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その後すぐに、別の女性が二人現れた。一人は、四十くらいの女性で、もう一人はファンヌより少し年上に見える女性だ。名前はそれぞれカーラ、サシャと名乗った。
コルセットのいらないドレスであればファンヌも一人で着替えることはできるのだが、彼女たちが手伝いそうにしていたので、お任せすることにした。
「ファンヌ様。お肌がきめ細やかでうらやましいですわ」
サシャは、そばかすが特徴的だが、彼女本人はそれを悩んでいるようだ。
「髪の毛も、さらっとしていて、まとめるのが難しいですね。少し、香油を使わせていただきます」
髪を結い上げてくれたのがカーラ。彼女は、侍女頭という立場にある女性だった。ただ、最近、年のせいか肩こりも酷く、それによって引き起こされる頭痛に悩まされているようだ。
「どうか、坊ちゃまのことを、末永くお願いしますね」
カーラにそう言われても、ファンヌには何のことやらさっぱりわからない。わかったことは、この二人がそれぞれ身体に悩みがあることくらいだ。
彼女たちにラベンダー色のドレスを着せられ、さらさらの髪は編み込みのハーフアップにしてもらう。
カーラに案内されて向かった先は、一階にあるサロン。こちらも日当たりがよく、庭がよく見えた。
「お待たせいたしました。ファンヌ様をお連れしました」
既にソファに座っていたエルランドと目が合った。ファンヌは何故か恥ずかしい気持ちになった。
「ファンヌ。よく似合っている……」
そのような言葉をエルランドからかけてもらえるとは思ってもいなかったため、余計に顔が火照ってしまう。
「そう。君が興味を持ちそうだと思って、ベロテニアの紅茶を準備したんだ。飲んでみるかい?」
「もちろん」
「こちらにおいで」
ファンヌは促されるまま、エルランドの隣に座った。それを微笑みながら見ているのがショーンとカーラであるが、すぐさまカーラがお茶を淹れ始める。
「香りも独特なんですね」
湯気と共に漂ってきた紅茶の香りに、ファンヌは顔を綻ばせた。
「ああ。知っている通り、この国ではまだ獣人の血が引き継がれているからな。だから好みも他の国とは異なる」
「もしかして。それぞれ摂取してはならない薬草とか、茶葉とか。あったりするのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「え、と。獣人の血を引くということは、動物の特徴も受け継いでいるわけですよね。犬猫にネギが駄目なように、その特徴を持つ方もネギが駄目とか」
「最近では、食べ物での過剰反応は聞いたことはない。それだけ血が薄れていると言う証拠だな。だが、その人にあった『調薬』『調茶』をするというのは、獣人に限らず誰にでも当てはまることだ」
「なるほど、そうですね。一般向けの『調茶』と個人個人の『調茶』は異なりますからね。獣人だろうがそうでなかろうが、同じだということですね」
にこやかに微笑んでいたはずのショーンとカーラの表情が、険しくなっているのは気のせいだろうか。
「先生。私、こちらの文化についても学びたいのです。そういったことが学べるような本がありましたら、後で紹介してください」
「ああ、この屋敷にも書庫があるし、これから案内するところにもあるから、好きな方を利用するといい」
「ありがとうございます」
エルランドとお茶の時間を楽しんだファンヌは、彼に屋敷の中をざっと案内してもらい、それから使用人も紹介してもらった。






