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10-(5)

 図書館の書庫に戻ってから、彼の不機嫌が手に取るようにわかった。


「ずいぶん、楽しそうだったな」


「そうですね、研究室のみんなとお会いするのは一年以上ぶりですから」

 エルランドが学校をやめてからは半年ほどしか経っていないが、ファンヌが学校をやめたのはクラウスとの婚約が決まってすぐだ。


「そうか」

 そう言ったエルランドの言葉に、彼が感情を抑えこんでいることにファンヌは気づいた。その感情。つまり、嫉妬だ。


 それについては王妃からも聞いていた。そしてその王妃も、国王のその感情をどう扱ったらよいか、ずいぶん悩んだということも。


「東の予算が増えたのは、マルクス先生がいろいろと頑張っていらっしゃるからみたいですよ。他の関係者と共同研究を始めたとか。そのような話を、マルクス先生から聞いていませんか?」


「いや、聞いてないな。珍しくオレの話を聞きたがっていたから、聞かれるままに答えていた」


「聞かれるままって……。私たちのことではないですよね」


「なっ……、ばっ……。研究のことだ」

 エルランドが焦り始めた様子を見たファンヌは、間違いなく彼が惚気てきたことを感じ取った。


「私も、みんなにはエルさんと婚約したことを伝えてしまいましたが、問題なかったでしょうか」


「問題ない。堂々と言いふらせ」

「エルさん」

 ファンヌが名を呼び、顔を近づける。


 こうやって、ファンヌはエルランドの扱い方にうまくなっていくのだ。彼から嫉妬という感情を取り除くために。




 図書館の閉館時間を知らせる鐘が鳴り響いた。


「もう、こんな時間か。残りの資料は明日、確認しよう」


「そうですね。今日、確認したものには、めぼしい情報がありませんでしたね」


 エルランドは主に薬草の効能の変化についてを調べているが、ファンヌは獣人と薬草のかかわりについてを調べていた。


 残念なことに、獣人をテーマにした論文が少なく、あったとしても書かれている内容もファンヌがベロテニアで知り得た内容ばかり。まして、獣化や先祖返りといった内容については、そういった事例もあるという一言程度。


「マルクスには、三日ほど調べものをしたいと伝えてあるから。今日はもう帰ろう」


 そろそろ屋敷の老夫婦に伝えた帰り時間になる。あまり遅くなれば、彼らも心配をするだろう。


 それに、いくら屋敷は学校からすぐの場所にあるとしても、暗くなる前には帰りたいものだ。例え、エルランドが隣にいたとしても。


 図書館の受付には明日も来ることを伝え、書庫の鍵を返して外に出た。帰る前にマルクスに挨拶をしようと思い、彼の研究室を訪れると、どうやら来客中のようだった。それでも研究室の中からマルクスが出てきてくれたので、今日の礼と明日もくることを伝える。


「悪いな、廊下で。そうだ、五日後に王宮で研究発表をするんだ。もしよかったら、聞きに来ないか? 今、ちょうどその打ち合わせをしていたところなんだ」


 来客の相手が例の共同研究者なのだろう。


 エルランドはマルクスから一枚の紙きれを受け取った。

 そこに並んでいる名前を見て、「ほう」と唸る。


「これは、非常に興味深い顔ぶれだな」


「そうだろう? 君ならそう言うと思ったんだ。じゃ、明日も待ってるからな。気をつけて帰れよ」


 ファンヌは手を上げるマルクスに頭を下げた。

 だが、その彼の笑みが歪んでいることなど、知るはずもない。もちろん、エルランドもそれには気づいていない。

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お読みいただきありがとうございます。
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