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遥か、ミライ地図  作者: もりたろう


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23/45

[5日目 - 午後] 山守家 - 未来へ繋げたいこと ②

 僕たちは役場にたどり着いてすぐ、物置を探し始めた。しかし、周辺には物置らしいものは見当たらない。ミライが役場の人を捕まえて、物置がどこにあるかを聞くと、シャッターで閉じられたガレージが物置になっていると教えてもらった。2人でシャッターを持ち上げると、確かに中は物置になっていた。


 この物置は、田中さんに連れて行ってもらった倉庫よりも広いが、中の物はその倉庫よりも煩雑に置かれている。村の催し物で使うであろうのぼり旗や紅白幕、何に使うのかデカい鍋なんかも置かれていた。


「これかな?」


 僕はすぐにパイプが詰まれているスペースを見つけた。パイプだけでも長い物短い物合わせてかなりの本数が積まれている。それ以外にも、パイプ同士を連結できそうな金具など、沢山の小物がプラスチックのケースに詰められて保管されていた。


 パイプをよく見ると長さが印字されていたから、目的のパイプはすぐに見つかった。4本以上十分に在庫がある。


 ここから4本だけ拝借しよう。

 そう思ってパイプを手に持つ。


 ……重い。重いぞこれは。


「これさ、どうやって運ぼうか」


 ミライがパイプを持ちあげて見たり、抱えてみたりしている。

 重いうえに長い。そもそも1本を1人で肩に乗せて運ぶのも、色々危ない気がする。


「これは1回じゃ運べないね」


「そうねぇ」


 結局は、僕とミライで2本を左右に抱えて持って行くことにした。前にミライ、後ろに僕、互いに左右1本ずつ脇に抱えて進むのだ。残りの2本は一旦放置、後で取りにこよう。



「あっはっはー!すすめぇ!」


 ミライが愉快そうだ。パイプを抱えて、意気揚々と小走りに進む。


「わ、ちょっと、ミライ、待って!うわぁ!」


 電車ごっこでロープを持って何人かで並んで歩く光景を思い出す。でも、今は状況が違う。手元にあるのはロープではない、鉄パイプだ。重い。硬い。


「えいさ、ほいさ!」


 ひぃ、ミライの小走りに追いつくので精いっぱいだ。この村に来てから、自分の運動神経の無さを呪うことが多い。でもミライの方を見ると、楽しそうだ。もうすぐミライ地図を辿れるから、気分が良いのかな?それとも、ただの電車ごっこが楽しいのか……?


 どちらにしても、そんなミライを見ていると、自然と僕も笑みがこぼれてくる。なんか、ミライの元気さを見てると、こっちも元気づけられるんだよなぁ。

 ……あれ、もしかして僕、客観視かなり気持ち悪い事考えてる?


「うわ」


 道がカーブに差し掛かった。ミライが徐々に左に曲がっていく。ミライが、がっしりと掴んだ鉄パイプも、方向転換に合わせて向き先が変わる。ミライを軸に方向が変わるから、僕の持つパイプの先端は振り回される形になる。


「わ、わ、わ」


 慌てて踏ん張るが、鉄パイプに押し切られる。マズい、コケそう。

 ミライの方を見る。足取り軽快、うーん、楽しそうだ。こっちのピンチに気づく気配、無し。

 ぐらり、と足がもつれた。緊急停止せよ、と脳内アラートが上がる。


「すとーーーっぷ!」


 僕らしくない大声が出た。火事場のばか声?


