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3-(6)

 扉を叩く音に返事をすると、なぜか現れたのはエルランドだった。


「どうかしたのか?」


 困った様に首を傾げて彼が尋ねてきた。


「私。カーラさんを呼んだつもりだったのですが」


「ああ、すまない。この時間、カーラたちは洗濯をしているから外に行っているんだ。オレが近くにいるからという理由で、そうしてもらっている」


 カーラたちが他の仕事に専念できるように、この時間のファンヌの面倒はエルランドがみる。そういうことになっているのだろう。

 何しろ隣の部屋だ。テーブルを置いてなんとか誤魔化しているが、あの扉で繋がっている向こうの部屋にいるのだ。


 むむっとファンヌは唇を結んだ。さすがに下着の案件はエルランドに相談できることでもない。


「私。カーラさんに用事があったので」


「オレじゃ駄目なのか?」

「う~ん。女性同士の相談ですので」

 と言って誤魔化してみた。するとエルランドも何か察することがあったらしい。


「そうか」とだけ言い、すぐに話題を変える。

「ファンヌ。時間があるなら、オレの師を紹介したい」


「えっ。先生の先生ですか? お会いしたいです」


 ファンヌの頭の中から、下着の件は飛んでいった。


 ぱっと彼女の顔が輝いたからだろう。エルランドの顔も和らいだ。


(あっ……。また、だ……)


 エルランドの表情が変わるたびに、ファンヌの気持ちがきゅんと跳ねてしまう。


(きっと、慣れない場所にいるから緊張しているのね。後で、気持ちが落ち着くお茶でも飲もう)


「よし。じゃ、早速行こう」

 エルランドはファンヌの右手首を掴むと、意気揚々と部屋を出ていった。


 昨日と同じように王宮へ向かっている。


「本当は、君がもう少し落ち着いてからの方がいいかとも思ったのだが。手持無沙汰のように見えたからな」


 ファンヌの右手はいつの間にかエルランドにしっかりと握られていた。


「そうですね。まだ慣れないところはありますけど。もしかしたら『研究』に没頭できたほうが、気持ちは落ち着くのかもしれません」


「やはり、ファンヌだな」


 王宮の方へ向かう橋を渡る。


「あ」


 思わずファンヌは声をあげた。


「てっきり、この川は王宮を守るためだと思っていたのですが、薬草園に水を供給するためのものなんですね」


「そうだ。この川はあそこに見えるノスカ山の雪解け水が流れてきている。だから、薬草を育てるのに適しているんだ」


「雪解け水。てことは、あの山には雪が降るんですね」


「そうだ」


 リヴァス王国は年中穏やかな気候であるため、雪は降らない。だからファンヌは雪を見たことが無い。


「ここにも雪が降るんですか?」


「どっさりと積もることは無いが、うっすらと降ることはある」


「私、雪を見たことが無いので楽しみです。あ、そうか。だから、こちらで栽培されている薬草の種類が違うのか……」


 こうやってファンヌがぶつぶつと独り言を呟くときは、頭の中で『調茶』に必要なことを考え始めた証拠だ。そんな時、エルランドは黙って見守るだけ。


 こんな彼女は、歩くときもどこを歩いているかわからないような状態である。


 以前も、あるお茶の効能について考察しながら歩いていたら、階段から足を踏み外して三段ほどお尻をついて落ちたことがあった。

 そのとき、側にエルランドがいたから良かったものの、彼がいなかったらついていたのはお尻ではなく頭であった可能性も否定できない。


 だが今はエルランドが彼女の手を繋いでいるため、何かにつまずいて転ぶようなことも無いだろう。万が一、そんなことが起こった時にはエルランドが支えてあげればよいのだ。


 と、ささやかな期待をしていたエルランドであったが、ファンヌの足取りは意外としっかりとしたものだった。

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お読みいただきありがとうございます。
ピッコマノベルズ連載中のこちらもよろしくお願いします。

人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰だかわかりません!


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