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「場所さえ教えていただければ、あとは一人で買い物できますから」
「いや。君一人では危ないから、オレも付き合う」
「ですが、この国には暴漢などいないって、先生も先ほどおっしゃったではありませんか」
「この国の者を襲う輩はいない。だが、君のように他国の者は別だ」
ファンヌは目を細めた。エルランドは言葉を続ける。
「この国の者は獣人の血を引いている者がほとんどだから、他の国の者よりも、五感に長けているし、力の強い者が多い。だからこそ、力の無い他の者は狙われる可能性が高い。まあ、そうならないように騎士団たちがきっちりと見張ってはいるが。それでも、できれば街歩きには必ず家の者を誰かつけて欲しい」
「わかりました……」
獣人の特徴について、ファンヌにもわからないことが多い。まして、その血を引くこの国の者たちの特徴も。エルランドが言った通り、力の強い人間と対峙したら間違いなく負けるだろう。その力がどれくらいかわかないところが恐ろしい。
「だから、君の買い物には付き合う」
つまりエルランドが護衛役を買って出るということなのだろう。
「ありがとうございます」
彼の好意を素直に受け止めることにした。
お腹もいっぱいになった二人は、レストランを出た。ファンヌが自分の分を支払おうとしたら、エルランドが「君の両親から生活費を預かっているから」という理由で全てを支払った。ファンヌは、両親がどれくらいの金額を生活費としてエルランドに渡しているのかを知らない。だから、どれくらい彼に甘えたらいいのかがわからない。
お昼の時間帯も過ぎたためか、人でごった返していた食べ物を扱う露店の前からも、人だかりはなくなっていた。通りにいる人もまばらだ。
「先生は、リヴァスにいたときもこちらには戻ってきていたのですか?」
エルランドは十三才でリヴァスに留学したと、リクハルドが言っていた。
「そうだな。長期休暇のときは、たびたび」
「転移魔法で?」
「ああ。オレの国籍はこちらにあるから、リヴァスからこちらに来る分には手続きがいらない」
「ですから。転移魔法って高等魔術ですよね」
「こちらの王族であれば、誰でも使える。ああ、ここだ」
エルランドが立ち止まったのは、ラベンダー色の外壁が特徴的な建物であった。他の建物よりも幻想的な雰囲気がある。入り口に張り出している天幕の色は青。青は衣類を扱う店。
扉を押して中に入ると、花の甘い香りが店内に漂っていた。
「いらっしゃいませぇ」
店員の独特の口調が二人を迎え入れた。
「せ、先生……。外で待っていますか?」
店内は、どこもかしこも女性用の下着で溢れている。エルランドがこのような店を知っていることに疑問を持ったファンヌではあるが、もしかしたらこの王都の全ての店を把握しているのかもしれないと思い、そこを追及することはやめた。
だが、この店内にエルランドを入れてしまって良かったのかという気持ちはあった。
「そちらに休憩スペースがございますからぁ、お待ちでしたらそちらでどうぞぅ」
女性店員は、こういったことにも慣れているのだろう。エルランドを壁一枚隔てた別室へと案内していた。だが、エルランドの目は切なそうにファンヌを見ていた。
(まさか……。一緒に選びたかったわけじゃないわよね……)
「お待たせしましたぁ」
女性店員に声をかけられ、ファンヌははっと我に返った。
「どのようなものをお探しですかぁ?」
店員に聞かれるまま答えるファンヌであるが、最終的に白い下着を購入してしまったのは、エルランドの言葉があったからかもしれない。






