表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/79

8-(5)

 いつものように『調薬室』に顔を出して、オスモに状況を説明する。するとオスモも「行っておいで」と笑顔で送り出してくれた。


 そのまま王宮の中に入り用件を伝えると、国王の執務室に案内された。


 まさか執務室を案内されると思っていなかったファンヌは、少しだけそわそわとし始めた。


「父上、お呼びでしょうか」


「あぁ、エルランドとファンヌか。朝から呼び立てて悪かったね。そこに座りなさい」


 そう言った国王も、朝から執務席に座って、大量の書類に目を通していたようだ。書類の山が三束ほど、国王の前にはできあがっている。


 国王はベルを鳴らして侍女を呼びつけると、お茶の準備をするようにと指示を出す。


 ファンヌはエルランドと並んで、ソファに座る。いたって普通の執務室だ。ブラウンの色調で統一された室内。ソファもアンバー色で、室内に馴染みながらもどこか明るさを醸し出している。


 だが、その明るさとは逆に、どことなく陰りを見せているのは、国王の表情である。


「父上、どうかされましたか?」


「ああ、すまない。どのようにして話を切り出そうかと、少し考えていた」


 そう言葉にするくらい、言いにくい話なのだろうか。国王は、自身の上着の胸元の合わせからごそごそと手を入れると、何かを取り出した。他の者たちに見つからぬように、上着の内ポケットへと隠していたのだろう。


「この薬について調べて欲しい」

 テーブルの上に置かれたのは、薄い紙に包まれている何か。だが国王が「薬」と言ったことから、この紙を開けば薬が出てくるのだろう。


「調べる、というのは、出どこを探れという意味ですか? それとも薬の成分を?」

 エルランドは薬の包みを開きながら尋ねた。


「まずは、成分を分析して欲しい。『違法薬』や『違法薬草』が含まれていないか」


 薬は粉上のものが塊になっているものだった。だが、見た目は柔らかそうに見える。粉が劣化して固まった、そのような感じに見えた。指で触れれば、塊は粉になるのだろうと思われる。


 ファンヌもその薬を見るために、ぬぅっと首を伸ばしてきた。


「見たところ。いたって普通の薬のようですね。『違法薬』には見えません。この薬がどうかしたのでしょうか」

 ファンヌは見た目から判断したことを口にした。すると国王は腕を組む。


「そうか……」


「ですが。きちんと詳しい分析をしないことには、何とも言えませんが。ただ、見た目からはそうは見えない、ということです」


 ファンヌの言葉にエルランドも頷く。

「父上。この薬がどうかしたのですか?」


 ソファの背もたれに背中を預けた国王は、ふむぅと唸ってから口を開いた。

「最近、ウロバトが少し物騒でな。小競り合いが頻発している」


「小競り合い?」

 エルランドが聞き返すと、国王は大きく頷いた。


「ああ。民同士で、何やら言い争いをしていることが多いらしい。言い争いだけならまだいいのだが、中には手や足を出す者もいる」


 つまり、暴力を振るう者がいる。


「すぐさま、周りにいた者が騎士団を呼ぶから、大事には至らないのだが。ただ、そういった事例が増えている」


「それと、この薬にどのような関係があるのですか?」

 エルランドの疑問は正しい。薬の分析依頼をしておきながら、先ほどから聞かされているのは、王都で増えている小競り合いの話。


「まあ、そう焦るな。先ほどから私は、関係のある話しかしていないよ」

 ようするに、小競り合いと薬は関係している。となれば。


「その、問題を起こしている者たちの中に、この薬を使われている方が多いということですか?」

 ファンヌが尋ねれば「そうだ」と国王は答える。


「そうやって問題を起こした者は、騎士団の方で捕らえて話を聞くわけだ。もちろん、相手に怪我をさせたり、物を壊したりした者は罪に問わなければならないしな。まあ、それでリクハルドから報告があがってきたわけだ」


 リクハルドは王国騎士団第一部隊の部隊長を務めており、第一部隊はこういった王都内の警備についたり、問題を起こした者たちから話を聞いたりするのが、主な仕事である。


「騎士団で話を聞いた者たちには共通点があり、その共通点の一つは、なぜあのような行動に出たかがわからない、と口にすること。彼らは、なぜ自分たちが暴れたのかがわからないようなのだ」


「つまり、自我を失っていると?」

 エルランドが尋ねた。


「そのようだな。それから、もう一つの共通点。それがこの薬になる」

「どういうことでしょう?」

 ファンヌも腕を組んで首を傾げた。

「薬を飲んだら、暴れたくなった。そういうことでしょうか?」


「簡単に言うと、そうなるな。これが、リクハルドからあがってきた報告書だ。こちらも参考にしながら、薬の分析を頼みたい」


「わかりました」


 こうやってファンヌは、何でもすぐに引き受けてしまう。今もエルランドが答えるよりも先に、引き受けている。


「そうか。引き受けてくれるか……」


 エルランドは答えていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます。
ピッコマノベルズ連載中のこちらもよろしくお願いします。

人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰だかわかりません!


こちらは新刊です。

契約妻なのに夫が溺愛してくるのですが~騎士団長の執愛求婚は追加オプションつき~






ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