勇者ルカ9
魔王の力はあまりにも強大で、ルカは勝機のかけらさえ感じたことがない。
それでも諦めるわけにはいかない。魔王。魔物の王。それがかつて己の住む町を、人々を焼いた。だからこそ。
(倒さねばならない。俺が)
きっとそれが運命なのだ。
決められていたこと、神に望まれていることだ。ルカはそう信じ、そうであれば必ず叶うと信じている。
(俺は死なない)
神の加護があるから。
(俺は魔王を倒す)
だから倒れても倒れても倒れても諦めることはない。ルカの体は疲労し心は擦り切れていくが、芯はいつでも真っ直ぐに立っていた。いや、疲れ切っているからこそ、もはや思考などできる状態ではない。
ルカは自動人形のように魔王に挑むのみだ。
そのたび死を見、己が死なないことを知る。死なない。魔王を倒す。絶望はそれまでの道のりがひどく遠いことだ。いつまでも終わらないページをめくり続ける。季節がどれだけ変わってもルカは、四肢を動かし魔王に立ち向かった。
死を間近にするたび強くなる。
それでも届かない。
「ルカ様、傷が……」
「……ああ、うん、そうか」
アンシーの回復魔法でも、もはや痛みは消えなかった。あまりに常に痛むので、もはや自分が傷ついているのかもわからない。そんなルカを、アンシーは悲しげに見ている。
アンシーを見ると悲しくなるのはルカも同じだった。こうして自分についていれば、アンシーはいずれ魔王に殺されるかもしれない。あるいはアンシーも不死身なのだろうか。そう考えると、それもまた地獄である。
一度はアンシーを戦いに連れていくのをやめた。
だが、それを貫くことはできなかった。
「連れていってくださいませ、どうか。それがわたくしの運命なのです」
「……うん、そうか」
「ルカ様は、ひとりではないのです」
「…………そう、か」
アンシーの言葉にルカは泣いた。
ひとりでは無理だ。たとえ不死身の体を持とうとも、人の心はあまりに柔らかだった。どれだけ凍りつかせても、ぴしりぴしりとヒビが入る。支えてくれる相手を求めていた。
そして二人は魔王に立ち向かう。
互いに助け合い、寄りかかり、未来を信じた。




