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魔王、勇者というものを思い出す2

「で、どんな様子だ?」

 母子をいい感じに埋められたので、土を踏み均しながらソヒルに聞いた。

「えーっと、火が上がってるんで、魔素吸収もあらかた終わったんじゃないっすかね」

 村を襲う仕上げは火だ。そもそもこの小さな村を襲ったのは、ここが鍛冶師の里だからである。人間は人間だというだけで魔物の嫌悪の対象だが、鍛冶師となると二重の意味で滅ぼしたい。

 なぜかというと、人間は魔素を受け付けないくせ、装備品に閉じ込めて使用するのだ。それがこう、魔素でできた俺たちからするととてつもなく気持ち悪い。人間で言うとあれだ、頭蓋骨を茶碗にされているような気持ち悪さだ。

 なので鍛冶師は滅ぼしたいし、装備品は焼き尽くしてしまいたい。それなりの時間はかかるが、焼いて溶かせば魔素は抜け出していく。

「んじゃ、そろそろ観戦の時間か」

「もう始まってるっす」

「気が早いなあ」

 俺はいそいそと魔素を練り、背に集めて羽をつくった。前世の記憶があるとなんだか中二心をくすぐる。ちょっと恥ずかしいなあ。もちろん色は黒です。

 でも白は白で心をくすぐるものがあるし、ピンクとか黄色とかも、主張が激しいよなあ。

 どうでもいいことを考えながら、羽ばたいて上空に上がった。右腕ソヒルもそそっと肩に乗ってくる。なかなか図々しい。ひとりじゃつまんないので良いけど。

「お、やってんな!」

 すでにあちこちで砂埃を巻き上げ戦いが始まっていた。人間と魔物ではない、魔物同士の戦いだ。

 なにしろ魔素は奪うもの。

 にっくき人間がいなくなったら、同士討ちを始めるに決まっている。冷静に考えると馬鹿なことしてるなあ魔王軍。個体として人間より強いのに、人間を滅ぼせない理由ってこれじゃなかろうか。

 とはいえ普段はそれなりに落ち着いているのだ。大抵の魔物はどっかの上位の魔物の配下なので、勝手に食うとその上位のやつが魔素を取り返しに来る。襲撃の日だけが特別、新たな魔素を奪い合うという名目で、お祭りみたいなものである。

「さて、戦ってるのは……いち、にい、さん……三か所か? もうこんなに少ないのか」

 最初に人間の魔素にかじりついた小さな者共は、すでに上位の魔物に食われているだろう。いや、小さいだけに少しは逃げたかもしれない。まあ、とるにたらない話だ。

「あんたがのんびりしてるからっすよ」

 尊敬なんてものはないのが常だが、魔王様に「あんた」はひどい。俺はにこにこしてしまう。やっぱりこいつ、人間の中に放り込んで育ててよかったなあ。人間同士みたいな馴れ馴れしい会話じゃないか。

 ただこうやって育成してしまうと、食べるのがもったいなくなるのが困ったところだ。同じように育てても、なかなかこうはならない。だいたい生まれたてなんて人間のふりが下手だし弱いから、すぐ気づかれて狩られてしまう。多少育ってからだともう人間らしさなんて身につかない。

「ん?」

 ひときわ大きな振動を感じて、俺はそちらに視線を向けた。

「派手にやってるな。ええと……あのほっそいのは?」

 魔物が二体、取っ組み合って土埃を上げ木々をなぎ倒している。そのうちの片方、なんかにょろにょろしてるのを指して聞いた。

「蟲王ギルビートの配下かと」

 すぐにソヒルが答える。伝令係にしているので、魔物どものことにも詳しいのだ。優秀すぎる。

 俺の右腕なことは知られてるから、手を出すやつは基本的にはいない。基本的には。うっかりはどこにでもあるものだが、ソヒルは一見小物に見えるのも手伝ってか、どこに行かせても生き残っている。

「あー、蟲系な。とするとあの表面のギザギザは全部が脚ってことか?」

 魔王軍は俺の下に四天がいて、その下に大勢の配下がいる形だ。

 魔物は同種で集まりがちだ。蟲王ギルビートの下には蟲の形をした魔物が多く、海王パラーズィアの下には海の魔物たちがという具合だ。自分の配下を魔素からつくるとき、自分に似たものをつくりがちだし、違う形だと、できることに違いがあるので悪目立ちして食われやすいからだろう。

