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妖精少女物語  作者: 赤城ハル
1章
3/40

ピクニック②

 丘といっても緩やかな勾配の上にあるだけで広場というイメージが強い。


 そのトーリの丘は私達の暮らすユーリヤの森を出て、緩やかな坂を上がった先にあります。

 近くて広いので子供たちの遊び場となっている。今日もたくさんの子供たちがおにごっこやボール、なわとびで遊んでいます。


 広場にある大木でバスケットを置き、私は二人に聞きます。


「どうする? バドミントンでもする?」

「昼寝」


 とネネカが返答します。いつもならここでセイラが突っ込みますが、今日はありません。

 どうしたのだろうとセイラを窺うと彼女は地面に置いたバスケットから黒い箱を取り出しました。それは真ん中に丸い筒が刺さっていて、その筒にはガラスが嵌められています。


 セイラはその黒い箱を顔まで持ち上げて、筒をこちらへと向けます。

 そして、カチカチと音が鳴る。セイラが指で何かをしています。


「セ、セイラ? 何を?」


 私は少し身構えて1歩引き、尋ねます。

 しかし、セイラは何も答えず右手人差指で黒い箱の頭を叩く。

 カシャ! という音と同時に光が放たれました。


「ひゃあ! な、何それ?」

「なんだと思う?」

「ん、カメラ」


 セイラの問いにネネカがすぐ答えます。そういえばネネカは悲鳴を上げていませんでした。あれが何か知っていたということでしょうか。


「カメラ?」

「写真を撮るんだよ」

「写真……あの綺麗な絵のこと?」


 前に見たことがあります。本物そっくりの絵です。まるで魔法を使って空間を切り取ったかのような絵です。

 ネネカは首を振る。


「絵じゃないよ」


「そうなの?」


 私はセイラに尋ねます。


「よくわかんない」


 えへへとセイラは笑います。


「それでその写真はどこ?」

「えっと……」


 セイラはネネカにちらちらと視線を向けます。

 その視線を受けてネネカはカメラに近付き、じろじろ見回す。そして、


「それはインスタントカメラではないから、そのカメラはまずネガを取って、そこから現像しないといけない」


 とネネカが説明をします。普段はボケーとしているけど実は教室の中では一番の頭脳を持っています。


「そうなんだ。で、インスタなんとかは何?」

「インスタントカメラ。すぐに写真ができるやつ」

「へぇー」


 と感心するのはセイラ。そして、


「現像ねえ……現像って何?」

「写真ができること」

「セイラ、なんで貴女が知らないのよ」

「それが何かってのはだいたい分かってたけど詳しいことは知らないの。エヘヘ」

「それおじさんのでしょ。勝手に持ち出して良かったの?」

「勝手じゃないよ。逆に家を出る前に持たされたの。使い方もその時に教わったの」

「ちなみにそれ回数があるから気を付けてー」

「ネネ! 回数あるの? あとどれくらい? この数字?」


 セイラはカメラの頭部分をネネカに向けて聞きます。


「うん。それそれ。シャッターボタン近くのそれ」


 数字は17と表示されている。


「まだ大丈夫ね。それじゃあ、もう一回撮ろ」


 セイラがもう一度構えて、ネネカは手をチョキの形にする。


「それは?」

「写真撮られる時のポーズ。ピースと言う」

「へえ」


 私も同じ様に手をチョキの形にします。


「撮るよー」


 セイラがシャッターボタンを押す。

 また光が放たれ、カシャという音が鳴る。


「ん、じゃあ、次は私が撮るよ」


 ネネカがカメラを受け取り、構える。次は私とセイラ。私は二度も撮られているから、もういいのだけどセイラが、「一人は嫌っ!」と言うので私も付き合うことに。


「1足す1は?」

「? えっ? ネネカ、急に何?」


 なんで急に問題を? しかも簡単なものを。


「1足す1は?」


 もう一度問われる。


『2』


 もう一度問われて仕方なく私とセイラは答えた。すると答えた瞬間に写真を撮られた。


「ちょっとネネ! 急に何よ!?」


 セイラが抗議の声を上げます。


「ちゃんと合図は出した」

「合図?」

「1足す1は」

「それ合図なの?」

「ん。2と答えると笑顔になるから。その他にも『はい、チーズ』がある」

『へえー』


 私とセイラ二人して感心の声を上げた。


「じゃあ次は私が撮るね」

「この枠を覗きこんで、そしてこのシャッターボタンを押せばいいだけだから」


 説明を聞いて、私はカメラを受け取ります。

 セイラとネネカはピースをする。

 私は言われた通り、カメラ裏にある小さい枠を覗きこみます。

 するとそこには大木を背にした二人の姿がありました。

 なるほど、これで何を撮るのか決めるのか。


「1足す1は?」

『2』


 二人が答えて、私はシャッターボタンを押します。

 音と光が同時に発生します。


 シャッターボタンの横にある数字を見ると15となっています。


「これで良いの?」

「うん。バッチリだよ」

「でも三人一緒は無理だね」

「誰かにシャッターボタン押してもらわないと」


 私は広場で遊んでいる子供たちへ視線を向けます。


「それはやめたほうがいいかも」

「ネネカ、どういうこと?」

「説明しないといけないし。集まったら大変」

「ああ、そっか」


 子供たちは珍しい物にはすぐ集まる。人間の機械となると大変だろう。ましてや魔法のような物となると尚更だ。


「写真はもうやめておこっか」

「うん」


 セイラはカメラをバスケットに入れて、代わりにクッキー袋を出します。


 私はシートをひいて、バスケットからサンドウィッチの入った紙箱と水筒を出します。


「私何も用意してない」

「ネネ、気にしなくていいよ。私が勝手に連れ出したのだし」


 セイラはクッキー袋のリボンをほどき、ネネカに向けます。それをネネカはクッキー袋に指を入れて丸いクッキーを1つ取り、頬張ります。


「うちのサンドウィッチも食べていいよ」

「ふわーい」

「食べてから喋りなさいよ」

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