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異世界にてやりました

「アドリシア様宛ての書簡が届いております」


メイドに手渡された大きめの書簡が私の運命を変えた。



その中身の手紙を手に持ったまま、アドリシアは小刻みに震える。


毛がぶわぁと逆立つような、血が沸き立つような、アドレナリンが大量に分泌されているような気がした。


きた………。私の時代がきたーっっ!!!


歓喜のあまり手がブルブルと震えた。

そこに書かれてあったのは、パネラという女性の本が増版に継ぐ増版により、売り上げが右肩上がりになってるという内容と金額だった。


このパネラ、何を隠そう私のことだ。

アドリシアとして目を覚まし、ここに来るまでの4か月ただ遊んでた訳ではない。

最初の1か月こそ遊んで暮らしていたけれど、向こうでもやっぱり何もすることがないのは飽きてしまっていた。


本も読んでいたけれど、私の好きなジャンルのやつもないし、今ひとつ夢中になれなかった。

ほら、腐女子の好きな男と男のあれなやつよ。あーゆうのを見つつ、男女の大恋愛の本を見てれば心のつりあいがとれるんだけどね。

恋愛から長く遠のいてしまった私としては、大恋愛みたいなものは夢物語だし、羨ましいとも思わないし、そうなりたいとか憧れもしない。現実的な恋愛はむしろプレッシャーだ。

でも、少女漫画的なキュンは大好き。キュンキュン胸をときめかせて、〝ぎゃー悶え死ぬ〜〟ってのたうちまわりたい。

私の好みはそんなのだけれど、この世界ではそれはなかった。そこで、自作小説を作成して楽しんでみたのだ。

それだけで飽きたらず、ゴルディック家の持つ、全国チェーンのような書籍関連の会社をゴネて父親から譲り受け、コネによる脅迫で偽名にてそれらを書籍化させたのだ。

だって夢でしょ。夢なら盛大にやりたいようにやらなきゃってね。舞台は整っていたしさ。


BLは問題作として話題になると思っていたのよね。ソフトBLだけど、こんな破廉恥で男を蔑めるけしからんもの書いたのは誰だーってね。

それが騒がれないから不思議に思ってたのよ。

それなのにこの出版部数!!どうゆう事!?じわじわ火がついたの!?騒ぎにもなってないし、シークレットなの!?よっぽど書店で上手いこと隠しながら売ってくれたのね!感謝っ!!


アドリシアは部屋を飛び出すと、一目散に走り出す。


この抑えきれない興奮をどうしたらいいの!?叫びたい!とにかくシャウトしたい!カラオケで喉が潰れるまで、歌い叫びたい!!





午後の静かな昼下がり。


ルドウィクは書類の束を片づけながら、一息をつくと、大きく伸びをした。

それから、窓の外をぼんやり眺めた。


とても穏やかだ。戦場とはまるで違う空間と時間がながれている。

書類仕事は大変で、体を動かしている方が自分には性に合っているけれど、やらなくてはいけない義務だ。ベルシエ公爵家の領地を守らなくてはいけないのだから、苦手どうこうという話ではない。

戦争により、税の徴収が増えたのは帝国民の義務であったけれど、それに加え叔父の酷い増税政策と事業失敗により、領地は潤うことなく、補償や手当も滞り、家や店を失った者、失業者で溢れ厳しい状況だ。


領地の者達を思うと、こんな穏やかな空間で仕事をしていることが申し訳ない。街の治安を守る警備兵にでも志願したいところだが、じゃあ、この書類、決済を誰が片づける?となる。

財源に関わる最終判断をするので、これを俺が投げだしたら、もう誰もの信頼も得られなくなるだろう。

1度叔父に任せて失敗したのだ。もう2度目はない。


「少し休憩をはさまれてはいかがですか?」


アルバートが声をかけてくれたが、ルドウィクは首を横に振る。


「いや、もう少し続ける」


自分を甘やかしてはいられない。


そんな時だった。執務室の扉がノックされたのは。

アルバートが声をかけると、扉が開き、侍従の男が気まずそうに顔を覗かせた。


「どうした?」


そう声をかけると、侍従の男は、躊躇いながら話し始めた。


「あの…………アドリシア様が高台の塔の上で叫ばれているんですが」

「は?………ああ。登ったものの怖くて降りられなくなったのか」

「いえ、そんな感じではなく、思いの丈を吼えているといった感じで生き生きとしてるんですが………」

「は?」


それはどうゆう状況だ?

何の問題もないのなら、別に放っておいてもいいんだろうけど………。一体どんな心理状態であれば、そんな事するんだ?


「………まぁ、叫びたい時もあるんだろう。放っておけ」


その言葉を聞き、侍従の男は〝分かりました〟と頭を下げて戻っていった。

従者としては、客人の奇行に対しても無視はできず、対応しなくてはいけないから、主に判断を委ねに来たのだ。

今は客人扱いだけれど、もう少し経てば、奥様になるのだから侍従の者達も苦労しそうだな。


「叫びたい時もあるって、どんな時ですか」


ぷっとアルバートが吹き出して笑う。


「彼女はとても感情豊かだからな。叫ぶくらいしても、何らおかしくはない」

「そりゃそうですけど。ルドウィク様も、叫ぶのが普通みたいに言って、アドリシア様にすっかり慣れてしまいましたね」

「別に慣れてない」


ルドウィクは椅子から立ち上がると、窓辺へと向かい、施錠を開け窓を開いた。


静かだった室内に外の音が飛び込んでくる。


「………確かに声が聞こえるな」


何を言ってるかは分からないけれど、遠くで叫んでるような声は聞こえてきた。


「大きい声ですね。どれだけ出せばこんな響くんだか。奥様って一応淑女教育受けてるんですよね?」

「まだ奥様じゃない」

「すぐそうなりますよ。本人だって、ベルシエ家に押しかけてきた時点でそのつもりですよね」


アルバートの言う通りだけれど、式も上げてないうちから奥様呼ばわりでは、早くも公認のようで嫌だ。


声は聞こえど、姿は見えないアドリシア嬢。

彼女に関しては驚く事ばかりだったけど、今や叫ぶくらいじゃ驚かないくらいには慣れた。


自由人。それでいて、きっと淑女教育は受けていて身の振り方を知っている。その上でやりやすいように悪女の振りをし、誰に遠慮することもなく自身の持つ権力、力を振るっているのだ。

イカれた思考の持ち主だけれど、頭はいいのだ。

公爵夫人になって、淑女として振る舞えなくても彼女は悪女のように切り抜けていくだろう。

だから、心配はしていない。


耳をすませば、聞こえてくる声にルドウィクは呆れながらも口もとに笑みをうかべた。


よく恥ずかしげもなく叫べるなと呆れるし、理解は全くできない。

こんな手のつけられない女が俺の妻になるんだ。

もはや笑うしかないだろう。

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