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お茶を飲めば心も温まるし、そして気持ちが安らぐ。いろんな効能のお茶が無いだろうか、と思ったのが、彼女が『調茶』に興味を持ったきっかけだ。その頃は『調茶』という言葉もなかった。
ファンヌが十六になり、高等学校へ入学した時にエルランドと出会った。彼はすでに教授だった。他の先生とも比べ、比較的若い彼は、ファンヌにとっても相談しやすい相手になっていた。かつ、彼の専門は『調薬』であり、その技術をお茶の世界に生かすことはできないかと相談をした。
研究肌であるエルランドは、すぐさまファンヌの意見を取り入れ、『調薬』に対して『調茶』という言葉を作り、その『調茶』で論文を一本書くようにファンヌに提案してきた。
その論文が『調薬』の世界で認められ、薬草と茶葉における研究を差別化するため『調茶』という言葉が浸透し始めた。と同時に、ファンヌの『調茶』したお茶の効能も認められ、『調薬師』と同じように『調茶師』という言葉までが生まれた。
『国家調薬師』になるためには、論文を発表し世間に認められる必要がある。さらに、その『調薬』の腕前も確認される。それを『調茶』の世界にも応用したのだ。だからファンヌは十六にして『国家調茶師』を名乗ることができるようになった。
これが、彼女が十六にして『国家調茶師』にまで上り詰めた過程であるのだが。
「ファンヌ、帰ろうか。屋敷に戻ったら、これからのことをいろいろと相談したい」
「これからのいろいろって……。結婚に向けての話?」
エリッサが茶々を入れてくるが、エルランドはどこか落ち着きを払っている。今までの彼であれば、視線を泳がせて動揺している様子を悟られないように取り繕っていたはずなのに。
「エル兄さま……。ファンヌさんから名前で呼んでもらえるようになって、性格もお変わりになられたわね」
エリッサの呟きに、ファンヌもそういうものなの、と思わずにはいられなかった。
「そうかもしれないな……。のんびり待とうかと思っていたが、いい加減にしろ、と兄上たちからも言われたからな。エリッサもそう思っていたんだろう?」
「そうだけど……」
そもそも、エルランドを焚きつけたのはエリッサだ。その話が、他の関係者にまで飛び火している状態。
「やはり、オレの『番』である自覚を持ってほしい。というのがオレの願いだ」
「ですが。私はまだ……」
「ああ。君の気持ちは尊重する。だけど、オレの気持ちは隠さない」
「エル兄さまが格好良く見えてきたわ。エル兄さまもやるときはやるのね」
先ほどから時折挟まれるエリッサの言葉が、余計にファンヌを恥ずかしくさせている。そしてエルランドもその言葉に気分を良くして、自信を持ってくるのだ。こんなエルランドをファンヌは知らない。
「毎日ファンヌに気持ちを伝え続ければ、オレの気持ちが成就するかもしれないと義姉上たちから言われた」
どうやらエルランドは兄弟に恵まれているようだ。彼らは一番下の弟の気持ちの行方を見守っていることに、待ちくたびれてしまったのだろう。そこに配偶者まで加わっているのだから、ファンヌにとってはたまったものではない。ファンヌ自身でさえ、環境の変化に戸惑いさえ覚えているというのに。
助けを求めるかのようにエリッサに視線を向けると、彼女は小さく拳を握り「ガ・ン・バ・レ」と、口をパクパクさせていた。一体エリッサは誰を応援しているのか。
「では、ファンヌ。そろそろ帰ろう」
エルランドが右手を差し出してきたため、ファンヌは驚いてエルランドの顔を見上げた。
「ファンヌ。そこは黙ってエル兄さまの手を取るのよ」
先ほどから「ガンバレ」と応援しているエリッサからの助言ではあるのだが、ファンヌはエルランドとエリッサの顔を交互に見つめた。






