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異世界で世界に影響を与えて、通販をしよう!  作者: ナスカ
第一章 異世界生活の始まり
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第六話 帰還

「リューヤ」


 夜明けにはまだ少し時間がある頃に、寝ずの番をしていたリューヤにソフィアが話しかけてきた。


「ソフィア、もう起きたのか。

 夜明けまでもう少し時間があるから、まだ寝てても大丈夫だよ」


「ううん、そうじゃなくて交代しようって。

 このままだと私がずっと寝ててリューヤは完全な徹夜になっちゃうでしょ」


 そう、この夜、リューヤはまだ一睡もしていない。貧血状態になるほど出血したソフィアを充分に休ませたかったからだ。


「私に気を使ってくれるのは嬉しいよ。

 でも、逆に心苦しくもあるの。

 私はリューヤと対等のパートナーでありたいのであって、

 庇護されて当然の存在になりたいわけじゃないから」


 正面から真っ直ぐ目を見据えてくるソフィアに隆也は一言も返せない。


「それに徹夜明けで街まで歩いていける?

 途中までは獣道だし、そんなの体力が持たないよ。

 私は充分に回復したから、今度は隆也が出発までの間少しでも眠って回復しておいて」


 もはや隆也に反論の余地は無かった。


「分かったよ。

 夜明けまで休ませて貰う…」


 隆也は座った体制のまま眠りについた。


 背にある大木に身を預けてはいるが、横にならずに眠ってしまった。


「やっぱり疲れてたんだね。

 お休み、リューヤ」




 隆也が眠りについて一時間も経っただろうか。


「リューヤ、起きてる?

 お~い、起きてますか、寝てますよね~」


 言葉自体は呼びかけだが、眠っている隆也が聞きとれる筈など無い小声でソフィアが声を掛ける。

 隆也がしっかりと眠っている事を確信したソフィアは並んで座っていたが更に体を寄せる。


「さっきは怒鳴ってごめんね。

 だって恥ずかしかったんだもの。

 でも本当に怒ってるわけじゃないのよ。

 リューヤにだったら、ね」


 隆也に話しかける言葉をとっているが、独り言に他ならない。


 ソフィアは更に言葉を続ける。


「私はリューヤとパーティーが組めてよかったよ。

 申し込んだ時は断られるのが怖かった。

 でもお試し期間でも受けてくれて嬉しかった。

 それから本契約(?)になるのに私がどれだけ必死だったか知らないでしょう?」


 ソフィアは10日程前の事を微笑みながら話している。本当にいい思い出に昇華されているのだろう。

「これからも、ずっと、ずっとよろしくね。

 私の傍にいて。その代わりにリューヤが危ない時には私が守ってみせる」


 口にはしていなかったがソフィアはずっとこの気持ちを抱いていた。だからジャイアントグリスリーの討伐で左肩を砕かれながらも隆也を助けに入った。


「・・・よ、リューヤ」


 この言葉は隆也だけでなく誰にも聞き取れないほどの小声だった。


 そしてソフィアは隆也の顔に自らの顔を寄せ、その頬に軽く、しかし確実にキスをした。


「寝込んでなければ唇にしてあげたかもね♡」


 そもそも寝込んでいる事を確認してから話しかけたにも拘らず、寝込んでいなければも無いだろう。


 だからソフィアの本心なのか、揶揄いの言葉なのか、本人以外に誰も知る由も無かった。


「さてと…」


 ソフィアはおもむろに立ち上がる。


 二人が野営している場所から見える直ぐ近くに泉があった。


 その泉の畔にまでソフィアは移動する。少しだけ隆也から離れる事になるが、目の届く範囲である事と、天然動物避けの『ジャイアントグリスリーの毛皮』があるので安心だと思っての行動だった。


 泉の畔に立ったソフィアは服を脱ぎ始めた。


 下着姿になったソフィアは自分の体に視線を落とし

『やっぱり…」


 自分の体が自らの血液でべったりと汚れていることを確認した。服に染み出す程の流血なので当然と言えば当然だった。しかもそれは上半身どころか太腿のにまで至っている。一応、既に乾いてはいるのだが…。


 それを確認したソフィアは下着も脱ぎ捨てて、生まれたままの姿になった。


 月明りを受けて、神々しいまでの美しさを放っている。


 そして手で掬った泉の水を体に浴びる。


「ふう…」


 ひんやりとした水を心地よく感じながら、持っていたタオルの様な布で体を拭い、乾いた血の跡を落としていく。


 ソフィアがそうしている時に、

「んん…」

隆也が目を覚ました。やはり完全に熟睡していた訳ではなかったのだ。


 寝ぼけた頭で周りを見回し、状況を思い出しているだんだんと内に意識がクリアになっていく。だが一番重要な存在、ソフィアの姿が見えない。


「え、ソフィア?」


 隆也の頭は一瞬で覚醒した。


 ”パシャ”


 そんな時に水音が聞こえた。


 隆也は慌ててその水音がした方へ足を向けると…。


 そこには全裸で、微かに朝日を浴びながら水浴びをしているソフィアの姿があった。


 その姿はソフィアの体に着いた水滴が朝日を反射して、芸術的絵画を思わせる美しさだった。


「・・・」


 隆也はその美しさに目を奪われ呆然とその姿を眺めていた。


 ソフィアは油断していたがやはり武の心得がある。隆也はソフィアの斜め後ろからその姿を眺めていたのだがその気配を感じ取った。


 しかし気配だけではまさか隆也とは思わず、臭いに鈍い野生動物の類かと思った。


 ソフィアがその気配の主を仕留めようと振り返ると、そこには呆然と自分を眺めている隆也。しかも先ほどまでは後ろ姿で、今は振り返った為、全裸の正面姿を隆也の前に晒してしまった。


