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9.婚約しました

 その後ゾイドさんは早い方がいいと、その日のうちに私の後見人であるパリフィリア伯爵家の当主との面会を取り付け、騎士の正装に着替えた後、一度寮に着替えに戻った私を迎えに来た。

 

 そして二人で伯爵邸に着くと、すぐに当主のベランド様と夫人のシンシア様に私と結婚を前提としたお付き合いをしたいこと、ゾイド様のおうちである伯爵家にも既に話は通していて、了解を取っていることも併せて伝えた。


 いつの間にという感じだったけど、さっき着替えに戻った時に、家にいた両親を捕まえて話をしたら、反対がないどころか、ゾイドさんが私を好きだということは家族皆に知れ渡っていたらしく、むしろ遅かったぐらいだと言われたそうだ。


 そして、ベランド様とシンシア様にも、ゾイドさんの家の面々と同様の反応をされた。


 こちらに帰ってご飯を一緒に食べてる時、その度に、乙女の顔でゾイドさんとの旅の思い出話をしていたらしく、二人にも私の気持ちはバレバレで、すぐに賛成してもらえた。

 なんなら気の早いゾイドさんのお父様から、もしかしたらうちの息子が……となんとなくお話があったそうで、あっという間に外堀が埋まってしまった。 


 細かい内容等を含めた話し合いは後日ということになり、私とゾイドさんは告白し合ってからわずか数時間で、はれて婚約者となったのだった。


 あまりの展開の早さに……というか、私とゾイドさんの気持ちが周囲にもろバレってあたりが恥ずかしすぎる。

 ルイジスさんも知っていそうな感じだったし、ということは、旅を共にした面々や他の騎士団の人にも知られていても不思議じゃない。

 絶対に団長たちに死ぬほどいじられる……とゾイドさんは頭を抱えていたけど、それは私も同じだった。


 なぜなら、翌日。


 登校すると、私のデートのことを知る友人──のみならず、大通りでの告白シーンにたまたま遭遇した複数の生徒により思った以上に話が広まっていて、私はすぐにたくさんの生徒に囲まれた。


 そして、あの告白が成功して昨日のうちに婚約者になったことを話したが、それ以外にもいつから好きだったかとかどこが良かったのかとかなど洗いざらいぶちまけさせられる羽目になり、夕方にはほぼ全ての学園の関係者が知るところとなった。


 教室ではクラスメイトから、廊下では違う学年の生徒や先生から、カフェテリアに行けばご飯をよそってくれるおばちゃんや、校務員のおじいちゃんに守衛のおじさんと、出会う人に声をかけられ生暖かい視線を送られ、昨日から精神的な蓄積ダメージもあって寮に戻ってきた時には着替えもせずにそのままベッドに飛び込んだ。


 いや、みんなが祝福してくれるのは嬉しいけど、何の羞恥プレイだよこれ……。


 誰にもなびかなかった私を陥落させたゾイドさんのどこが好きなのかを可能な限り挙げさせられた時、さすがに肩から腕にかけての盛り上がった筋肉のラインによだれが垂れそうなほどのときめきを感じるから、と正直に言うわけにはいかず、たくましい肉体が素敵、とだけに留めたけど。

 でも、色々と疲れはしたが、みんなにおめでとうと祝福してもらうのは素直に嬉しい。


 それに、私に婚約者ができたことによって、攻略対象者だった赤と銀の人に変化があった。


 お昼休みに私のところにやってきて、ちょっと身構えたけど、おめでとうということと、自分達もこれから別の人を探すということを伝えたかったらしい。

 考えてみれば赤と銀の人は、無理やり気持ちを押し付けてくることもなかったし、少し悲しそうな顔だったけど、君の幸せを祈ってる、とも言ってくれた。

 彼らならすぐにいい人が見つかるだろう。というか、勝手に寄ってくるに違いない。

 銀の髪の中性的なイケメンのリチャード様はウィリアム殿下の弟君、赤の髪の野性味溢れるイケメンのギルバート様は、王族の警護を任される近衛騎士団の団長の息子だ。

 そんな、地位もあってイケメンな優良物件がフリーなのだ。

 現に別の人を探す、と彼らの口から出た瞬間、周囲で耳をそばだてていた女子生徒たちの目がギラリと肉食獣のそれに変わっていたから。


 まあ、例の青髪のウィーン・バレスチア様だけは、遠くから私の方を睨みつけていたけど。

 裏切られたと言わんばかりに憎悪の炎を眼鏡の奥に揺らめかせた彼に、いやいや、そもそも私あなたが好きとか言っていないし、むしろずっと誘い断ってたんだからそんな目で見られる覚えはないとか思うところは色々あったが、こればっかりは気にしないようにするしかない。


