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6-(6)

「いくらお茶好きでも、一日に百杯も飲むような人には出会ったことがないな」


 それはエルランドなりの冗談のつもりなのだろうか。


「そこで、このお茶の効能を高めたお茶を作りたいのですが。こちらの薬草を増やそうと思うと、摂取量の限度という壁にぶち当たりまして」


「ああ。だったら、いい薬草がある。屋敷の庭園にあるのだが……」


 そこでエルランドは饒舌に薬草について語り出した。ファンヌは、淡々と薬草について語るエルランドの口調が心地よいと感じていた。


「おい、ファンヌ。聞いているのか?」


 突然、耳元で声を張り上げられ、ファンヌはぴくっと身体を震わせる。


「あ。ごめんなさい。少しぼうっとしていました」


「疲れているんじゃないのか? 工場のほうも軌道にのりはじめたところだし。気が張っていたのだろう?」


 エルランドが心配そうにファンヌの顔を覗き込んでいた。


「あ、はい。いえ。大丈夫です」


「そうか? 少し休憩でもするか」


 エルランドが立ちあがったため、ファンヌの身体もふわっと浮いた。


「飲みたいお茶、あるか?」


 エルランドの研究室にはベロテニアのさまざまなお茶が揃えられている。もちろん、ファンヌに飲ませるために、エルランド自身が王宮の料理人に相談していろいろ分けてもらった茶葉だ。


「ごめんなさい。これと言って思い浮かばないのです」


「だったら、オレのオススメのお茶を淹れてやる」


 エルランドは機嫌がいいのだろう。微かに鼻歌を歌いながら、ファンヌのためにお茶を淹れていた。


「ほら。とりあえず、これでも飲め」


 テーブルに広げられていた本をエルランドが片付け、テーブルの隅の方に集める。ファンヌの前の空いた場所に、お茶とお菓子を並べた。


「ありがとうございます」


 ファンヌが口にすると、エルランドは満足そうに微笑んで、また彼女の隣に座った。


 彼の重みによって沈むソファが、ファンヌの気持ちにもずしりと沈み込む。


 腕を伸ばしてカップを手にすると、仄かに甘い香りが湯気と一緒にファンヌの口元を覆った。


「いい香りがします」


「そうだろう? これは香りを楽しむお茶なんだ。『調香』にも用いられることが多い茶葉でもある」


 ファンヌはカップを傾け、お茶を一口飲んだ。香りから想像するに、もっと濃い味がするものだと思っていた。だが、微かな甘みが口の中に残る程度。


「すごく、飲みやすいです」


「そうだろう?」


 エルランドは銀ぶち眼鏡の下の碧眼を、嬉しそうに細めた。


(あ……。また……)


 エルランドのその表情を目にするたび、ファンヌの心はぎゅぅっと締め付けられる。


「どうかしたのか? やはり今日は変だぞ?」


 ファンヌの些細な変化を、エルランドは見逃さない。


「今日はそのお茶を飲んだら戻ろう。この雨だしな。送っていく」


「ですが……。エルさんは?」


「師匠の手伝いもないし、何も問題はない。オレたち研究者は時間を自由に扱えるのが特権だ」


 そうやってファンヌを気遣うような言葉を、エルランドに言わせてしまうこと自体、彼女は申し訳ないと思っていた。


 だけど、ファンヌの心がざわざわとしているのは事実だし、それが原因で頭がぼんやりとしている。ここは素直にエルランドの言葉に従うことにした。

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お読みいただきありがとうございます。
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