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8-(3)

◇◆◇◆


 雪の降る季節が終わりを迎える頃、朝も次第に温かさを増してきた。まだ、霜がおり雪がちらつくときもあるが、昼間の風はどこか気持ちのいい風だ。


「おはようございます」


「おはようございます」


 髪の毛をハーフアップにし、風になびかせながら歩いているのは、ラベンダー色のワンピースに白い薄手の上着を羽織っているファンヌである。その隣にいるのは、もちろんエルランドだ。


 彼は、ファンヌとの婚約を決めた直後、長ったらしい前髪を、短く切り揃えた。そして、彼のトレードマークでもあった銀ぶち眼鏡をかけることもやめた。


 エルランドが言うには、ファンヌを直視することを避けるために、前髪で視界を狭め、眼鏡をかけていたらしい。それが彼にどのような効果を与えていたのか、ファンヌにとってはよくわからないが、気持ちを抑えるためには必要な処置であったとのこと。


 だが、ファンヌと婚約したから、もう気持ちを抑える必要は無いと判断し、前髪を切り眼鏡を外した流れになる。


 婚約してからというもの、毎朝二人で王宮管理の薬草園を散歩することが日課となっている。もちろん薬草園の薬草の生育を確認すると共に、薬草摘みの者たちに労いの言葉をかけるのも忘れない。たったそれだけのことであるのに、薬草摘みの者たちは感謝の言葉を口にし、必要な薬草を二人に分けてくれる。


 散歩から戻ってくると、適度に空腹を感じるためか、朝食がはかどるのだ。


「毎日、こんなに食べたら太ってしまうわ」


 ファンヌはそう言いながらも、美味しい朝食に手が止まらない。


「ファンヌ様は、もう少し太られた方が良いかと思いますよ」


 最近、肩こりの悩みから解消されたカーラは、ファンヌのお皿にお替りのパンを一つのせた。


「あぁ……。カーラが私を誘惑する」


「誘惑ではございません。必要な量です」


 身体が軽く感じるのだろう。カーラは、以前にも増して勢いがある。


「オレも、もう少し肉がついた方が好みだ。抱き心地が違うだろう」


 エルランドが率直な意見を口にすると、ファンヌはじっと睨みつける。


 エルランドはなぜ自分が睨まれているのか、理由がわからない様子。


 何かを感じ取ったカーラが、エルランドに声をかける。


「旦那様、またお野菜の方に手がつけられていないようですが」


 皿の隅に残しておいた野菜を、目ざとく見つけたようだ。するとファンヌは、彼のために作ったドレッシングに手を伸ばし、残っていた野菜に少しかける。


「こちらのお野菜なら、このドレッシングが合うと思います」


 テーブルの上の籠には、ファンヌが考えたドレッシングが四種類置かれている。


 不機嫌そうに口元を歪ませたエルランドであるが、しぶしぶとフォークを動かし始めた。そんな二人の様子を、笑みを浮かべたカーラが見守っている。ファンヌもエルランドのフォークの行方を見守っていた。


 野菜をのせたフォークが、エルランドの口の中に入る。ゆっくりと噛みしめている彼だが、いつものように口元を歪ませるようなことはしない。


「どうですか?」


 不安そうにファンヌが尋ねると、エルランドは次々と野菜を口に運んだ。その様子を見て、ほっと胸を撫でおろし、カーラに視線を向けると、カーラも嬉しそうに微笑んでいた。


 最近、解熱薬の苦みを抑えることに成功したファンヌは、その応用で甘みの強いドレッシングを作っていたのだ。それはもちろん、エルランドが嫌がらずに野菜を食べるようにと考えてのこと。


「ファンヌ。このドレッシングは、この野菜と合う。これなら、いくらでも食べることができる……、かもしれない」


「本当ですか? ちなみにこのドレッシング。野菜の甘みを増すだけでなく、疲れをとる効果もあります」


 ファンヌが作るものの材料は、薬草や茶葉ばかりである。それらの効能を高めるために調合して、味を整えて、ドレッシングとした。


「だったら、これも工場の方で作らせてみるか?」


「そうですね。他の人の意見も聞いてから……」


 ファンヌは視線を手元に戻した。エルランドはファンヌの作ったものを真っすぐに褒めてくれる。あまりにも真っすぐすぎて、恥ずかしいと思うときさえある。


 それに、先ほどのように自分の気持ちにも正直だ。何も、そんなことまで言わなくてもいいのに、とファンヌが思うことも口にしてくる。

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お読みいただきありがとうございます。
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