厄介事も勇者の仕事である
「魔王様、勇者はルーゼンスの町に着きましたよ」
そう言ったソヒルはなんだか疲れた顔だ。ぴちぴちの美少女だったはずが、いくぶん老いて影が見える。
それはそれで良いよなと俺は思った。人間は老いるものだし、元気でばかりもいられない。一期一会、いつでも新鮮な姿だ。
「それで、どうするんすか」
「ん?」
「こっからどこに行くんすか。今はまた厄介事に巻き込まれてますけど」
「厄介事というと?」
「町の有力者の家から宝石が盗まれて、使用人の娘が疑われてるんすけど、彼女が言うには魔物が盗んだと」
「ほうほう」
「で、信じてもらえずに牢屋行き。彼女の家族は彼女を信じている」
「わかった。ルカくんは魔物から宝石を取り戻すつもりなんだな!」
「はあ。まあ、そういうことっす」
ソヒルは「なんでそうなるのかわからない」という顔だ。まあ、そういうものだと理解してもらうしかない。そうなんだよなあ、勇者って。
面倒事に巻き込まれて、それを解決するんだよなあ。
うんうん、いいぞ。だいぶ勇者らしい。
「その魔物は強いのか?」
「あの地方にしては。勇者の力なら問題ないかと」
「小ボスくらいかな? で、勇者的にはそのあとどこ行くつもりとか言ってた?」
ルーゼンスは港町だ。多くの船が出ていて、他の大陸にも向かうことができる。勇者がより強い魔物を倒したいなら、いくつかの選択肢があった。
「聞いてないっすね。はっきりしない人なんで、まだ決めてないんじゃないっすか」
「あー。それはそれで勇者っぽいな」
流され、流されていくんだよなあ。あんまり強い意思があるとプレイヤーの気持ちと反してしまうかもしれないので、自然とそうなってしまうんだろう。
俺としてはありがたかった。現実もゲームも指示待ち人間だったので、どこでも行けるよってなると逆に困るんだよなあ。オープンワールドとかかなりの覚悟が必要だ。どこに行くべきか決めてほしい。
そんな俺が今では魔王ですよ。リーダー気質がなくてもやれてしまう魔王。
「まあ、ゲシュニ大陸がおすすめかな。死王くん弱ってるし。全体的に死霊系が多いから攻撃魔法が必須技能になってるのもいい。ちょっと魔法も使えるようになってほしいんだよな」
どうしても無理そうなら魔法使いを仲間にしてもいいが、ぶっちゃけ剣だけでは負ける気がしない。斬られればそこから魔素が漏れていくので、ノーダメージってことはないが、俺くらい魔素に溢れてるとそのくらいは誤差である。
両断されるとさすがにくっつけるのに時間がかかるが、高濃度の魔素が詰まった体なので、人間の力では難しいんじゃなかろうか。
「はあ。じゃ、ゲシュニ大陸で魔物の被害がひどいとか噂を流しときます」
「おっ、さすが、有能だねえソヒルくん。魔王は鼻が高いですよ」
「……」
ソヒルくん、外見美少女はなんともいえない冷めた目で見て去っていった。何かの癖を刺激するところがあるな。