 魔王の俺としても同じようなのでまとまってくれていると助かる。ポセイドンは海を行けと命令しやすいからな。することあんまないけど。なにしろ魔素を取り合うもの同士、命令してもなかなか聞いてくれないんだよなあ、魔王軍つっても全然俺の持ち物じゃなさすぎる。

「あっちは?」

 にょろにょろギザギザに締め上げられながら、動きを止めない奴を指して聞く。表面が完全にボロボロになっているのだが、動きが止まる気配がない。

「死王グラウィドゥの配下かと」

「あー、なるほど。アンデッド系と蟲系の戦いか。どっちも手足がもげても知ったことじゃない感じが熱いな!」

 魔物なんて魔素があれば手足がとれても復活するが、そのぶんの魔素は失うし、戦闘中にのんびり再生するのも難しい。人間型などは足を失えば歩けないわけだから、欠損を避ける戦い方になるわけだ。

 一方、蟲は脚が大量にあるし、アンデッド系は魔物の中でも特殊である。あいつらの本体はエネルギー体みたいなもので、適当な肉体に取り憑いてから戦う。その肉体はもう生きていないので、多少壊れても知ったことではないのだ。

「いいねえ。いけいけ、そこだ!」

 防御を考えない前向きな戦いにエールを送ってやると、二匹を見守っていた周囲の魔物が動きを止めた。漁夫の利を狙っていたのだろうが、俺の不興をかうことを恐れたらしい。

 まあ、ぶっちゃけこれだけ傷ついた二匹に未来なんてなさそうだが、それだけにもはや意地の戦いだ。目の前のものを食らう、それだけ。いいよなあ、ひたむきで。この試合は最後まで見たいぞ。

「おお、ついにアンデッドが胴体を大きく食われ……たが、ねじ切れそうな勢いで蟲に噛み付いた! 蟲も噛み返し……うん? あれは……腐肉の毒素か! どうだ? 蟲には効くか、効かないか……蟲が倒れたー! 勝者、アンデッドの方!」

 俺が叫んだ瞬間、周囲の魔物たちが二匹に襲いかかった。が、それより早く、不吉な影がザザザザと音をたてて忍び寄る。

「これはこれは、死王グラウィドゥ殿じゃないか」

 正体の見えない闇が二匹を包み込み、はれたときには死王の他に誰の姿もない。

「超速で出てきたな。最近は魔素に困っているのか?」

 強い魔物になればなるほど、弱い魔物を直接襲うのは面倒がる。弱い魔物の魔素を体に入れたところで、すぐに消費されて終わりだ。一方で配下を強く育て、圧縮させた魔素を一気に体に取り入れれば、自分の存在を進化させることができる。

 さきほどの魔物程度のものなら、腹心の部下に与えて将来の特別な食事にしたほうがお得だろう。ましてこんな目立つ場所に出て、自分の手札を知らせることをするとは。

「ちょっと前に、そろそろ食べ頃だった腹心に逃げられたそうっすよ」

「あーりゃりゃ、お気の毒だなあ。それで少しでも魔素を稼いでおきたいのか」

 配下に逃げられると、手に入るはずだった魔素を失うのはもちろん、育ちすぎたその配下に自分が食われるはめになりかねない。

「あんなにわかりやすく焦ってたら、他に狙われそうだけどな。……死王がいなくなったら、次は何王だろうなあ」

「どうせまた死王じゃないっすか」

「あ、そういうつまらんことを言うなよな」

 などとだべりながら、まだ続いている魔物たちの魔素争奪戦を眺めた。いい気分だなあ、ポップコーンとか欲しい。食べないから気分だけだけど。

 俺の配下たちもがんばっているが、大物は動かない。ま、そうだな。乱戦は何が起こるかわからないから、強い魔物ほど嫌う。入り込む理由がない。あとでこっそり勝者を食ったほうがいい。

