29. 誘惑されちゃった?
29. 誘惑されちゃった?
週末。ボクはいつものように葵ちゃんとカフェデート中だ。でも今日はいつもとちょっと違う。それは……葵ちゃんがいつもと違うから。
今日の服装はいつものような可愛い感じの服じゃなくて、大人っぽい感じのワンピースを着ている。しかもメイクもしていて髪も少し巻いていたりする。いつもとはイメージがガラッと変わって、それでもめちゃくちゃ可愛い。
するとボクの視線に気付いたのか葵ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしている。
「ねぇ雪姫ちゃん。やっぱり私……変かな?」
「そんなことないよ!すごく似合っているし……」
ボクがそう言うと葵ちゃんは嬉しそうに微笑む。その笑顔が可愛くて、思わずドキッとしてしまう。
「ありがとう雪姫ちゃん」
「うん……」
そんな会話をしながらカフェでお茶をする。でも……今日の葵ちゃんを見て思ったことがある。それは……ボクは葵ちゃんのことをまだ全然知らないってこと。だからもっと知りたいと思うし、ボクのことも知って欲しいって思うんだ。
「葵ちゃんは大人っぽいのも似合うんだね。いつもの可愛い感じのもいいけど、今日の葵ちゃんも可愛いと思うよ」
「そっそうかな?」
「うん。いつもと違うし……どうかしたの?」
「えっと……そのね……」
そう言って葵ちゃんは少し恥ずかしそうにしながら、ゆっくりと話し始める。
「雪姫ちゃんと一緒にいるから少しでも大人っぽく見せたくて……」
「……え?」
「あのね?私……ずっと思ってたんだ。雪姫ちゃんにつりあうような女の子になりたいって。ほら雪姫ちゃんは年上でしょ?」
「1つしか変わらないけど……?」
「でも私は高校生だし。雪姫ちゃんはもう大人じゃん。それに私ね……今までで1番恋してるかも……本当に、雪姫ちゃんのことが知りたいし、雪姫ちゃんが喜ぶことしたいって色々考えてるんだよ?」
葵ちゃんそれはズルいよ……確かにボクは葵ちゃんよりも1つ年上……の設定だ。法律上は18歳だから成人。でも正直……葵ちゃんがそんな風に思ってくれてるなんて知らなかったし、そのことが嬉しかった。
「ねぇ雪姫ちゃん。少しでも私に誘惑されちゃった?w」
「えっ!?」
そう言って悪戯っぽく笑う葵ちゃん。でもボクはそんな葵ちゃんの笑顔を見て、思わずドキッとしてしまう。だって……本当に可愛いから。
それからしばらくカフェでゆっくりした後、帰り道を歩く。今日の葵ちゃんはいつも以上に可愛くて……だからなのかボクは緊張してしまっている。そんなボクの心境を察してか、葵ちゃんもいつもより大人しい感じがする。でも会話はちゃんとあるし、手も繋いでいる。
ただいつもと違うのは、お互いに無言な時間が多いことくらいかな?でもその沈黙すら心地いいと思ってしまう。
「あ。雪姫ちゃん。ちょっとあそこのお店寄ってもいい?」
「いいよ」
そう言ってボク達はコスメショップに入る。葵ちゃんは何かを探しているようで、店内をウロウロしている。その後ろ姿を見ていると本当に可愛いなと思ってしまう。すると突然葵ちゃんが振り向いてボクに話しかけてくる。
「雪姫ちゃん!ちょっと来て?」
「うん……」
ボクは言われるがままに葵ちゃんの所へ行く。そして葵ちゃんはリップグロスのテスターを手に取っている。
「これ新作だって。雪姫ちゃんは大人しいお姉さんって感じだから、この色とか似合うんじゃないかな?ちょっと塗ってもいい?」
「えっ?」
そう言って葵ちゃんは手に取ったリップグロスをボクの唇に塗ってくる。そして少し間をあけてボクから離れる。すると葵ちゃんは満足そうに微笑む。
「うん!可愛いよ!やっぱり私の目に狂いはなかったね!」
「あ……ありがと……」
正直言ってめちゃくちゃ恥ずかしいし照れるんだけど……でもそれ以上に……葵ちゃんの手がボクの唇に……そう思うと、不思議と恥ずかしさより嬉しさの方が勝っていた。
「私はどれが似合うと思う?」
「葵ちゃんは……これとか似合いそう……」
「じゃあ……私にも塗ってほしいかな……ダメ?」
「えっ!?いや……その……うん」
葵ちゃんの唇に目がいってしまう。少し唇を付き出した……まるで……キスを待っているような……いや!何考えてるんだボクは!?これはただのリップグロスだってば!ボクは必死に邪念を振り払い、葵ちゃんの唇に塗っていく。
「んっ……」
葵ちゃんが軽く声を出す。ただそれだけなのに妙に艶めかしくてドキドキしてしまう。やめて葵ちゃん!それはボクには刺激が強すぎるよ!
そして塗り終わると、葵ちゃんは嬉しそうに微笑む。
「どうかな?」
「可愛いよ葵ちゃん。すごく似合うよ!」
「ありがと雪姫ちゃん!じゃあ……せっかくだから買っちゃおうかな?」
そんな可愛い笑顔をされると、思わずドキッとしてしまう。もっとこの笑顔を見たいと思うような……そんな笑顔だった。