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作者君と締め切りちゃん

作者: まるるる

「あー、本書くのめんどくせーなー」


俺の名前は秋葉龍介、18歳、誰もが羨む花の高校生だ。そして、ネット小説家でもある。


「よし、今回の締切は間に合わなかったけど次回は頑張ろう」


「ちょっと待ったあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「うぉぉおおお!!!!????・・・・・・だっ・・・・・・誰だ!!??」


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくださいました!!!私の名前はシル・メル・エキリス。締め切りちゃんと呼んでください!!!」


うっわ、今一番聞きたくない言葉を耳にしたんだが。


「そ、それで締め切りちゃんはいったいどうしてこんなところに来たのかな?もしかして迷子にでもなっちゃった?」


「し、失礼な!!!私はここに仕事をしに来たんですよ!!!そこら辺の子供と一緒にしないでください!」


どう見てもただの子供にしか見えないのはご愛嬌とでもいうつもりなのだろうか。しかしこういう相手には何らかの質問をしなければいけないというのは経験則上わかりきっている。よって、問題はどんな質問をするのかだが・・・・・・


「へ、へえ、それで締め切りちゃんのお仕事っていうのはどんなことをするのかな?」


大したことも言えない自分のアドリブ力のなさが恨めしい。


「簡単に言うならば管理権限を持つ上位世界の住人からの下位世界の住人へのハラスメント行為や意図的な均衡破壊行為、変化の停滞などを防ぎ、取り締まるお仕事です。」


「ええっとつまり?」


「無駄に規制ぎりぎりを攻めてみた作者にそれとなく注意したり、物語としての均衡を乱した二次創作者に警告したり、エタった作者に実力行使で続きを書かせたりしてます。」


「えっと、今の俺はどの辺?」


「もちろん、実力行使で続きを書かせる状態です!というわけで、続きを書いてください!早く!!さあ早く!!!ほらさっさとパソコンの前に座って?はい書いてください!!書きたくない?いい度胸ですね、処しますよ?・・・・・・はいさーん、にーい、いーち・・・・・・」


「だあああ!!!うるさいなあ!!!俺はもうラノベの続きは書かないって決めたんだよ!!!」


「本当にそれでいいんですか?あとから後悔しませんか?確かに小説を書くのは大変かもしれませんが、あなたが作品を更新するのを待っている人もたくさんいるんですよ?」


「それでも関係ない!俺はこの仕事を辞めるんだ!!!」


「ほほーう、それはつまり私に対する挑戦ですね、いいでしょう、受けて立ちます!!!」


それから締め切りちゃんは毎日俺のすぐそばに現れた。まず朝起きたらご飯を作っている締め切りちゃんがいる。電車待ちをしていたら必ず目の前に立つか座るかしていたし、学校では俺の目の前にずっと座っていたし、家に帰ると晩飯を作り、風呂を沸かし終わっていた。


「さあ龍介さん、これで続きを書く気になりましたか?」


ん?・・・・・・


「今、なんて?」


「ですから、これで続きを書く気になりましたかって。そういったんですよ。」


俺の理解力がないのだろうか、これで書く気になりましたかって、なるはずがないと思うのだが。


うん、なるはずがない。よって私は何もしない。以上QED。


「ならん」


「ふっふっふ、龍介さんがそういうのは分かりきっていましたよ。」


「だろうね、逆にわかってないんだったら君の脳の足りなさに対して驚愕を超えて恐怖して失神してたよ。で、なんでそんなこともわかってたのにも関わらずあんなヤンデレ妻みたいなことをしてたんだい?」


「それはですね・・・・・・作家活動を続けるんだったら今みたいに楽させてあげますよ。」


うっわ、それは悩むわ!で?


「続けなかった場合は?」


「そりゃあもちろん、最初に言った通りに実力行使をしてでも続きを書かせます。」


えっと、つまりこれって俗に言う


「つまり龍介さんには、毎日楽にすごしながら小説を書くという選択肢と、催促されながら精神的な疲労が蓄積した状態でも関係なく書かされ続けるというふたつの選択肢があるわけです!」


「ダブルバインド効果じゃねえか!!!」


「だぶるばいんど・・・・・・ですか?ああ!あれですね?上司からふたつの矛盾する指示を食らうことにより何をどう足掻こうと必ず叱責される上に感情を押さえつける効果や相手に自分が悪いのだと誤認させる効果があるというブラック企業御用達の行動支配術ですね?私もよくやられます!」


「延々と長ったらしい説明口調ありがとう、そしてそっちじゃねえ!最後のはほんとにお疲れ様!」


「え、他になんか意味ってありましたっけ?あ、ありがとうございます。」


「今締め切りちゃんが説明したのはグレゴリー・ベイトソンさんの方で、俺が言ってるのはミルトン・エリクソンさんが発展させた自分がやらせたいことを前提条件として、そのうえで相手に二択を選ばせるっていう、相手に自身の目標を呑ませやすくする方法な。」


