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「それが、こんなかわい子ちゃん連れて戻ってきたら。誰がどう見たって、番を見つけたって思うわな」
ガハハとリクハルドは笑ったが、途中、顔を引き攣らせた。
「もしかして、痛みますか?」
「ああ。古い傷なんだがな。季節の変わり目になると痛み出す。仕事に支障はないが、それでもどこか庇うところはあるみたいでな。それでいつも、痛み止めを貰いにきてるってわけだ」
「怪我をされた時期が近付いているとかってあったりしますか?」
「んあ? ああ、そうだな。そう言われると、怪我をしたのもこんな夏の終わりだったかもしれない」
「定期的に飲まれるのであれば、お茶を準備することもできますが」
「茶、だと?」
リクハルドは手で顎に触れながら、何やら考えている様子。少したってから、顎から手を放すと。
「それを頼む」
「はい」
ファンヌはにっこりと微笑んで、『調茶』の準備に取り掛かった。定期的に古傷が痛む場合、精神的に緊張している場合もある。特に今回は同じような時期に痛むという話もあり、ファンヌは精神面を疑った。
「念のため、オスモ先生にも診てもらってくださいね。必要でしたら、お茶の方は準備しておきますので」
「あれだな。ファンヌ嬢の入れたお茶を飲むと、心が落ち着く感じがするな」
リクハルドは目尻を下げて笑っていた。その様子を見ていた他の者たちも、おずおずとファンヌに声をかけてくる。
ファンヌは彼らの話を聞くと、お茶を振舞った。
「いやぁ、ファンヌ嬢のおかげで今日は早く終わった。いつもであれば、もう二人、調薬師がいるのだが。今日にかぎって二人とも休みだ」
オスモはがははと笑った後、チャリンと機嫌よくファンヌの手の平の上に金貨を置いた。
「今日の駄賃」
まるでお小遣いをもらった子供のような気分なのだが。
「大先生、これでは貰い過ぎです」
まだお昼前。ファンヌがお手伝いしたのはたったの二時間半。それでも手の平の上には金貨が三枚。平均的な一日分の労働よりも多い報酬だ。
「それだけの働きをしたということだな。いつも昼前の方が忙しい。昼の後は、私一人で大丈夫だ。他の二人も、昼前だけ手伝って、昼の後は研究室にこもっているくらいだからな」
そこまで言ってから、オスモはエルランドに視線を向けた。
「小遣いを与えたんだから、エルはデートでもしてこい」
オスモに掛かればエルランドも子供のように見える。何か反論したそうに口を開きかけるものの、言葉は出てこない。
「ファンヌ嬢。ここから少し歩いたところに、美味しいレストランがあるんだ。伝統的なベロテニアの料理を出す店だよ。昼はそういうところで食べたいと思わないかい?」
「私。まだベロテニアの料理がよくわからないのです」
「だそうだよ、エル」
やはりエルランドは何か言いたそうに口をパクパクとしている。五回ほどそれを繰り返した後、やっと彼から言葉が出てきた。
「ファンヌ。昼ご飯を食べに行くか?」
「はい。是非。今、大先生がおっしゃったレストランにいってみたいです」
オスモは何か言いたそうにニヤニヤと口元を緩めていた。
「エルもファンヌ嬢も。また明日のこの時間、手伝ってもらえるか?」
「もちろんです」
エルランドが答えるよりも先にファンヌがそう答えていた。エルランドが冷たい視線をファンヌに向けてきたが、彼女はそれすら気にしない。
「エル。研究室の方はいつでも使えるように空けておいた。ファンヌ嬢には隣の部屋を空けてある。そっちも自由に使え」
「はい」
「だから、時間があるときは私の仕事を手伝え」
「はい……」
二回目のエルランドの返事が、いささか小声に聞こえたような気がする。






