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適材適所と昔からよくいうけれど、まさしくそれがうまくいっているような気もしていた。
『調薬室』に入り、オスモのところへ顔を出す。手伝うときもあるが、最近では体調を崩すものも減ってきたため、オスモともう一人の『調薬師』で回すことが多いようだ。手の空いた『調薬師』は研究室にこもって、好きなことをやっているに違いない。
「それもこれもファンヌ嬢のおかげだな。だが、これから急に冷え込むようになるから、どうしても季節の変わり目というのは体調を崩しやすくなる」
ファンヌにとっては初めてのベロテニアの冬だ。雪がうっすらと積もる冬の気温とは、リヴァスとどのように違うのか想像がつかない。
「ファンヌ嬢は、ベロテニアの冬は初めてだろう? 私もここに来た年には、気温の変化についていかず体調を崩した。今では、なんとなくわかるようになったから、調整ができるようになったが」
「その辺は、オレがきちんと面倒をみるから心配ない」
「エルだって、長くリヴァスにいただろう? ベロテニアの冬のことなどすっかり忘れているのではないか?」
オスモは、がははと豪快に笑った。
今日はオスモの手伝いをする必要がなくなったため、ファンヌはその足で工場の方へと向かった。エルランドは先に研究室へ行っていると言う。
この場所まで来れば、ファンヌを一人で歩かせることに抵抗は無いらしい。それだけ王宮の敷地内は、結界によって不審な者から守られているということなのだろう。
だけど彼は、必ず「変な男にはついていくなよ」と別れ際に声をかける。だがファンヌはエルランドの言う「変な男」に心当たりは無い。
工場は『調薬』と『調茶』の二つに分かれている。『調薬師』に診断を受けてから必要とされる薬は『調薬師』がその場で『調薬』することもあるのだが、薬もお茶と同様に効果が軽くて一般向けのものは、常備薬として手元に置いておくものも多い。ちょっと咳が出るとき、ちょっと喉が痛いとき、そういった症状が出るときに飲む薬である。
工場の地下に足を向ける。ここは、茶葉や薬草の保管庫になっている。地下室の一番奥の部屋に、茶葉や薬草をリヴァスとやり取りする転移の部屋があった。昼過ぎに、ベロテニアからリヴァスのオグレン領に薬草を送る。リヴァスからはベロテニアに荒茶となった茶葉が送られてくる。これが転移魔法による荷物のやり取りである。
ファンヌが工場に訪れたときにここに顔を出すのは、荷物が届いていないかを確認するためであった。工場の作業員も、作業が始まる前と終わったときに確認をするが、リヴァスから送られてくる荷物は、少量の荷物を何回かに分けて送ってくる。これは、転移魔法を使う者の魔力量によるとエルランドは口にしていた。
つまりベロテニアからリヴァスに物を送るときにはそれなりに魔力を備えている者が、一度に大量の薬草や『調茶』されたお茶を送る。だが、リヴァスからベロテニアに届く物は、一日に数回に分けて送られてくる。
今も転移魔法陣の上には、ファンヌ一人で持てるような籠に入った荒茶がポツンと置いてあった。朝の確認時にはまだ無かったのだろう。その後、向こうから送られてきたに違いない。
ファンヌは籠を手にすると部屋から出て、隣の部屋へと移動する。
「あ、ファンヌさん。おはようございます」
ファンヌの姿に気づいた作業員が声をかけると、他の作業員たちも視線をファンヌに向け次々と挨拶をする。
「みなさん、今日も朝からありがとうございます。それから、これ、リヴァスから届いていました」
作業員の担当者に荒茶の籠を手渡す。リヴァスから届けられた荒茶は、種類ごとに分けられて地下室の保管庫で管理される。地下室の保管庫は魔法で低温管理されているためお茶の保管に適しているのだ。






