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5-(3)

 というのも、『調茶』や『製茶』にはリヴァス王国の茶葉を使いたいからだ。だが、『製茶』作業に向いている者たちはベロテニアにいる。二つの国の距離は馬車で三十日もかかる。簡単に行き来できるような距離ではない。


「茶葉はリヴァスの物が欲しい。だけど、製茶の人はベロテニアにいる。もう、物理的に無理じゃないですか」


「無理ではない。転移魔法を使えばいい」


「転移魔法って……。まさか、物だけを転移させるんですか?」


「そうだ」


 ずっと前を見つめていたエルランドは、そこでファンヌの方に顔を向けた。


 ドキっと、またファンヌの気持ちが高鳴ったのは、エルランドの笑顔が眩しく見えたからだ。目が疲れているのだろう、と瞬きを多めにする。


「先生。私は生活魔法しか使えないんですよ。それに、魔術師の中でも転移魔法は上級魔法じゃないですか」


「だから、オレなら使えるし、オレならそれを応用させることもできる。誰でも転移魔法が使えるように」


 それは、エルランドがベロテニアの王族だからだ。という理由は、以前も聞いた。


「ベロテニアから薬草をリヴァスのオグレン領に送り、オグレン領からは茶葉を送ってもらう。そういったことが、オレがいれば可能だ」


 ファンヌを連れてベロテニアに転移したことから、エルランドの実力は知っているつもりだ。だが、今の話を聞いて、一つだけファンヌには気になったことがあった。


「なぜ、ベロテニアの薬草を、向こうに送る必要があるんですか?」


「それは、君の母親と約束をしたから、だな……」


 エルランドの言葉を聞いて、ファンヌは大きく目を見開いた。


(お母様ったら、なんてことを先生にお願いしているのよ)


 つまり薬草の聖地であるベロテニアから、薬草を送るようにとヒルマがエルランドにお願いしたのだろう。ヒルマならやりそうなことだとファンヌも思っている。と同時に、そんなお願いをしてしまっているヒルマのことが恥ずかしい。


「先生、ごめんなさい。母が、変なことを頼んだみたいで」


「いや……。君の両親には世話になったから、気にするな……」


 それがエルランドなりの気遣いの言葉のつもりなのだろう。それよりも、ファンヌの両親からどんな世話になったのかが気になった。けれど、それを口にするきっかけもない。


「そうですか……。ありがとうございます」


 ファンヌが礼を口にしたことで、エルランドの口元が緩んだ。

「だったら。早速、『製茶』の工場について考えよう。それから、君の『調茶』の技術。君さえ良ければ、他の者にも教えて欲しい」


「え? 私が、他の人に? 教えることなんてできませんよ」


「だが、いつまでたっても他の者が『調茶』できなければ、『調茶』は広まらない。オレにも教えて欲しいと、いつも思っている」


「私が先生に、ですか? 先生が私に、ではなく?」


 ああ、とエルランドは頷く。

「オレだって、『調薬』の他にももっと知識を広げたいと思っている。君さえ良ければ、オレにも『調茶』について教えて欲しい」


「え、私が先生の先生にってことですか?」


「そうだな。そうなったらオレがファンヌのことを『先生』と呼ばなければならないな」


「やめてください。ややこしいですから」


「だったら。オレのことを名前で呼べばいいだろう?」


「名前……」


 そこでファンヌは視線を逸らした。今まではエルランドのことを『先生』と呼ぶことで、師弟関係であることを意識していたのだ。

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お読みいただきありがとうございます。
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