勇者ルカ2
「はっ……!」
ルカは目を覚ました。
「え……」
見える天井に呆然としてしまう。耳が痛むほど静かに、白いそこには様々な色の光が踊っていた。視線を横に移動すると、光源となったステンドグラスの窓がある。
「教、会……?」
そうとしか思えなかった。いったいなぜ自分はこんなところにいるのだろう。体のあちこちに痛みがあり、剣を握っていた右腕には包帯が巻かれていた。
「誰が……」
「よかった、お目覚めになりましたのね」
「……君は?」
くらくらとめまいがする。
そこにいたのは清純を絵に描いたようなシスターだった。自分はもう天の国にいるのではないかと疑う。
「わたくしはアンシー。シシビアから来たシスターです。あなた様が倒れているのを見つけて……」
「……!」
ルカは我を取り戻して起き上がった。
「他のっ、他の人たちは!?」
「……」
痛みも忘れた必死の問いかけに、アンシーは静かに首を振った。ルカは思わず彼女の肩をつかもうとして動きを止めた。
あまりにも細い体だったためだ。背も低く、少女のようだ。そんな彼女にいったい何を押し付けるつもりなのだと冷静になった。
「申し訳ありません。もっと早くに来ていれば、どなたかを助けることもできたかもしれません」
「……いや、君のせいじゃない……だが……なぜ、俺は……」
思い出された魔物の姿に、ぐっと拳を握る。
何がどうなったかもわからない。だが、自分はあの魔物に負けたのだろう。それがどうして、自分ばかりが生き延びているのか。
「……光が見えたのです」
「光?」
「あなた様の体を包むように、清々しい光でした。……きっとあなた様は、神に生きることを望まれたのですわ」
「馬鹿な!」
ルカは寝かされていた寝台に拳を叩きつけた。教会の床、戸板に布を巻いただけの簡易的な寝台だ。教会の内部は荒れ果て、燃えた痕が残り、このようなものしかなかったのだろう。
「この教会も、ここだけが燃え尽きず残っていたのです。神の加護は確かにあると、わたくしは信じます。ただそれが、すべての人々に届き得ないだけなのです」
「よりによってこの俺を、だと!? 俺より強い冒険者もいた! 俺より人々に愛されるものもいた! なぜ、なぜこの俺が……!」
「あなただからです!」
「……っ!」
叫ぶように言ったアンシーが、ぎゅっとルカの拳を握った。痛みに痺れた拳に、じわりとぬくもりが染み込んでくる。
「俺、だから……」
「あなただからです。だからどうか、生きてくださいませ。……でなければわたくしは、誰ひとり救えなかった無能でしかないのです」
「シスター……」
「生きてください、どうか……どうか」
うつむいた小さな背中が震えている。健気な少女の願いを無視することは、ルカにはできなかった。
しかし呆然と、思う。
(生きてどうするのだ?)
すべて失った。すべて守れなかった。こんなにも空虚で力のない自分が、何のために生きればいいのだろう。
「あなた様にはやるべきことがあるはずです!」
アンシーが言う。
やるべきこと。ルカにはひとつしか思いつかなかった。胸に火が灯る。
「俺にやるべきことがあるとすれば……」
もはや決して消えない火だ。
「許さない! 必ず……あの魔物を、この町の人々の仇を討つ……!」




