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「大先生。早速ですが、例の『薬』について相談したくて」
ファンヌはリクハルドが持ってきた例の『薬』をオスモに見せようとしたが、やめた。この『薬』は、人によって効果が異なるからだ。ここでオスモに見せて、オスモもエルランドと同じような状況になっては困る。
「大先生は……。その『薬』のことをご存知でしたか?」
「いや、先ほど知った」
つまり騎士団も国王に報告しただけで、他はどこにも情報を漏らさなかったのだろう。そして国王は、まずは身内のみで問題を解決しようとして、エルランドとファンヌに協力を求めたに違いない。
「エルさんは……。その『薬』の分析をするようにと陛下から依頼されました。包みから薬を出して、確認していたところ、エルさんの様子がおかしくなって。他にも、その『薬』を飲んだ人が自我を忘れて暴れるという事件もあったようでして」
ふむぅとオスモは腕を組んで唸った。
「その『薬』をファンヌ嬢は見たのだね?」
「はい。今も持ってます。ですが、誰にどのような効果があるかがわからないので」
「私なら大丈夫だろう」
「え?」
ファンヌは首を傾げた。
「話を聞いている限り、その『薬』はベロテニアの者に効果がある薬なのだろう。とくにエルは先祖返りで、昔ながらのベロテニア人だと思った方がいい。そのベロテニアの血が濃い者ほど、効果が出やすいのではないか?」
先ほど、ファンヌもそう考えたところだ。オスモも同意見というのであれば、その可能性が高い。
「それで、大先生が大丈夫であるという根拠は?」
オスモの話が本当であるとしたら、ベロテニアの者である以上、この『薬』は危険なものである。
「私はベロテニアの者じゃないからね」
「え、そうなんですか?」
そう言われると、そのようなことをオスモが口にしていたような気もする。以前、ここで初めて迎えた冬で体調を崩した、と言っていたような気もする。
「でしたら。見ていただいた方が早いですよね」
ファンヌは、ワンピースのポケットにいれていた『薬』を取り出した。
「こちらです」
「ちょっと、この机の上で広げてくれるかな?」
「はい」
ファンヌは促されるまま、先ほどの『薬』を机の上に広げた。
粉の塊のように見える白い『薬』。
「粉薬のようだな」
「そのようですね。ですが、『違法薬』には見えないのです。あれには、色が濃いという特徴があります。『違法薬草』を使ったとしても、ここまで綺麗な『白色』を出すことはできません。違法と名の付くものを使うと、どうしても色がくすんでしまいます」
「ファンヌ嬢の言う通りだな。『違法薬』のようには見えない。これが巷で出回ったとしても、取り締まるのは難しいだろう」
「そんな……」
だがオスモの言うことも一理ある。禁止されている『薬』や『薬草』が使われていれば、違法だとして取り締まることもできるのだが、そうでないものを使用して違法というのは難しい。いや、不可能だ。
そのようなことをしてしまえば、『薬』を服用しただけで違法とされてしまうからだ。
「となれば。この『薬』を特定して、この『薬』そのものを『違法薬』と認定してしまえばいい。そのためにも、分析をする必要があるな」
つまり、今ここにあるこの『薬』を『違法薬』として認定することで、この『薬』を取り扱う者を処罰することができる。
「では、早速この『薬』の成分分析を始めよう。の前に、腹ごしらえだ。ファンヌ嬢は、昼ご飯を食べたのかな?」
「まだですけど」
「よしよし。戦の前の腹ごしらえだ。私がご馳走しよう。といっても、そこの食堂だがな」
王宮には、王宮やその関連施設で働く者たちのために食事を提供する場がある。
「ですが、大先生。午後の診断は?」
「他にも『調薬師』がいるからな。そこは、持ちつ持たれつだ」
オスモの言っている意味はよくわかなかったが、とりあえず、午後の診断は他の『調薬師』が行うのだろう。






