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愚痴

客間の一室にて、レハルトは苛々としながらドカッとソファに座ると、小刻みに足を動かした。


「何なんだ、あの女は!?腹が立つのは、こっちの方だ!あーっクソッ!」


レハルトは髪をぐしゃぐしゃと手でかき乱し、目の前のテーブルをバンバンと叩いた。

その様子を向かいのソファに座りながら、ルドウィクは苦笑して見ている。


「でも、あれはレハルトが悪かった。先入観で最初から嫌悪感をあらわにして、紳士の対応ではなかった」

「先入観も何もその通りの女だったぞ!何が坊やだ、歳下のくせに偉そうに!」


レハルトは悔しそうにまたテーブルをバンバンと叩く。


「レハルトの態度が悪かったからだろ。普段はアドリシアもああじゃないんだ。久しぶりに悪女モードを見たし」

「あんな女の肩を持つつもりか!?どうかしてる。ルドウィク!お前虐げられて喜ぶ性癖でもあるのか!?」


言葉にしてからハッとし、レハルトは気まずそうな表情をうかべた。


「……すまない、失言だ。八つ当たりした」

「いや、いい。俺も最初はアドリシアには腹が立ったから気持ちは分かる。けど、一緒に過ごしてみて分かったんだ」


ルドウィクは室内に2人しかいないのに、警戒するように周囲に視線を配る。


「ここだけの話だ。誰にも言うなよ」

「何だよ、勿体ぶって。早く言え」

「アドリシアは悪女の仮面をかぶっているだけで、本当はちょっとイカれた変態なのかもしれないんだ」

「は………?」


思いもよらないルドウィクの言葉に、レハルトは怪訝な顔でルドウィクを見た。

けれど、ルドウィクはふざけている風でもなく、いたって真剣な顔をしている。


「かもしれないじゃない、変態なんだ。変なのを隠すため、自分を守る為に攻撃を受けると、ああやって悪女モードでやり返すんだ。上手いこと使い分けてるから、誰も彼女が本当は変態だなんて疑わない。本当の姿を隠す為の、偽りの姿が悪女だなんて思わないだろ」

「ちょっと待て。変態って、あのアドリシア嬢がか?いくら何でもそれは………」

「いや本当に変態なんだ。よく人のことスケッチしてるけど、もうニヤニヤ、ニタニタ瞬きもしないで見続けて、気にしない振りしてるけど実は鳥肌が立ってるんだ。丸裸にされてるような、視姦されてる気分になる。おまけに描いてるのは、ひたすらに鼻だけびっしりとか、目だけとか輪郭とか尻とか、とにかく執着めいた執念を感じるんだ」

「お、おい、落ち着けって」


だが、ルドウィクは止まらない勢いで更に続けた。


「おまけにとてもだらし無いんだ。浮浪者のような服を着てあちこち徘徊してるし、昼とか軽食でいいとか言って背中を丸めただらしない姿勢でパンにかじりつきながら夢中で書き物してたり、そのまま外のベンチで口を開けて寝てたりするんだぞ」

「そ……そうか」

「一見どこの浮浪者が紛れ込んできたのかと目を疑うぞ。本人は高級ジャージとか言ってるけどな。それに昨日なんて、寝起きのままウロウロしてて、髪はボサボサ、目やにはついてるし、ヨダレの跡はそのままで酷すぎる。家でぐらいくつろがせてよって、家だって身だしなみは必要だろう。注意してたら、あなたは私のお母さんなの?って、それからは何言ってもお母さん呼ばわりして、あいつは本当にどうしようもないんだ」


まくしたてるルドウィクをレハルトは唖然として見た。そんなレハルトにも気づかずにルドウィクは興奮ぎみに話し続ける。


「そのくせ夜の晩餐では着飾ってマナーだって完璧で、あいつは分かってて使い分けててるんだ。馬鹿じゃなく頭はそれなりにいい。駄目だけなら再教育してやりたいのに、私やる時はちゃんとやるからとか言ってだらし無い放題して、見たくもないその姿を見させられ続けるなんて本当にすごく苦痛だ」

「思ってたのと違う苦労をしてたんだな……。それで、結婚後はやっていけそうなのか?」


結婚はもう避けられないから、するしかないだろうが、学友として長く見てきたルドウィクはいつも冷静で取り乱した姿など見たことがなかった。


その彼が不満をあらわに興奮して愚痴りまくっている。今からこれでは、結婚後はどうなるんだろうと、心配になってしまう。


「それはどうにかなると思っている。彼女は子供は好きみたいだからな。それまでの過程は全く想像もできないが、子供がいてそれなりの家庭になっている未来は想像できる」

「へぇ、子供好きか。意外だな」

「弟のセディのことをとても可愛いがってくれているんだ。最初は警戒していたセディも、あまりに可愛いがってくれるから今ではすっかり懐いてるし」


それはいい事なのだろうが、語るルドウィクの表情は何故かかたい。


「あまりの溺愛っぷりに、小児性愛者なんじゃないかと疑ったくらいだ。俺のことなんて、この外見にしか興味はないくせに、セディには全力の愛を注いでいるんだ。この俺相手なのに」

「は?」

「こんなこと自分で言うのも何だけど、これまでの人生老若男女誰もが俺に見惚れて、意識して特別な感情を抱いてきたんだ」

「お前………それ自分で言うか」

「でも、事実だろ。それが自意識過剰とアドリシアに罵られ、喋れば鬱陶しいお母さん呼ばわりであしらわれるし、そのくせセディにはデレデレで、あなたの為なら何でもしてあげると言ってるし、子供好きどころかもはや愛してるんじゃないのか?」

「はあ?ただの子供好きだろ。大げさじゃないのか?自分よりも優先するからって愛って、そんな…………」


どうゆう意味で愚痴ってるんだ?まさか、自分には見向きもしないのに、弟にはラブラブだから不満なのか………?


頭を抱え、ブツブツと文句を言っているルドウィクを見ていたら、可笑しくなってきてレハルトはブッと吹き出してしまった。


そんなレハルトを不服そうにルドウィクが睨む。


「なんで笑う?」

「自分に見向きもしないのは小児性愛者だなんて、とんだ自惚れ野郎だと思ってな」

「そんな事言ってないだろ」

「そうゆう旨の事は言ってた」


可笑しいな。

万人に愛される美しい美貌を持ち、誰に左右されることなく、冷静で芯の強い自分を保ち、更には戦争の英雄にまでなった実力の持ち主である、皆の憧れのルドウィクのこんな姿を見れる日がくるとはな。


アドリシア嬢を噂通りの偏見の目で見てしまっていたのは確かだ。彼女を怒らせたのも当然で、男として不甲斐ない失態だった。


これからは自分の目でしっかりと確かめなくてはな。ルドウィクの言う彼女の真の姿とやらも気になるしな。

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