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11-(4)

「なんと。エルランド・キュロ教授は、あの野蛮なベロテニア人でしたか」


 壇上のマルクスの声が会場内に響くが、どことなくその声がわざとらしく聞こえた。


「まさか、このような場で獣化するなど。皆さん、危険ですから逃げてください。すぐに騎士団へ連絡を」


「出口はこちらです」

 クラウスが聴講者たちを出口へと誘導する。まるで示し合わせたかのような手際の良さである。


 そういえば、クラウスはエルランドがベロテニアの者であることを知っていた。ファンヌだって、エルランドが教えてくれるまで、彼がベロテニアの出身であることを知らなかったのに。どうしてクラウスはその件を知っていたのだろうか。


「ファンヌ。君も危ないから、そのベロテニア人から離れなさい」

 ファンヌの腕を掴んだのはクラウスだった。他の聴講者たちの誘導を終えたのだろう。


「離して。まだ、今なら間に合うから」

 オスモが言っていた。耳と尻尾が完全に生える前に、『抑制剤』を飲めば獣化を止められると。


「何が間に合う? そのベロテニア人は獣人なのだろう? それに獣になろうとしているではないか。君は、そのような男と結婚できるのか?」


「いいから離して」

 ファンヌが持っていたハンドバックの中には、オスモから手渡された『抑制剤』が入っている。もしくは、エルランドが首から下げている首飾りの中にも。


「駄目だ。僕は君を危険な目に合わせたくない」

 クラウスによって腕を引っ張られたファンヌは、彼によって抱き締められる形になってしまった。


「うぅっ……」

 苦しそうに呻きながらも、エルランドはじっとファンヌを見つめている。


「エルさん」

 ファンヌがエルランドに手を伸ばそうとしても、次から次へと騎士たちがやって来てエルランドを取り押さえた。


「やめて。今なら間に合うから。やめてください」

 ファンヌの叫びも彼らには届かない。


 エルランドの周囲にあった椅子や机は、さまざまな方向を向いて倒れている。四肢を抑えこまれたエルランドは、仰向けに押さえつけられているようだった。


「クラウス様。離してください。本当に、獣化なんて……。どうなるかわからない。止めなきゃいけないの」


「止める? 彼は獣人なのだろう? 人になったり獣になったりするのが当たり前だろう? 彼の意志で獣化しているのではないか? ここにいる人たちをこうやって襲うために」


「そんなの……。違うに決まっているでしょう」

 ファンヌは思いきりクラウスの足をヒールのかかとで踏んづけた。慣れないヒールを履いてきてよかったと、ファンヌはこのときばかりは思った。


「くっ」

 クラウスの力が緩んだ瞬間、ファンヌは彼の腕から逃げ出した。


「エルさん」

 エルランドの元に駆けつけようとしたものの、次は騎士団の人間によってファンヌは拘束されてしまう。


「危ないから、近づかないように」

 それが彼らの言い分だ。だが、今のエルランドがまだ危険ではないことは、ファンヌの方がよくわかっている。


「うぅ……」

 騎士達に囲まれて姿は見えないが、先ほどからエルランドの苦しそうな声が聞こえてくる。


「エルさん」

「こら、暴れるな」


「エルさん」

「取り押さえろ」


 ファンヌがエルランドの名を呼ぶたびに、騎士達は怒号をあげる。エルランドがファンヌの声に反応しているようにも見えた。


「うわっ」

「なんだ。こいつ」


 突然、エルランドを取り押さえていた騎士たちが、次々と後方に下がり始めた。


 そろりとエルランドが立ち上がる。その姿に、ファンヌも思わず息を呑んだ。


 もう、エルランドは人の姿を保ってはいなかった。

 その姿は獅子。


 百獣の王とも言われる獅々である。それが二本の足でしっかりと立っていた。顔は立派な鬣で覆われ、その身体は黄金に輝く長い毛で覆われている。


「エルさん」


 ファンヌが名を呼ぶと、エルランドは自身の周囲にいた騎士たちをなぎ倒し、目の前にある机や椅子を放り投げて、ファンヌの元に近づこうとする。

 ガシャン、と椅子の一つが窓に当たり、ガラスが散らばった。


「ファンヌ。駄目だ。下がっていなさい」

 ファンヌを庇うように立つのはクラウスだった。両手を広げ、彼女の姿をエルランドから隠すかのように。


「うぅっ」

 唸り声をあげたエルランドは、自我を忘れたのか、身近にいた騎士たちを片っ端から投げ飛ばし始めた。


「撃ちなさい」

 突如と冷淡な声が響く。声がした方へ視線を向けると、国王が獣化したエルランドを睨みつけていた。


「許可をする。その獣の命を奪ってもかまわない。やらなければこちらがやられるからな」

 まるで正当防衛を主張するかのように、彼は騎士団へ命じた。

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お読みいただきありがとうございます。
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