「え…」

「あ…」


 隆也もそこで今の状況の悪さを理解した。


「ご、ごめんっ!」


 慌ててソフィアに背を向けてその場から離れようとした。


 しかし後ろから投げられた槍が隆也の頭のすぐ傍を通過した。その槍は木に突き刺さり、威力の余波で微かに震えている。まるで怒りに震えているかの如く。


 隆也は振り返らずに”降参”を告げる様に両手を上に挙げた。




 正座して俯く隆也の前で服を着たソフィアは仁王立ちしている。


 その表情は正に怒り心頭といった表現がピッタリと当て嵌まる、と思っていたら、突如として悲しげな女性の表情に変わった。そのソフィアの表情だけでも罪悪感に襲われる隆也だが、更に

「穢された…」

 ”グサッ”

「信じていたのに…」

 ”グサッ”

「私の恥ずかしい姿をじっくりと…」

 ”グサッ”

「覗くなんて…」

 ”グサッ”

ソフィアの一言一言が隆也の心に突き刺さる。


「も、もう勘弁してください…」


 隆也の罪悪感を的確に突いてくる精神攻撃により

 ”もう勘弁してあげて、隆也の生命力は0よ”

な状態になったので、ソフィアも矛を収めることにした。


 そもそも見張りをしなければならない時に全裸で水浴びをしていたソフィアにも非があるのだが、やはり女性の全裸姿を除いた事実は大きい。


「もう、リューヤのスケベ」


 ソフィアもその一言で〆ることにした。




 さて日も上り始めたので二人も帰り支度を始める事にする。


 朝食は”ショップ”を使って買った菓子パンを食べると、またもやソフィアは感激する。この世界でも、特に女性は甘い物が好きな人が多いようだ。


 そして昨夜の食事と菓子パンの包装紙だが、これをこの場に捨てて帰るのは元々が日本人の隆也の倫理観が許さない。《精神強化》はモラルと云うか行儀破りには作用しない様である。


 だがスマホもどきに何時の間にか”ゴミ袋”が追加されていた。これをタップすると本当にゴミ袋が出てくる。ただしゴミ袋に入れる事が出来るのは”ショップ”で買った物のパッケージ等のゴミのみ。そしてそれをスマホもどきに商品の収納の要領でいれる事が出来、そうするとゴミ袋はからになり取り戻す事は出来ない。間違って買った物を捨てたら大変だが、取り敢えず、ゴミといえどもこの世界においては未知の物質なので処分は必要だった。


 ゴミに次いでキャンプの調理器具なども収納する。どうやらこれは洗浄をやっておいてくれるので、次に取り出すときには新品同然になっている様だ。


 それとドロップアイテムだが大型魔獣の毛皮なのでかなりの大きさになっている。だから綺麗に折りたたみリュックの様に背負って持ち帰る事にした。


 そんな風に後片付けをしている時、ふと焚火の後始末をする為に前屈みでいるソフィアの後ろ姿が目に入った。


 尻を軽く突き出したような姿勢につい、先ほど目にしたソフィアの全裸姿を思い出してしまう。


 巨乳とまではいかなくても充分並み以上の大きさで形の綺麗な胸、細く括れた腰、大き過ぎず綺麗な線を描いている尻、ムッチリ感は無くても引き締まった脚線美を誇る足、まだ熟した女性の色気は足りないが瑞々しい健康美に溢れていた。


 そんな事をついつい考えていたら

「この槍でリューヤの頭をぶん殴って、物理的に記憶を消去してみましょうか?」

何時の間にか背後に回っていたソフィアが槍を振りかぶって物騒なことを囁いてきた。


 それにしてもソフィアは本当に隆也の考えていることが読めるのでは?




 さて、帰還準備も終わり帰還の途に就いた隆也たちだったが、まったくと言っていいほど魔獣や野生動物には遭遇しない。目的地に向かう時には僅かながらでも遭遇はあった。ただその時は無用な体力の消耗や不慮の怪我を避ける為、追い払う事に専念していた。しかしこの帰り道ではそれすらも必要ないほどスムーズに歩を進める事が出来た。やはり隆也に背負われているドラップアイテム『ジャイアントグリスリーの毛皮』の効力だろう。


 二人は予想よりも早い時間に街に戻ってくる事が出来た。


 冒険者ギルドに入ると聞こえよがしに

「けっ、雑魚狩り専門のお越しだ」

「ふん、冒険者のマナーも守れない若造がっ!」

と悪態とも取れる事を囁きあっている声が聞こえてくる。


 隆也たちはその声を無視してカウンターへ戦利品である魔石とドロップアイテムを差し出した。


 すると受付嬢は驚いた声で

「これはジャイアントグリスリーの魔石ですか?

 それにこのドロップアイテムは『ジャイアントグリスリーの毛皮』ですか?」


 その声がギルドに響き渡ると

「え、嘘だろ?」

「マジかよ…」

信じられないと言いたげな声が上がるが、受付嬢が鑑定をして戻ってきて

「ジャイアントグリスリーの魔石が15万ギル、

 ドロップアイテム『ジャイアントグリスリーの毛皮』が50万ギルです」

そう言うと、疑念の声は歓声に変わった。


 因みにドロップアイテムがここまで高額になるのは、目安として10頭に1個と言われるドロップアイテムだが、そもそもギルドの総数でもジャイアントグリスリーが10頭討伐されるには数年はかかる。めぐりあわせによっては10年以上でない場合もある。そんな経緯があるからこその値段だった。


そして隆也とソフィアは宿屋のそれぞれの部屋に戻ると泥の様に眠るのだった。




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