「ん?」


 ミライがようやく止まって、こちらを振り返る。

 ふぅ、危機一髪。


「コケるかと思ったよ。もうちょっと、ゆっくり行かない?」


「ありゃ、ごめん、ごめん」


 てへ、とミライが謝る。


「もっと早く、言ってくれればよかったのに」


「うーん」


 なんか、言えなかったんだよな。


「ま、歩いて行こ!」


「そうしよう」


 ミライはご機嫌なまま、僕たちは脇にパイプを抱えて遊び場へ向かうのだった。



―――――――



「カイ、千夏、戻ったよ」


 僕たちは、電車ごっこの体系のまま、遊び場まで戻った。


「おぉ、借りれたのか!」


 カイが近づいて来る。


 どうやら、カイと千夏も二人でできる作業をしていたようだ。

 何やら工具を使って、木の板を土台に固定したようなものを沢山量産していた。恐らく梯子の足場になる部分を作っていたのだろう。


「2人とも、遅かったですね」


「うん、ちょっとおじいさまのお手伝いをしててね」


 ぎーこぎーこ、とレンチで何かの金具を回しながら、千夏もやってきた。


「なるほど、でもそれでパイプを借りられたのなら、結果オーライですね」


 千夏がグーサインを出す。僕もグーサインをして返す。


「あれ、でも2本しかないぞ?」


 鉄パイプの本数にカイが気が付く。


「2人だと持ってこれなかったんだよね、もう一回取って来るよ」


 僕は答える。


「あ、俺も手伝おうか?」


「あぁ、いいよ。ハルと行ってくるよ」


 ミライが僕に目配せする。もちろん問題ないから、頷き返す。


「そうだね、カイと千夏はそれの準備をしててよ」


「おう、なら任せた!」


「よし、ミライ、いこっか」


 僕たちはもう一周、役場への散歩を楽しむことにした。



「思えば、ハルと2人で何かするのって初めてかも?」


「確かにそうかも」


 確かに、大体カイや千夏が一緒にいた気がする。

 ミライと2人なのは家と、皆に会いに行くまでの道のりだけだった。


「ハル」


 ミライがちょっとだけ距離を詰めてくる。


「なんかさ、なんかさ。皆で力を合わせるのって楽しいね」


「そうだね」


 カイが梯子の設計をして、千夏が組み立てて。


「カイも千夏も、ミライの記憶の為にあぁやって協力してくれてるしね」


「宿題こみとはいえ、本当に助かるね」


「ね、ありがたいや」


「てか、なんで、ハルがありがたがってるのさ!あはは!」


 言われて見れば。


「たしかに」


 まぁ、勝手にだけど、僕は一つ心に決めたことがある。


『僕は、ミライの記憶を取り戻すのを、絶対に助ける』


 一昨日、決めた事だ。我ながら珍しく、他の人の為に何とかしてあげたいって思ったんだ。それに向けてカイと千夏は力を貸してくれている。2人だけじゃない。村の色々な人が、助けてくれている。それは僕の決心を達成する助けになっているから、ありがたい、かも。


(僕も、ミライの為に頑張らないとな)


