃぁ、行く?」


 早速ミライが地図を取り出した。山の斜面の方に目を向ける。

 下から見た通り、明らかに人工的に整えられた道が山の上に向けて続いていた。


「いこうか」


 僕は言った。

 そして、4人でミライ地図を辿って、山の上へ、上へと歩を進めた。

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