仲直り
全ての面子がそろった。
ドレスの戦闘服を着込んで、向かい合った視線には早くも火花散が散る。
視線を逸らすことなく、じっとガン見してくるレハルトに、こちらも収まっていた苛立ちが再燃してきた。
こんにゃろ、会うなり敵視してきたわね。やる気満々ね。いいわよ、受けて立つわ。
だが、私を睨むように見ていたレハルトを、ルドウィクが肘でドンと突いた。
それにより、レハルトはハッとする。
「あっ……………」
それからレハルトは気まずそうに、私、アドリシアを見た。
「その……アドリシア嬢、先入観で失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
ん?これはまた……どういうこと?もしかして、ルドウィクが何か言ったとか?
でもそれで素直に言うことをきく奴かしら?言わされてるだけかもしれないわね。
「どうゆう魂胆かしら?思ってもない謝罪ならなさらないで、言いたいことを言えばいいじゃない。それこそ男らしくね」
「あまり挑発しないでください。もともと気の長い方ではありませんので」
「まぁ、まるでそれが私のせいのようにおっしゃるのね。短気なのはご自分のせいでしょうに」
やっぱりやる気ね。いいわ、かかってきなさい。
だが、再度ルドウィクに肘ドンをされ、レハルトはそれ以上何も言わずに、気まずそうな顔で席についた。
ふむ。ルドウィクは私を守ろうとしているようね。
いつもはお小言ばかりでうるさい男だけど、その姿勢は合格ね。
ニヤッと笑ったアドリシアのドレスの裾を、不意にセディがつかむ。
「どうしたの?セディたん」
「あ、あの……、兄様のお客様なので、喧嘩しないでくださいね」
目をキラキラに輝かせて、うったえかけるようにじっと見られたら、もう破壊力は絶大だ。
ギャー、可愛いっ!滅茶苦茶可愛いっ!こんな可愛い子供がいていいのだろうか!?いや、よくない!セディたんはきっと天使に違いない!
「喧嘩なんかしてないわよ。私たち今仲直りしたの。ルドウィクの友達は私の友達よ。だからもうすっかり仲良しなのよ」
レハルトに向かってウインクをしたら、レハルトは喜ぶどころか青ざめ顔を引きつらせた。
ちょっとー。愛想良くしたんだから、応えなさいよね。
そんなアドリシアの手をセディがギュッと握る。
そして、私を見て嬉しそうに、はにかむように笑ったセディたんの顔。
うっ!産みたい!!子供を産んだことなんてないけど、私がセディたんをこの世に産み出したかった!!
「さあ、2人とも席について」
ルドウィクの声で、ようやく我に返りアドリシアはセディと共に席についた。
セディたんも心配していることだし、そこからは当たり障りなく、ルドウィクとレハルトの歓談を聞きつつ、邪魔しないように務め、穏やかな時間が過ぎていった。
パクパクと食べる健やかなセディたんの姿を見ているだけで、荒んだ心が癒されていく。
レハルトのことなんかもどうだっていい。どうせ私には関係のないくだらない男よ。もう1人の登場人物である皇太子だってそう。
ルドウィクという接点はあっても、みんな悪女アドリシアのことなんて眼中になく、話したこともないのに嫌っている。
誰も私のことなんて好きにならない。その方が気楽ではあるけどね。私にヒロインは務まらないもの。
「ルドウィク、皇室騎士団にもそろそろ顔を出してみたらどうだ?辞職でなく休職扱いにされてるから。お前はまだ団長だろ」
レハルトにそう言われ、ルドウィクは困ったような顔で視線を落とした。
「……俺は辞職させてくれと言ったんだ。公爵領がこんなありさまなのに、もう続けられない」
「ルドウィクはこの帝国の英雄だろ。お前以外に相応しい奴なんていない。その力を発揮せず、書類や雑務に埋もれてる毎日なんて勿体なすぎるだろ」
レハルトは熱く語っているが、雑談の時の笑みさえ浮かんでたルドウィクとはうって変わって、今は表情を固くしていた。
やっぱり気の利かない男ね。
ルドウィクがやらなきゃ、他に誰がこの公爵領を立て直すのよ?あんた?それならルドウィクも任せて復帰できるんだから、無責任なこと言うならそれくらいやりなさいよ。
「シュナードもルドウィクに会いたがってたぞ。ルドウィクにしか出来ないことがあるんだ。誰かに任せるとかできないのか?」
叔父に任せてたら、こんなんなりましたけど〜。
結局はレハルトも貴族のお坊ちゃんなのよね。家業や財産を引き継ぎ、継続はできるけど、それを1から発展させる大変さは知らない。
ルドウィクの叔父さんもそう。実力のないチャレンジャーだから、無謀な事業をいくつも立ち上げポシャって大失敗で大借金よ。
「シュナードもルドウィクの力になりたがってる。俺たちに出来ることがあったら、何でも言ってくれ」
シュナードねぇ……。
3人目の登場人物、シュナード・シムセ・ゴルドニア。ルドウィクの1つ下で、第2皇子であるが、とても優秀なバランス型で皇太子となり、今回の戦争にも参戦し功績を上げ、その地位を不動のものにしている男だ。
好きな人と結婚すると豪語していて、戦争によりストップしていた嫁探しを再開し、定期的に開かれる舞踏会には貴族令嬢たちが完全武装による隙のない戦闘態勢で挑んでいると有名だ。
3人の中では、1番平凡なイケメン顔で、性格も明るく人懐っこい、いわゆる陽キャラだ。チャラいともいう。私とは合わないキャラね。
まあ、経営の素人のあんたらにできるのは、ルドウィクに金をあげることだけよ。
「同情だけなら無料よね。それを偽善とも言う」
ぼそっと呟くと、すぐにレハルトが睨んできたが、ニッコリと笑い返すと、悔しそうな顔はしたが、言い返してくることはなかった。
でも、何もしていないのは私も同じ。
ただストーリーが進むのを待って傍観しているだけ。
だって、こんな世界、現実じゃないんだもの。
それなのに、暗く沈むルドウィクの表情を見ていたら、何だか無性に気持ちがもやもやとして落ち着かなくなった。
ルドウィクが苦しんでるのもストーリー通りだし、最後はそれなりに上手くいくから、それでいいでしょ。私は夢でくらい楽しんでいたいし、わざわざ苦労はしたくないし、干渉もしたくない。
ストーリーの通りに進んで、後は少し早く退散するだけ。何も間違ってないわよ。
そうよ、これがストーリー通りなんだから………。