「えーと、説明口調ありがとうございます?あと、ちょっと電話してくるので先にご飯食べといてください。」


「あっ、りょうかーい」


って、危なくまた飲まれるところだった。今度こそガツンと言ってやらねば・・・・・・って、


「はい、私です。いえ、現在鋭意取り組み中です。はい、了解です。はーい、失礼しまーす。」


生粋の日本人である俺が仕事の電話中に大声を出して邪魔するなんてことができる訳もなく、諦めてもそもそと食事をするのだった。


「電話終わりましたよ〜。」


「お疲れ様。」


って、また流されたぁぁぁ!!!!!!!!・・・・・・しゃーない、もうあきらめよう。


「ところで、締め切りちゃんが作家活動を監視するのはいつまでなのかな?」


「そりゃもちろん、龍介さんがエタっている小説をすべて完結させるまでです!!!」


秋葉龍介、18歳。ペンネーム、ムナカクシ。これまでに投稿してきた作品数18、これまでに完結させてきた作品数・・・・・・ゼロ。俺の死亡が決まった瞬間だった。




(三日後)




「ぬわあぁぁぁ!!!もうやだああぁぁぁぁ!!!!」


「逃げるんですか龍介さん?実力行使しますよ?」


あれから三日たち、少しは執筆作業も進むどころかめちゃくちゃ進んでいた。それもこれも締め切りちゃんのせい・・・・・・おかげ?である。どれくらいヤバいかといえば、一日一切寝ないとしても一時間に10万文字じゃ足りない量を書き終わるまで絶対に睡眠をとらせてください、もとい、睡眠をとらせてくれない。さぼろうものなら死んだ目で呪文を唱えて永遠に夜1時で時間を固定させたりとか(当然のように俺は動けた、肘より先っぽだけな)、耳元で延々と


「更新、更新、更新、更新」


ってささやかれ続けたりって、また来たぁぁぁぁぁ!!!!!


ああ、そうそう、いちばん酷かったときなんか、こんなことがあった。




<<<>>>




締め切りちゃんが来てから二日間が経ち、ようやくこの奇妙な同居生活にも慣れてきた。そしてついに、ついに!18作あった内の1作が完結したのだ!これはもう報告するしかないと思い、締め切りちゃんのところへと向かう。


「え?もう完結したんですか?すごいです龍介さん!・・・・・・特別にごほうび、あげちゃいます♪目、つぶっててください。」


そういいながら締め切りちゃんもまた目をつぶって顔を差し出してきた。これはつまり━━━そういうことなのだろうか。俺も目をつぶって受け入れる準備をする。


俺の唇に締め切りちゃんの見た目通り柔らかいものが触れる。それと同時に締め切りちゃんは俺の頭を強くホールドするという暴挙に出、そのまま舌を俺の口内にねじ込んできた。そのまま巧みな舌遣いで俺の口内を蹂躙してくる━━━━かと思いきや、俺の口を大きく開けさせて唇を密着させてきた。そして今になってようやく気が付く。締め切りちゃんの口に謎の液体が入っているということに。さらに締め切りちゃんはその液体を飲ませてきたのだ。今になってようやく気が付くその危険性。しかしもう遅い。


ごくん


俺はすでにその液体を飲み干してしまっていたのだから。


そして唐突にわいてくる


「(書きたい書きたい書きたい書きたいラノベが書きたい続きが書きたい書きたい書きたい書きたい書きたいああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!)」


執筆欲とでもしか呼びようの無いシロモノ。一万字、十万時、百万字、いくら書いてもやむことのないそれに肉体まで操られているような錯覚さえ受ける。それほどまでに己の中にいる欲が増大するのだ。恐怖しないわけがない。


そうして、ようやく冷静になった時にはもう、まるまる1作書き終わった後だったのである。




<<<>>>




と、まあ、そんな記憶だ。できることならば今すぐにでも忘れてしまいたい。


「龍介さん手が止まってますよ?またあのお薬飲ませてあげましょうか?」


うっそだろこいつ。


「そんな顔しないでくださいよ、冗談ですから。夜食持ってきますね。」


すこし・・・・・・とてもヤバいことをしてくるので忘れがちだが、締め切りちゃんだって悪い子ではないのだ。というか性格だけで言うならば天使のような子である。そして俺もそんな彼女の献身にこたえたいとは思っている。しかしそのためにはやはり小説の続きを書く以外に道なんてないのだった。