 考えれば、僕がミライの為にしてあげられていることなんて、まだ全然ない。ちょっと気合を入れないと。

 そう思った。



 昼下がりの村の中、僕とミライは横に並んで歩いていく。

 目指せ、ミライ地図の指し示す場所。目指せ、梯子の完成。



―――――――



 あの後、鉄パイプを運びきった後、僕たちはカイと千夏と一緒に梯子を組み立てていた。


 まず、長いパイプを既定の角度で遊び場の壁に立てかける。

 続いて、足場が地面と平行になるように角度を調整して、長いパイプと固定する。

 最後に、足場の角度が決まったら、足場を支える細いパイプを板を支えるようにして入れて、これも長いパイプに固定する。

 これで1段分完成。


 わいわい、と皆で試行錯誤しながら作業をしていたらあっと言う間に日が暮れてしまった。

 まだ、2つ作る梯子の内、1つ分すら完成していない。

 明日、皆で集まって梯子を仕上げよう!と約束して、僕たちは各々の家に帰るのだった。



 そして晩御飯を食べてから、お風呂も入って客間でゴロゴロしている頃である。


「ミライ、大丈夫?」


 ミライの元気が急に無くなっていた。壁にもたれかかって、ぼーっと窓の外を見ている。

 思えば今日の食卓も、普段よりも静かだった気がする。


「うーん……」


 ミライは、いつもの「大丈夫」という言葉すら言わなかった。どうしたのだろうか。


「ね、ミライ。大丈夫?」


 僕はもう一度聞く。


「……」


 返事が無い。


 おかしい。


 具合は悪そうじゃない。熱がありそうな感じでもない。

 けど、心ここにあらず、という感じ。ぼーっとしてる様子だ。


「ねぇ、ミライ」


 ミライは壁にもたれかかるようにして、座っている。

 僕はその横に、同じようにして壁にもたれながら座ってみた。


「あぁ、ハル。ごめん」


 ミライがハッとこちらに気づいたようにして、答えてくれる。

 目をごしごし擦っている。よく見ると、顔が少しやつれているように見える。


「もしかして、ちょっと疲れてる?」


「うーん、そうかも」


 昼間は元気そうだったけど、やっぱり疲れがたまっていたのだろうか。

 それに。


「ここ最近、ちゃんと寝れてないんじゃない?」


 ミライが僕に打ち明けてくれていることだ。

 何か、別の人の声がするとかで、ちゃんと夜寝れてないと、ミライは言っていた。


「うん。ちょっと、急に疲れが出てきちゃったかも」


 ミライは僕の方を見て微笑む。

 いや、やっぱり無理してそう。素人目にも、明らかに疲れが出ている表情だ。僕ですら分かるほどの状態だ、相当ミライは疲れてるんだろう。


「……寝よっか」


「……うん」


 僕とミライは、取りあえず布団にもぐりこむ。

 僕は布団に入りながら、ミライの方を見る。


 うつら、うつら……


 目は閉じている。布団の端を抱えるようにして、眠りに着こうとしている。


 :

 :


 暫くして、ミライの方から寝息が聞こえてきた。


(良かった、ミライもさすがに疲れたから寝れたんだ)


 そう思って、少し安心した。


 なら、僕も寝ようか。

 そう思って、目をつぶる。


「……うぅ」


 うめき声だ。ミライの声。

 聞いたことがある。確か一昨日。


 暫くミライの方に目線を向ける。ミライの表情が苦しそうだ。顔に汗をかいている。

 どうしてあげることもできずに、僕は戸惑っていた。


「あぁ……!」


 やっぱりだ。目が覚めてしまったみたいだ。ミライが体を起こして、目を擦る。

 夜の間ずっとこんな調子なら、そりゃずっと寝られないだろう。


「やっぱりミライ、寝れないんだね……」


「ハル……」


 時計を見ると、布団に包まってからもう1時間たっていた。

 僕もかなり眠たい。でも、こんな状態のミライを放ってはおけない。


「この夜の時間だけは、怖いんだよね……」


 はぁ、とミライがため息をつく。

 体を気怠そうに、ぱたりと布団に倒す。


「怖くて、眠れなくて。それに、このまま眠っちゃったら私の記憶がまた無くなっちゃいそうで……」


 ミライが布団から僕の方を見ている。昼間は見せない弱さを見せている。


 ミライは何かに怯えている。怯えている対象は、明らかに僕がどうこうできるものではない。

 でも、ミライを何とか、安心させてあげたい。ちょっとでも支えてあげたい。

 心から僕はそう思っていた。


 どうすれば良い?

 どうしたら、ミライを安心させてあげられるのだろう。


「ねぇ、ミライ」


「なに、ハル」


 か細い声で返事してくれた。


「知らない人の声が聞こえるんだよね」


「うん」


「その人はどんなことを言ってるの?」


「……」


 ミライが目を閉じる。何かを思い出しているのだろうか。


「言っているというか、思っているのかも」


 ミライは語り始めた。


「孤独で、ひとりぼっちで、そして何かに追われている。そしてそれを凄く怖がっている」


「うん」


「でも、それを何とかしたいと思っている。だけど、時間が無くて焦っている。そんな感じ」


 ミライは目を瞑りながら言った。


「その気持ちが、感情が、眠りに着こうとすると私の中に広がってくるの」


 はぁ、とミライがため息をつく。


「どうしても孤独な気持ちになって、怖い気持ちで一杯になって、我慢できなくなって、そうしたら目が覚める」


「そうなんだ」


 わからない。

 ミライが今どんな状況なのかは分かったけど、どうすればその状況を脱することが出来るのかが、わからない。だって、僕はそんな状況になったことが無い。二重人格的な?それとも精神的な問題なのだろうか。記憶喪失なんだもんな、そういうのもありそうだ。