「よーし、解散!」

 そこそこに終了したのを確認して、俺はそう宣言した。すると一気に縄張りへの帰還を始める。そういうわけで、帰った先でまた食って食われてが発生するわけだ。




「はー、終わった終わった。祭りは楽しいが、やっぱり家なんだよなあ」

 インドア派の前世を思い出してからはなおさらである。

 我が城に到着して俺は長椅子に腰掛けた。前世を思い出す前から、俺の居住空間は人間が制作したもので溢れている。使い心地がいいんだよな。というか、魔物は家具など作ったりしないので、致し方ない。

 制作者はもれなく死んでいる。前世を思い出した今、それについては後悔している。人間なんていくらでもいると思っていたが、腕のいい職人は貴重だ。名が知れると魔物にさらわれるなんて噂になったら、技術力も上がらなくなってしまう。

 俺は大きく魔素を吸って呼吸した。

「思ったより留守は短かったみたいだな、魔素のたまり具合からして。……侵入者とかなかったよなあ?」

「キーッ!」

「それならいいんだけどな」

 警報代わりに残しておいた小魔物が何もなかったと主張するので、俺はひょいとそいつをつまんで食った。

「ギュェッ……キュ……」

「やっぱり盗み食いしてたな。こーいつぅ」

 叱っても消えてしまうので意味はない。ただの気分である。

「さぁて、くつろぐ前に一仕事しておこう」

 俺は魔素をねりねりして、小魔物を5百ばかり作った。小さいが飛ぶことに特化させたので、偵察の役目は果たせるだろう。

「各地の魔素溜まりの様子を見てこい」

「キィッ」

「キ」

「キキキキ!」

「あー、うるさいうるさい!」

 いくつか発声器官を持ってしまったらしいのをまとめてねりねりする。それを見た他のやつらは一目散に城の窓から飛び出していった。

「どのくらい戻るかなー」

 戻らないやつは食われている。逃げてしまうことはめったにない。

 あれだけ小さなやつらだと、他の魔物に食われるのは時間の問題だからだ。役目を果たして急いで俺のもとに戻るのがもっとも生存率が高い。損得など考えられない馬鹿でも、一番強いやつに従う本能くらいは持っている。

「ソヒル」

「……なんすか」

 存在感を消していたソヒルが嫌そうに答えた。ちょっと笑える。わかりやすいなあおまえ。

 魔王城はこの世界で最も魔素濃度の高い場所にある。それがゆえの魔王だ。この場所にいるだけで強くなれるというチートだ。

 俺が食い残したおこぼれだけでソヒルにとっては大きな栄養なわけで、できるだけ、ちょっとでもここにとどまっていたいのだ。魔王が曲がりなりにも魔王として崇められ、ご機嫌伺いされる理由でもある。

「ガブニア港の様子を見てこい。無期限。報告は三日に一度」

「……はあ。あのくらいの港、魔王様の手にかかれば」

「潰せるけどな、しないしない。まだ後ろから刺されたくないからな。行ってこい」

「……御意」

 俺は嫌そうなソヒルを笑って見送った。

 魔物の敵は魔物である。魔物が協力しあえば全人類を滅ぼせると思うが、残念ながら食えそうなやつを見かけるとすぐに同士討ちを始める。自分の身を守るためには、できるだけ魔素を消費しないことだ。

 なので人間の村を滅ぼしに行くときは、俺が指揮を取る必要がある。小魔物に食事のチャンスを与え、上位の魔物はみな魔素溜まりを離れることで、揃って損をしましょうということだ。人間を滅ぼしたい気持ちは皆あれど、そうでなければ上位のものほど動けない。

「だいたい人間を滅ぼしたいってのが変な話だよな」

 他種族を殺したくなるのは人間も同じだろう。それはいいが、まず同種族が敵だって状況で、そうなるか?

「こう、本能からくる感じなんだよなあ。やっぱり魔素が仕事してるよな、これ」

 我々を構成する魔素が人間を嫌っているのだ。

 それはそうだ。だって人間は魔素を受け付けない。のみならず、金属に魔素を練り込み固めてしまうことができる。打ち込まれた魔素は焼いて溶かすか、腐食させない限り再び取り出すことができない。

(おぞましい)

 と、俺の中の魔素が言っている。魔物というのはつまり魔素であり、これは魔素と人間との戦いなんだろう。


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