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サクサクとパンを噛みしめると、甘い香りが口の中いっぱいに広がる。
「ファンヌは、それが気に入ったのか?」
先ほどから同じパンを三個も食べている彼女が気になったのだろう。
「はい。サクサクしているのに、中はふわっとしていて美味しいですよ。先生は、お野菜とか果物も食べた方がいいのではないですか?」
ファンヌが手を伸ばして、サラダの皿をエルランドの前に置いた。
「あぁっ」
閃きました、と言いたそうなほど目を見開いて、ファンヌは変な声をあげた。
「先生、先生。薬草や茶葉をベースにしたドレッシングとかいかがでしょう」
いやいやサラダを口に入れていたエルランドも、つい目を見開いてしまった。
「あ、いや。違う。薬草を使ったパンとか。そう、お菓子とか……」
そうやって考え込むファンヌを、エルランドは目尻を下げて見つめていた。
「先生。お外でご飯を食べるのも、たまにはいいですね。こう、アイディアがばんばん降りてくる感じがします」
「そうか、それは良かった」
「先生。そう言って、嫌いなものを避けるのはやめてください」
付け合わせの小さな人参が三切れほどお皿の隅っこに置いてあることにファンヌは気づいた。エルランドは色の濃い野菜を苦手としている。
「先生。甘い味付けとしょっぱい味付け、どちらがお好みですか?」
「甘い方がいい」
「わかりました。先生がそうやってお野菜を残さないように、甘い味付けの特製ドレッシングを作ります。ですが、今は我慢して食べてください」
ファンヌがエルランドのフォークを取り返すと、皿の隅っこに残っている人参をプスっと刺して、彼の口元の前に運んだ。嫌そうに身体を引いていたエルランドであるが、ファンヌが諦めないことに根負けしたのか、仕方なく口を開けた。そして口の中に放り込まれた人参を、嫌そうに顔を歪ませながら飲み込んだ。
そんな二人の微笑ましい様子を、少し離れた場所でショーンとカーラが笑顔で見つめていた。
食事が終わると、ファンヌは先ほど摘んだ薬草と、エルランドから分けてもらった紅茶の茶葉で調茶を始めた。本来であれば、秤を用いて、各薬草や茶葉の量などを計測しながら調茶、調薬するのが一般的だ。だが、ファンヌは違う。目分量で量を見極めて、調茶していく。そしてそれが八割方成功していた。製法が必要とされる場合を想定して、その方法を記録するときがある。各茶葉や薬草の量については、目分量で手にしたものを秤で測定するという手順を用いていた。
「できました。できればショーンさんやカーラさんにも飲んでいただきたいです。基本的ですが、疲れをとって身体をすっきりとさせるお茶です」
エルランドはショーンとカーラを呼びつけ、お茶を飲むようにと指示を出す。少し恐縮していた二人だが、エルランドの「研究のためだ」という一言で納得してくれたようだ。
残念ながらこのテーブルには他に椅子が無いため、ショーンとカーラは立ちながらお茶のカップを手にした。
「あら。飲みやすい」
目から鱗を落としたかのような表情で、カーラが口にした。
「本当ですね」
ショーンも目を細めながら飲んでいる。
「ショーンさん、カーラさん。これからも私のお茶を飲んでいただけるでしょうか?」
ファンヌが尋ねると、ショーンもカーラも「もちろんです」と答えてくれた。