 でも、結局は僕にはどうにもできないようなものに思えてくる。


 ……でもだ。


「ミライって、寝てない時って孤独に思ってる?」


「……ううん。カイや千夏、おじいさまや聡さんもいる。それにハルもいるしね」


「じゃぁ、今も何かが怖かったりする?」


「……ちょっとだけ。記憶を取り戻せなかったら、どうしようって。記憶が戻らないまま、皆と別れないといけなくなったら、またひとりぼっちになっちゃうから。それは怖いかな」


 ミライがうっすら笑いながら言った。

 そんな風に思っていたんだ。ならば。


「じゃぁさ、1つ約束しようよ」


 僕は手を布団から外に差し出して、小指を立てる。

 ミライと会った日、記憶を取り戻す手伝いの約束をした日を思い出した。

 今度は僕が約束のお誘いをする番だ。


「僕は、ミライが記憶を取り戻すまで、ミライと一緒にいる。独りぼっちにはさせないよ」


 ちょっと恥ずかしい事を言っているのはわかってる。でも、これでミライが安心できるのなら。


「ハル……」


「でさ、ミライも。もし記憶が戻っても、また僕たちと、僕と遊んでくれない?たまにでいいからさ!」


 これは僕の願い。この数日間、本当に楽しい日々を送ってきた。

 この日々は、ずっと続かない事はわかっている。

 春休みが開けたら、僕は家に戻らないといけない。ミライも、記憶を取り戻したらこの村を去るのだろう。


 でも、叶うならば。こんな夢みたいな色鮮やかな日々を、僕はこれからも歩きたい。

 たまにだけでいい。こんな日々を目指すためならば、僕は毎日頑張れる気がする。

 前に向かって、努力して進みだせる気がした。

 空っぽだった自分に、少しだけ希望を注ぎ込める気がしたんだ。


「……ハルは、やっぱり凄いなぁ」


「え?」


 ミライが僕のことを凄い、って言った?


「ありがとう。約束しよ」


 ミライも布団から手を差し出した。

 僕たちは、小指と小指を絡めて、約束をする。

 ミライの小指は冷たかった。その小指を温めてあげるように、僕はしっかり、小指で包み込んだ。


「ゆーびきった」


 小声で僕が言う。

 小指を離そうと思った。

 けど、ミライが小指に力を入れたまま、放そうとしなかった。


 ミライの方を見る。顔まで布団に被さっていて、表情を見ることは出来なかった。

 指と指を繋いだまま離れない。


 ふと、今朝みた夢を思い出した。

 そう言えば、僕のお母さんにこうやって安心させてもらってたんだっけ。


 少し躊躇する。

 でも、何故か。今なら一歩大胆な事もできちゃう気がした。


 ミライの手を両手で、そっと握ってみる。

 ビクッと、少しミライが驚いたように震えた。

 でも、嫌がったりすることなく、逆にその手は脱力するように力が抜けていく。


 僕はミライの手をしっかり包み込んだ。

 そして、大丈夫、大丈夫。と、ミライに聞こえるか分からないくらいの声で、言い続けた。


 何も根拠のない大丈夫、だけど。

 それでも、少なくとも僕はミライを孤独にさせないつもりだ。

 大丈夫、きっと、大丈夫。



 ミライの方から、寝息が聞こえてきた。

 僕も眠りにつこう。

 ミライの手は解かないように、少しだけ自分の布団をミライの方に近づけて。


 手を握って、大丈夫だよ、と唱えながら。


 僕もミライと共に、深い眠りに落ちていくのだった。

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