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あのあと無事に負の者討伐を完了し、負の者の心臓も回収できた。ちなみに負の者の心臓は鉱石のようなもので様々なところで使われている。
たまに思うけど……まるでドロップアイテムのようだ。倒したら現れる。それから負の者の進化の過程もそう。私たち特魔力者が負の者の進化に必要な素材だとしたら……負の者たちからすると周回クエストのようなものかもしれない。そう考えると負の者たちが主人公側で、特魔力者が敵側だろう。
そんなことを思いながら長い通路を歩いていると、見知った顔に声をかけられる。
「あら! イリスじゃない。久しぶりね!」
「久しぶり。元気にしてた?」
「元気よ! でも今は数秒前よりもっと元気! だってイリスに会えたんだもの!」
にっこりと可愛らしい笑みを浮かべる男性は、私の大切な友人。名前はアルヴァード・シンジュ・リーグル。愛称はアンジュ。討伐隊にも引けをとらない肉体美を持っていて、顔は二枚目。心は乙女な可愛らしい人だ。職業は聖なる者。様々な加護や守りに特化している。
「あ、でもイリスがここにいるってことは囮をやったのね。怪我はしてない? 大丈夫?」
「大丈夫だったわ。無傷」
「それならよかったわ。でも無茶は駄目よ。あなたが傷ついたら私が悲しむし引っ付いて離れてあげないんだから」
「アンジュが悲しむのは困るわ。だって私、あなたの笑顔が好きなんだもの。だから傷つかないように気をつけるわ」
「そうよ。私の笑顔のために気をつけて。それにあなたが傷ついたら悲しむのは私だけじゃないのよ。誰より彼が悲しむし黙ってないわ」
アンジュの視線が私の後ろへ移るのを追って振り返る。するとアスレイがこちらに向かって歩いてきていた。
私が彼の名を口にする前に、ぴゅんっと飛んでくる小さなハート。それが頬にぐいぐいと刺さる。刺さると言っても先のほうではなく、丸みがあるほうだけど。
とりあえず頬に刺さるハートを掴んで包むように持つと、ずっしりとした重さが伝わってくる。
「……」
持てないわけではないけれど、手と腕のことを考えると長時間は持っていられない感じ。
じっとハートを見ていると、ハートから小さなハートたちがふわふわと溢れ出てくる。そしてそのハートたちがまた私の頬に刺さるようにぴったりとくっつく。
「イリス、すまない。思わず出、た……すごい量が出てるな」
駆け寄ってきたアスレイがスンッとした顔が言う。そして私の頬にくっついているハートを取っていく。
「重い……」
「それを自分で言っちゃうのね」
「リーグルか。久しぶりだな」
「ええ、久しぶり。元気そうね。安心したわ」
「リーグルも変わらず元気そうでよかった」
「それにしても、それはそんなに重いの? ココロは自分の身が大切なら持つことを考えるなって言われてるけど」
「ハートの形のは持てるくらいの重さよ。ただ長時間は難しいかもしれないわね」
「そうなのね。私も持ってみたいんだけど触ってもいいかしら?」
アンジュのその問いかけにアスレイが持っていたハートを渡す。そしてハートを持ったアンジュは目をカッと見開いて「おっも……いわね」と野太い声から通常の声に戻りながら言っていた。
「この小ささでこんなに重いってことは、イリスが持ってるそっちはもっと重いんじゃないの?」
「アンジュが持っているハートよりは重さがあるけど、そこまで違わないわよ」
「……グレイヴ。重いわよ」
「知ってる」
「ねえ、あなたの想いがイリスを傷つけたりしないでしょうね? この重さは物理的に危ないわよ」
「大丈夫だ。俺の想いはイリスを傷つけたりしない」
はっきりとそう言い切ったアスレイをアンジュは心なしか疑いの目で見て、それから私を見た。
「大丈夫よ。アスレイの想いが私に触れるときは、柔らかくなったり持てるくらいの重さになるから。それに温かくて優しいのよ」
「でもさっき食い込みを越えて刺さってたわよ」
「痛くはないのよ。刺さってても」
言っている最中にアスレイからまたハートが飛び出て、私にくっつく。
「グレイヴ……」
「勝手に出るんだ。それに、これでも最近はコントロールできるようになってきた」
「ホント、特異体質よねえ……でもこのままじゃイリスがハートで埋もれるわ」
「っ……!」
二人が話している間にさっきアスレイから出たハートが増え続け、次々に私へとくっついていた。呼吸はできるし、二人のことも見えるけど……口元は塞がれて声が出せなくなっていて体も重くなってきているので気づいてもらえてよかった。
アスレイ。驚いてるけど、またハートが出てるわ。