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ベロテニアで『製茶』の工場が稼働し始めてから、一か月が過ぎた。
特に「身体を温めるお茶」に人気があり、それを主に『製茶』している。やはりベロテニアはリヴァスより涼しい気候というのも理由の一つだろう。
茶葉は転移魔法を用いてリヴァスのオグレン領から送ってもらっていた。
(まさか、医療魔術にあのような使い方があるなんて……)
ファンヌの家族は王都からオグレン領に戻ったのだが、そこで人を雇って今までよりも大量に茶葉の栽培を始めたらしい。
茶葉は植えてから摘めるようになるまで、早くても一年から二年はかかり、安定した量を摘めるようになるには七年以上かかるとも言われている。
それをたったの数か月で可能にしてしまったのは、兄ハンネスの『生育魔法』によるものだった。
『生育魔法』は怪我を治す医療魔術の応用で、植物の生育を促す魔法とのこと。その魔法のおかげで、本来は一年以上もかかる成長をたったの一か月で終わらせてしまったようだ。
(お兄様には医療魔術師よりも、魔術の研究職の方が合っているんじゃないのかしら……)
母親からの手紙を読んだ時、ファンヌはそう思った。父のヘンリッキと同じように医療魔術師を目指し、国家資格までとってしまった彼だが、魔力は家族の中で一番多く持ち合わせている。それもあって、たまに変な魔術を試しているらしい。というのも、ヒルマからの手紙にそのようなことが書いてあったのだ。
髪を結い上げてもらっているファンヌは、鏡にうつるサシャの顔を見て気づいた。
「あら? もしかして、サシャ……。その顔」
「そうなんです、ファンヌさん……。あ、失礼しました」
結い上げてようとしていた髪の毛が、はらりと落ちた。
サシャはこうやってファンヌの髪型をいろいろといじるのが好きなようで、ファンヌは研究室や工場に向かう前に髪の毛が邪魔にならないようにと結い上げてもらっている。ファンヌが一人で髪を結おうとすると、ただ一つに縛り上げるだけになってしまう。それに、髪質がサラサラしているから、きっちりと結わないとすぐに崩れてしまうのだ。
「ファンヌさんからいただいたお茶を、毎日寝る前に飲んでいたのですが、朝もすっきりと起きられるようになりましたし、何よりもそばかすが薄くなってきているような気がして」
実際、鏡にうつっているファンヌの顔にあるそばかすの色は薄くなっている。
「よかったわ。お茶がきっとサシャに合ったのね」
「飲みやすいですし、あれなら毎日続けられます」
最後の一編みを終えたサシャは、鏡の中でにっこりと笑う。
「……はい、できました。どうですか?」
「ありがとう」
髪の毛の上半分はくるっとお団子にまとめ、残った下半分の髪を三つ編みしてあっや。
「たまには、こういった幼い髪型もいいかなと思いまして」
幼いと表現したのは三つ編みの部分だろう。わざと下に垂らしているところが、いつものまとめ髪と違うような気がする。
「きっと、エルランド様も気に入ってくださると思うんですよね」
サシャの一言で、ファンヌの顔に熱がたまった。
エルランドがファンヌに対して積極的(?)になってからというもの、ファンヌも調子が狂わされている。
いや、こちらに来てからというもの、心臓が苦しくなったり、顔が火照ったりすることは多々あった。さりげなくオスモに相談してみたが、病気ではないから心を落ち着けなさい、と言われて終わった。
だから、懐かしいリヴァスのお茶を飲むようにしているのだが、心は落ち着くどころか、エルランドによって振り回される始末。






