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11-(1)

 ドレスを身に纏うファンヌは、タキシード姿のエルランドと共に馬車に揺られていた。ファンヌのドレスの色はエルランドの瞳と同じ色。このようなドレスをファンヌは持っていなかったはずだし、念のためにとベロテニアから持ち込んだはずのドレスは別の物だった。


 それがいつの間にか、このドレスに変わっていた。間違いなくヒルマの仕業だ。


 彼の瞳の色のドレスを身に着けているファンヌを目の前にしても、エルランドの表情は硬い。むしろ、むすっとしている。それはリヴァスに来た目的を未だに果たせていないからだ。


 学校の図書館の地下書庫にある論文から、関係しそうなものを片っ端から確認したが、エルランドが納得できるような答えは得られていなかった。それは、ファンヌが調べた案件も同様に。論文の数も多く、年代を遡りながら調べているため、目を通すことができたのはここ五十年ほどの論文であった。


 だからエルランドは、何がきっかけとなって獣化するのかがわからない状況である。ただ、『抑制剤』は効いているらしい。エルランド自身がそう言っているから、間違いはないはずだ。


 そんな不安定な状況にあるにも関わらず、正装をしてまで馬車に揺られているのは、マルクスの誘いがあったからである。王宮で開かれる研究発表会は、調べもので煮詰まった脳にはちょうどいい刺激になるはず、と思っていた。


「エルさん。今日は気分転換のために研究発表を聞きに行くのです。そんなに不機嫌な顔をするのはやめてください」


「不機嫌な顔をしているつもりはない。考え事をしていただけだ」


 エルランドのその言葉でファンヌは思い出した。リヴァスにいた頃の彼は、いつもこんなむすっとしていて、何を考えているのかがわからないような表情であった。ベロテニアに行ってから、顔の筋肉が緩むことも増えたのだ。


「だが、気分は良くないかもしれない」

 むくれた顔でエルランドは言った。

「ファンヌが着飾っているからな。それにあそこには、あの(クソ)王太子もいるだろう」


「ですが、クラウス様にはアデラ様がいらっしゃいますし、私には未練などこれっぽっちもありませんよ。あ、もしかしたら、お子様が生まれていらっしゃるかもしれませんね」


 ファンヌの話を聞いたエルランドは、ふん、とそっぽを向いた。彼の複雑な気持ちが痛いほど伝わってくる。何よりもファンヌ自身が複雑な気持ちなのだ。今の婚約者と共に、昔の婚約者と再会するかもしれない、ということが。


 いや、どちらかというと、あの国王だ。


 ファンヌは膝の上に置いた手に、ぐっと力を込めた。




 研究発表は、王宮内にある大きな会議室で行われる。学術の都市パドマと呼ばれていることから、王宮では年に数回、研究発表が行われていた。もちろん、ファンヌもエルランドと共に壇上に立って発表をしたことがある。


 会議室に近づくにつれ、見たことのある顔ぶれが増えていく。エルランドも見知った顔があれば挨拶を交わしているのだが、相手の方が彼の変貌ぶりに驚きを隠せない様子であった。そして相手はエルランドの後方に控えているファンヌに気づき、気まずそうな表情を浮かべるのだ。ファンヌがクラウスとの婚約を解消した話は、とうに知れ渡っているのだろう。


 婚約を解消して、半年以上も経っている。その間、リヴァスにいなくて良かったのかもしれないと、ファンヌは心からそう思った。


 さすがにこのような場では、エルランドもファンヌと婚約したことを口にはしなかった。場をわきまえているのか、そこまで言う必要の相手ではないのか、どのように彼が判断しているのかファンヌは知らない。それでもここに、クラウスや国王がいることを考えると、エルランドからは離れたくないと思う。そんな彼女にエルランドも気づいたのか、話をしながらも後方にチラチラと視線を送っていた。


 パーティ会場のように、堂々とエルランドと腕を組むことができればいいのだが、ここは学問の場。お互いがお互いに我慢をしているのだ。


「ファンヌ」


 彼女が会議室へ入ろうとしたところ、名を呼ばれた。


 そして、こういうときに限ってエルランドは既に会議室内に入っている。というのも、マルクスが先にエルランドに相談したいことがあると言い、彼だけを先に連れて行ったのだ。


 ファンヌもそれについていけばよかったものの、化粧室に寄ってから入ると、変に気を使ってしまった。それが良くなかった。


 ファンヌは恐る恐る振り返る。

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お読みいただきありがとうございます。
ピッコマノベルズ連載中のこちらもよろしくお願いします。

人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰だかわかりません!


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