とことんやります
パーティー会場の扉がバーンと大きな音を立て開かれると、待ちかねていたように街で手配した音楽隊がラッパを吹き鳴らした。
者ども!主役が来たわよ!
長く引きずるドレスの裾をメイドに持たせて、現れたアドリシアの姿に会場にいた誰もが唖然とした。
宝石が散りばめられたドレスはシャンデリアの光でキラキラ輝き、首には見たことがないような大きな宝石がつらなった首飾り、両腕にも宝石で埋め尽くされた腕輪、全指にもこれでもかという指輪。
頭には細やかな造形の宝石のティアラ、そしてベールにも砕いた宝石が散りばめられていた。
ふふふ、呆気にとられているわね。
総額でここの領地の1年の税収入なんて軽く超えるのよ。これが私の価値よ。よーく見んしゃい。
ズカズカ歩いて行くと、前方にポカンと口を開けて呆気にとられているルドウィクの姿があった。
グッハッ!!
髪なんか上げちゃって、パーティー用に身なりを整えたら格好良さが倍倍倍倍増っ!!
眼福の極みっ!!
こんなんに話しかけるの、現実世界だったら絶対無理だけど、夢の中だしね。向こうにとっちゃ私なんてどぶ魚みたいなもんよ。気後れなんてしないで、恥はかき捨て。じゃんじゃん恥かいていきましょうか。夢の中でくらい、はっちゃけていかないとね。
「ふふっ、私の眩さに目が眩まんばかりのようね」
私の言葉で我に返ったようにルドウィクはハッとした。
「ええ、まあ物理的にもそうですね…。着飾るなんてものでなく、アドリシア嬢が宝石になったかと思いましたよ」
「あら、私が宝石ですって?当然よ。私はこの世に生まれた輝かしい宝なの」
ゴージャスの塊なの。こんな贅沢が許される唯一無二の存在なの。
でもね…………重いの!!実はこれめちゃくちゃ重いの!!ドレスは30キロはありそうな鎖かたびらのようにズッシリだし、首飾りなんて石の塊ぶら下げてるみたいだし、腕輪足輪なんて、重くて手足上がんなくなってきてんだけど!!ティアラも重ければ、鎖かたびらベールも重くて首がもげそうよ!!
筋トレしてんじゃないのよ!?これ外すと真の力が解放されるわけ!?ギャーもう無理っ!
「あの………汗が凄いんですが大丈夫ですか?」
さすがのルドウィクも異変に気づき、心配して声をかけてきた。
「これが大丈夫に見えるなら目がイカれてるわよ!あーっ!重ーいっ!」
アドリシアはティアラとベールをつかむと、それをカーペットへと投げつける。それから、首飾りに腕輪に指輪と次から次へに外していった。
ゴトン、ゴトンと重量級の音を立て、身が軽くなっていく。
「ぷはーっ!軽い!生き返ったー!」
見栄のために体を張ってしまうとは、ちょっと頑張り過ぎてしまったわね。
こんなことしなくても、アドリシアは私とは違って、その身1つで美しくはあるんだから。
艶やかで腰までの長いうす紫の髪、宝石のような濃い紫の瞳、艶やかな唇、冷たい表情だけれど圧倒的な美人。それがアドリシアなのだから。
「拾って部屋に戻しておいてちょうだい」
メイドにそう言うと、アドリシアは奥へと進み、手前にいた侍従の男から音声拡声器の魔道具、つまりマイクのような物をもぎ取ると壇上へと上がっていった。
この世界はオーラだとか魔法が存在する、何でもありな世界でもあるのだ。
「えー、みんな揃ってるわね」
壇上の上から、集まった人々に目をやる。
てか、テーブルの料理がギチギチに溢れんばかりに重なるように乗せられている。廊下にもテーブルが置かれ、会場に入りきらない料理がわんさか乗せられてたな。
ちょっと頼み過ぎちゃったかも。余りはタッパー入れて持ち帰ってもらわなきゃ。
「はーい、みなさん!世界のアドリシア・ゴルディックがベルシエ公爵邸に来たわよー!」
けれど、会場はシーンと恐ろしいくらいに静まり返っていた。
「こら返事っ!!何らかの反応みせなさいよね!私をもてはやしなさいっ!ご覧の通り私は何だってできるのよ!公爵邸のよそ者だなんて軽んじたら、あんたらに明日は来ないからね!分かったの!?」
すると、返事の代わりのようにパラパラと拍手が起こり、皆互いの顔を見ながらその拍手は大きくなって会場を埋め尽くした。
「ふん、最初からそうしなさいよね!まあ、これからよろしくって事で、これは私からの餞別よ!」
アドリシアはメイドが差し出した袋を受け取ると、その中に手を突っ込んだ。
「さあ、者ども!!受け取りなさいっ!!」
袋からバサっと投げたのは、金、銀、銅貨だ。
使用人の者達は一瞬愕然としたものの、あたり一面に散らばった貨幣に、一斉にそれらを拾いに群がった。
「オーッホホホ!さあ、奥の方にも!!」
アドリシアの健腕で、遠くにも投げると、そこにも使用人がワッと集まる。
「挨拶代わりの総額4000万ジェムよ!ご満足頂けたかしら!?」
あー、やりたい放題楽し〜っ!!こんなの現実世界じゃ、絶対にできないからね!そんな金あったら堅実にマンション買ってるわ!
「アドリシア嬢!」
楽しい気分に水を差すような、怒りを含んだ声がした。ルドウィクだ。
「あなたの金銭感覚は一体どうなってるんですか?彫刻やら、絵画、置物、カーペットに他にも置ききれないほど届くし、料理だって余り過ぎてるし、金はばら撒くしもう滅茶苦茶ですよ」
怒っている顔すらも美しいな。いろんな顔のバリエーションが見れて、怒らせるのもいいかもしれない。
「なっ……何故ニヤニヤするんです?ちゃんと聞いてるんですか?」
「聞いてるわよ〜。金はあるから使うのよ。こんなのゴルディック家の財力をもってすれば、屁でもないの。金がある者が使い経済を回していく!それの何がおかしくって!?」
「屁って……」
「この期に屋敷の中を一新すればいいじゃない!料理だって持ち帰って明日の家族の朝食にすればいいでしょ!でも食中毒には気をつけてよね!」
「近くなのに拡声器ででかい声出さないでもらえますか!?」
眉をしかめるルドウィクの嫌そうな顔に、何だかさらに意地悪したくなってきた。
「嫌よ!私はやりたいようにやるの!誰の指図もうけないわ!ホホホホホッ!」
「だいぶ頭がやられてるな………」
私の声に重なった、小さな小さなルドウィクのぼやき。でもね、私地獄耳なのよ。
「なーんですってー!?今なんつったー!?」
「あっ…………」
さすがにマズかったとルドウィクも、慌てたような顔で固まる。
あんた紳士なんでしょー?それがこんな初対面に近い本人前にして速攻ボヤくなんて我慢が足りないんじゃないのー?私だって腹立つ客や同僚がいたって、近くでボヤかないわよ。いや、同僚には直接言うか。
「ちょっとさぁー………」
「に……兄様……」
幼い子供の声がしたのはそんな時だった。




