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酔っ払い

夜も更けて、人々が眠りにつくような時間にもかかわらず、庭園のテラスには灯りが灯っていて、そこのテーブルに1人肘をついてウトウトとしている女性がいた。


そんな女性へと1つの影が近づく。


「アドリシア、こんな所でいつまでも飲んでないでもう寝たらどうですか?」


ルドウィクはテーブルの上の何本も空になった酒の空き瓶を見た。

今日もグラスはない。酒を直接飲む直飲みスタイルとか言って、瓶に口をつけゴクゴクと勢いよく飲む様には唖然としてしまい小言すら出なかった。

呆れも通り越して、ため息にしかならないだらしなさだ。


メイドにアドリシア様がいつまでも戻らないので、どうしたらいいか助けを求められたので来てみれば酷い状態だな。


アドリシアはぼんやりとしていたが、不意にハッとしたようにルドウィクを見た。


「あっら〜、ルドウィクじゃないの!いつ来たの!?まあ、座りなさいよ!」


アドリシアは顔も上気して完全な酔っ払いの顔をしている。いつも以上に絡まれそうだな。


「夜は寒くなりますよ。部屋に戻って寝ましょう」

「一杯つきあいなさいよ、ほらほら〜」


そう言いながら、アドリシアは笑顔で瓶を突き出してきた。


「嫌ですよ。でも、一杯つきあえば戻るならつきあいます」

「戻る戻る〜」


拒否しても彼女が素直に言うことを聞かないのは明白なので、妥協して交換条件を出すのが最善と最近分かってきた。

彼女の欲求を満たしながら言うことをきかせる。俺もアドリシアの扱い方がだいぶ分かってきたものだ。


ルドウィクは椅子に座ると、アドリシアから瓶を受け取った。

行儀は悪いが、平民の男はこういった飲み方もするし、戦場ではよく見た光景だった。限られた物資の中、グラスをいちいち用意させるのも手間で自分もそうして飲んでいたこともある。


けれど貴族令嬢のこの姿はいただけないな………。

夜空を仰ぐように瓶を掲げてぐびぐびと飲んでいるアドリシアの姿に、ルドウィクは苦笑するしかなかった。


そんなアドリシアが突如瓶を叩きつけるようにテーブルに置いた。


なんてマナーの悪さだ。

一言言ってやろうと口を開きかけたが、それよりも早くアドリシアが畳みかけてきた。


「あのさぁ、私今日ポリオンの街に行ってきたんだけどさぁ、何なのあの現状は!?」

「ポリオンへ………?」


ドキッとした。急に領地の話などされるとは思っていなかったから。


「納める税の額も通常近くに戻しましたし、役場に対策をねってもらってるので、叔父の暴政をしてた時よりは良くなりましたよ。ですが、アドリシアの実家の領地のように華やかで交易の中心として栄えるまではいきません」

「栄えてるとかそういう問題じゃなくて、ホームレスとかあぶれて街中にかなりいるあの現状は何なのさ?まずは人道支援じゃないの?」

「ホ……ホームレス?」

「ああ、浮浪者ってことよ。子供がボロを着て薄汚れて、あんな痩せ細ってさ、お恵みを待ってる姿見たら私もう涙が止まらなくなっちゃってさあ」

「そうですか…………」


耳の痛い話しだ。がむしゃらに動いているものの、それが正解なのかも分からず、空回りしているだけで俺は結局は何も救えてはいないのかもしれない。


「そうですかだぁ?ちょっとルドウィク!」


突如アドリシアはテーブルを力いっぱい叩きながら立ち上がった。


「他人事かこの野郎!?誰が悪いって、あんたよ!!あんたが全部悪い!!叔父がした事だろうが、任せたあんが全責任をとるのよ!!そこちゃんと分かってんの!!?」


怒りのこもった瞳で睨みつけられルドウィクは言葉を失くす。言い返す言葉なんて何もない。全部本当のことだ。


アドリシアが向けてくる本気の感情に、ルドウィクは真っ直ぐ向き合えずに力なく視線を下に落とした。

何も成せていない不甲斐ない俺に彼女が怒るのは無理もない。

俺だって自分がこんな無力な男だなんて思ってもみなかった。戦いでは負けなしの英雄と呼ばれ、そんな自分を誇りに思っていた。それだけの価値のある男だと信じていたのに、帰郷して全てが変わった。


叔父の裏切りに多額の負債、領地の金も使い込まれ残ったものが殆どない状態からのスタートに、ただただ戸惑うばかりで、模索しながら進んでいっても自信なんてなくて、まるで泥沼を這うようだった。

自信もプライドもへし折られ、自分が情けない無能な男に思えて、惨めな気持ちにもなった。


こんな歳下の女性にまで見下げられ、それでも言い返す言葉さえない。


だが、顔をあげられない自分にかけられたのは追い討ちの言葉ではなかった。


「やだっ!ちょっとなんて顔してんのよ!?も〜、私が虐めたみたいじゃない!やめてよ〜!」


アドリシアはテーブルをバンバンと叩きながら椅子に座ると、そのまま顔を手で覆って泣き始めた。


「そうよね、私が意地悪だったわ。本当は知ってたのに。平静を装ってたって、あんたがどうしようもなく悩んで苦しんで不安で追いつめられてるって」


声を上げて泣き始めたアドリシアに、ルドウィクはポカンとする。

先程まで怒っていたのに、急に泣き始めた……。


「だってあんた24でしょ。まだペーペーの新人社員に、負債を全部どうにかしろなんて押しつけられたら絶望ものよね。どうすればいいんだろ、なんてあったり前よ!こんな若者に分かるわけないっつーの!」


また興奮してきたぞ………。


「頼りになるはずのベテランの姉さん先輩は何にも教えてくれないしね!勝手にどうにかなるでしょなんて、酷すぎる〜!鬼ーっ!」


どんな情緒してるんだ。酷い酒癖だな。


「アドリシア、そのくらいにして部屋に戻りましょう。俺は確かに若輩者だけれど、あなたよりは歳上だし、心配していただかなくても時間をかけてどうにかしてみせますよ」


一応これは心配してくれてるんだよな。

歳下の彼女から見ても俺は頼りなく見えてるんだな………。


だが、アドリシアはまた酒をグビッと飲むと、頭を支えるように肘をついてこちらを見てきた。


「私さ、夢を見んのよ。ここではない別の世界で37年間生きてきた夢をさ」

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