30. お見通し
30. お見通し
その日の夜。ボクは勉強をしていて、ふと葵ちゃんのことを思い出す。今日の葵ちゃんはいつも以上に可愛いかった。そしてそれ以上に……どことなく積極的だったと思う。
あのリップグロスを塗ってくれた時も……まるでキスを待っているかのようだったし……もしボクがもっと積極的になってみたらどうなんだろう……?
そんなことを考えるけど、正直言ってどうしていいか分からない。そもそも『白井雪姫』になっている、ボクが積極的なことをしていいのかも分からないし……
……勉強が手につかない。気分転換でもしよう!ボクはそう思い、部屋を出てリビングに向かう。するとそこには……莉桜姉さんがいた。
「あら優輝。お腹空いちゃった?」
「あっいや……ちょっと勉強してたから……」
「偉いわね。じゃあ甘~いコーヒーでも飲む?」
「うん……お願い」
莉桜姉さんは微笑むとキッチンへ向かう。そしてしばらくしてボクの前にホットミルクとコーヒーが置かれる。
「熱いから気をつけなさいね。そういえば……噂の彼女とは上手くやってる?デート楽しい?」
「かっ彼女!?いや葵ちゃんは彼女じゃなくて……友達だよ!それにデートじゃなくて……一緒に遊んでるだけだし……」
「ふふ。女の子と2人きりで遊びに出かけるなら、それはデートでしょ?」
「でも!ボクは女装してるし……」
「だったらあなたからしたら……デートなんじゃないの?」
そんなことを言われると急に意識してしまう。そうだ……ボクは葵ちゃんと2人で何度も遊びに出かけてる。つまり……デートってことだよね?そう思うと顔が熱くなってしまう。何も言い返せない……
「ふふ。可愛いわね優輝は」
「かっからかわないでよ!」
莉桜姉さんはからかうように笑っている。そしてマグカップを手に取るとゆっくりと口に運ぶ。コーヒーのほろ苦い香りが漂ってくる。ボクは思わずその香りに引き寄せられるように、ホットミルクに口をつける。すると優しい甘さが口の中に広がり、ホッとするような感じになる。うん!美味しい!
「どう?美味しい?」
「うん……ありがとう……」
「どういたしまして」
そう言って微笑む莉桜姉さんを見て思う。莉桜姉さんはやっぱり大人なんだなって……だからボクは素直に聞くことにする。
「ねぇ莉桜姉さん……」
「なに?どうしたの?」
「その……どうしたら葵ちゃんと仲良くなれるのかな……?ボクは……女装してるし……どう接していいかわからなくて……」
すると莉桜姉さんは優しく微笑むとゆっくりとボクの頭を撫でてくれる。その優しい手つきに思わずドキッとしてしてしまう。そして莉桜姉さんは口を開く。
「難しく考えなくてもいいのよ?あなたはそのままのあなたでいればいいの」
「ボクのまま?」
「そう。優輝のままでいなさい。そうすれば自然と彼女も本音を話してくれるはずよ」
「本音か……」
そうだ……ボクは女装している『白井雪姫』だけど、ボクはボクでいればいい。今はそれだけでいいんだ!そう思うと気持ちが楽になったような気がする。
「ねぇ莉桜姉さん」
「ん?なぁに?」
「ありがとう……」
すると莉桜姉さんは優しく微笑んでくれた。その笑顔を見ると安心すると同時に嬉しくなるんだ。やっぱり……莉桜姉さんはボクのこと何でもお見通しなんだなって思う。