 とにかく、私はめでたくゾイドさんと結ばれることができたのだ。


 結婚はおそらく私が卒業してからになるだろうと言われていて、この学園は二年制なので少なくとも恋人として楽しめる期間が一年半はある。


 今月は、挨拶やら何やらで忙しいけれど、来月になったら週末にデートに行ったりできそうだ。

 この前、レイチェル様に選んでもらった服、全部買っていてよかった。

 だけど髪の毛では苦戦したから、ちゃんとできるように準備しておかないと。


 そう思って起き上がった私は、それから数日は髪のアレンジ練習に費やすことになった。


 そして週末は、私の方からご挨拶の為、ゾイドさんのおうちに向かうことになった。


 私のことは好意的に思っているから大丈夫だよ、とゾイドさんには言ってもらっていたけど、さすがに緊張する。


「やあやあ、よく来てくれたね。君と会うのを、私も家族も楽しみにしていたんだよ!」


 満面の笑みで私を出迎えてくれた現当主のデイモン様をはじめとした伯爵家の男性陣は皆、大柄で体つきもがっちりしていて、ゾイドさんのガタイの良さは、鍛錬だけでなく遺伝もあったんだと知る。


 逆に奥さんのシリル様はものすごく小柄で、日本でも小さい方だった私と同じくらいだ。

 しかも男の子を三人産んだとは思えないほど若くて、とても可憐な女性だった。


 こうして見ると、ゾイドさんの体つきはデイモン様に、顔はシリル様に似ている。


 皆と話していると、すっかり体のこわばりも解けて、特にシリル様は私をすごく気に入ってくれて、またお茶しましょうと次に会う約束を取り付けたほどだ。


 それから数日後に、両伯爵家で私達の婚約についての書面を交わし、正式に受理されると同時に、王家から国民に向けて私とゾイドさんの婚約が大々的に発表された。


 結婚式は、私が救国の聖女ということもあって国を挙げて行われるらしい。

 パレードとかするんだと。浄化の旅の最後に一度経験済みだし、恥ずかしすぎる渾身の告白シーンも公衆の面前で繰り広げたこともあり、もうどんとこいである。


 それが終わればゾイドさんの伯爵家が管理する屋敷の一つに二人で移り住む。

 屋敷っていってもそこまで大きい物じゃなくて、それでも二人で暮らすには十分すぎるくらい広い。


 自分のことはなるべく自分でやりたいと私が言ったから、家事手伝いの為の通いのメイドを一人だけ雇うことにした。

 掃除くらいは別にいいんだけど、私は料理の腕が壊滅的だから非常に助かる。

 

 日本ではカレーを作ったら生臭いサラサラの液体しか生成されなかったし、こっちでも野営でご飯作りを手伝ったら、焼き魚は焼け過ぎた何かに、トマトスープは紫色の何かになった。

 それでも、私が作ったからと食べたゾイドさんは、顔がスープと同じ色になって倒れ、あの時はまだ聖女だったからすぐに治して事なきを得たという苦い思い出がある。


 以降は犠牲者を出さないために私が料理に携わることはなくなり、私もその方がいいと思った。


 だけどメイドさんがいない時はどうしようか。もう治癒の力は使えないと悩んでいたら、俺が作りますよ、とゾイドさんはどんと厚い胸板を叩いた。

 そういえば旅でも調理は主にゾイドさんの担当で、大して材料を調達できなかった時も、自前のスパイスとか使って美味しく作ってくれたっけ。


 となるとだ。


 結婚してから、ぶっちゃけ私のすることがない。

 家の掃除もそんなに時間がかからなそうだし、庭をいじるっていうのもそこまで興味がない。貴族令嬢の嗜みである刺繍は料理同様ひどいもので、試しに友人に見せたら、あなたは聖女で刺繍をする必要はないからと遠回しに諦めた方がいいと言われる始末。


 なら市井に出てご飯屋さんでウェイトレスしたりはと思ったけど、ゾイドさんに全力で却下された。目の届かない範囲にいたら、何かあった時に助けられないと。

 浄化の旅じゃないんだし街中で危険なんてそうそうないんじゃって口に出したら、


「あなたを狙う輩の数の多さを舐めないでください」


 と真面目な顔で言われた。


 いやいやそれは私の台詞じゃないだろうか。


「ゾイドさんの方こそカッコ良すぎて歩いていたらみんな見てるじゃないですか!」


 けれど私の反論は即座に否定された。


「俺は単に体が他の人よりもでかいから目につくってだけです。それより、歩いている人が見ているのはむしろアイ様の方なんですよ!? この前のデートの時だって、何回俺が牽制したか」


 全然気付かなかった。


 その後私がいかに無自覚で無防備なのかをこんこんと説かれ────。

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