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ファンヌはオスモから白いエプロンを手渡された。それは受付の女性が付けているものと同じエプロンだった。
エルランドはオスモと同じ白衣姿。エルランドの白衣は、ファンヌも見慣れている。
だが、見慣れている白衣姿と違うのは、この白衣が汚れていない真っ白な白衣であるということ。研究室にいたときの彼の白衣は、いつもどこかに染みがあった。あまりにも汚れが酷い時などは、ファンヌが染み抜きをすることもあった。
「ファンヌ嬢は、薬草のことがある程度わかっているということでいいんだよね」
「はい。ある程度は」
「私たち王宮調薬師の仕事は、身体の不調を訴えている者にその不調を軽減させるような薬を提供することだ。場合によっては、その場で調薬する。そうなると、他の者を待たせる必要が出てくる。だから、人手は多い方が待つ人が少なくなって助かるというわけだ」
エルランドもオスモの後ろに待機している。
「はい。じゃ、最初の人、呼んでいいよ~」
オスモが受付の方に向かって声を張り上げた。ファンヌはどれくらいの人が来ているのだろうと思い、ぐるりと裏から周って受付の方へ行き、待合室の方を見た。
「うわ。けっこう人がいるんですね」
近くにいた女性も「そうなんですよ」と困ったように微笑んでいた。
ファンヌはまた診断室にこっそり戻る。そこではオスモが最初の体調不良者から話を聞いているところだった。
(私が先に、待合室であの人たちの話を聞いておけば、大先生も少しは楽になるのでは……)
今まではオスモ一人しかいなかったから、この場で話を聞いて、この場で必要な薬を渡していたのだろう。だが今は、エルランドもファンヌもいる。それぞれができることをやることで、もっと時間を短縮することができるのではないだろうか。
体調不良者が診断を終え、診断室を出ていくとオスモはエルランドと共に必要な薬を準備する。それを受付に渡し、受付から体調不良者に注意事項を添えて手渡すという流れになっているようだ。
「大先生」
次の体調不良者を呼ぶ前に、ファンヌはオスモに声をかけた。
「私が先に、待合室であの方たちのお話を聞いても良いでしょうか? 聞いた内容は帳面に書くので、それを先生に渡して、先生は大先生と一緒に薬を選定するという形を取った方が、短時間で効率よくたくさんの人に薬を渡せると思いませんか?」
ファンヌの提案にオスモは腕を組んで、何やら考え込む。この間も、体調の優れない者はオスモの薬を待っている。
「わかった。では、ファンヌ嬢。待合室で、体調不良者がどのように具合が悪いのかを聞いて、帳面に記録して欲しい」
「はい。それから、もう一つ、許可をいただきたいのですが」
「なんだ」
「場合によっては、私の判断で『調茶』してもよろしいでしょうか?」
ファンヌは、普段エルランドに接しているようにオスモにも同じような態度で接している。これがエルランドをはらはらさせている原因になっていることなど、ファンヌは知らない。
「わかった。ファンヌ嬢に任せる。たまに、薬はいらないだろうというような人間もやってくるからな。そういった者をお茶で症状を軽減できるのであれば、私としては非常に助かる。薬草と茶葉はそこにある。もしかしたら、茶葉は足りないかもしれないが」
「ありがとうございます。あるもので、なんとかしてみます」
ファンヌが頭を下げたのを見て、エルランドの表情が和らいだ。