<<<>>>




わたしの名前はシル・メル・エキリス、14歳。第5079三次元世界、現地呼称「地球」の次元間ハラスメント行為の防止業務を3年前、両親が死亡したことをきっかけに行っている・・・・・・わかりやすく言うのであれば神です。そんな私ですが、現地生物の一人に恋い焦がれてしまっています。その人の名前は秋葉龍介、どうやらネット小説家というものらしいです。なんでも一つ次元の下がる世界を作り出し、管理し、娯楽として他者に提供する仕事らしいです。━━━━えへへ、私と似た仕事ですね。


そんな彼と何かしらの接点を持ちたいと思っていた私ですが、我々の業務以外での現地生物との接触は基本的に禁止されています。具体的な例を挙げるとするなら、私のお父さんが生きていたころ、ちょっとしたいたずら心で地球に降りて、その後まるまる1日説教を食らったことですかね。今となってははいい思い出です。いえ、やっぱり嘘です。もう思い出したくもないレベルのトラウマです。


まあ、そのおかげで龍介さんに会えたからいいんですけど。そして、その龍介さんといえば最近小説の更新をしていません。全くしてません。これは、もう作品の中にいるキャラクターに対する嫌がらせといっても・・・・・・と、そこで私は天才的なことに気が付いてしまったのです。まず、龍介さんの行っている行為が次元間ハラスメントと言い張れなくもないレベルであるということ、そして、作成された二次元世界が実際に存在しているということ。そして最後に、業務以外での現地生物との接触が禁止されている、つまり、業務であればいくら接触しても怒られないのです!こうしちゃいられんとさっそく上司に電話をします。


プルルルル、プルルルル、ガチャン!


「はいこちら次元間ハラスメント監視局第5000番台三次元世界監視課です。」


「あ、もしもし、第5079三次元世界担当のエキリスです。当該地区において第三次元の住人から第二次元の住人に対するハラスメント行為と思わしき事例を18件確認いたしました。地上に降りる許可をお願いします。」


「すいません、職員名簿を確認いたしますので少々お待ちください。━━━━確認いたしました。ノルマを算出いたします。20日に一軒のペースでの解決を要請します。また、当該事例の解決を目的とした地上への降臨を許可いたします。」


「ありがとうございます、それでは失礼させていただきます。」


プツッ、ツー、ツー、ツー、ツー。


上司や先輩と電話するときはいつも緊張します。口が滑ってしまったり、いらないことを言って怒らせてしまったり、言葉遣いがなってないって怒られたりするんじゃないかって、常に戦々恐々としています。まあ、実際は私が子供だから優しく接してくれているだけなのでしょうが。


っと、そんなことは今はどうでもいいです。いえ、よくはないですけれど、まあいいです。そんなことより今はどういう風にファーストコンタクトをとるかのほうが大事ですからね。うーん、どうしましょうかねぇ。・・・・・・じゃーん?なんか古臭い感がプンプンしますね。ででーん?あんまり変わってませんね。どうもこんにちは君の分身です?危険なにおいがプンプンしてヤバいです。うーん、きめました!そうとなればさっそくGO!!!




<<<>>>




「あー、本書くのめんどくせーなー」


ふう、無事予定通りの位置に到着しましたね、さすが私です!!!


「よし、今回の締切は間に合わなかったけど次回は頑張ろう」


「ちょっと待ったあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


ああ、しまったあああああぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!


「うぉぉおおお!!!!????・・・・・・だっ・・・・・・誰だ!!??」


うう、予定と全然違うことになっちゃいました。でも大丈夫、アドリブなら得意なんです!昔おばあちゃんに役者やのぅとか言われてましたから!!


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくださいました!!!私の名前はシル・メル・エキリス。締め切りちゃんと呼んでください!!!」


ふふん、どうですかこのアドリブ力!


「そ、それで締め切りちゃんはいったいどうしてこんなところに来たのかな?もしかして迷子にでもなっちゃった?」


もしかしてこの人私のこと覚えてるんですかね?お父さんが記憶は消去しとくって言ってたんですが・・・・・・


「し、失礼な!!!私はここに仕事をしに来たんですよ!!!そこら辺の子供と一緒にしないでください!」


ただの子供にしか見えないことは私だって気にしているんですから!


「へ、へえ、それで締め切りちゃんのお仕事っていうのはどんなことをするのかな?」


「簡単に言うならば管理権限を持つ上位世界の住人からの下位世界の住人へのハラスメント行為や意図的な均衡破壊行為、変化の停滞などを防ぎ、取り締まるお仕事です」


いますごいそれっぽく言えませんでした?私すごくないですか?


「ええっとつまり?」


それっぽく言ったら理解してもらえなかったみたいですね、本末転倒じゃないですかああああぁぁぁぁ!!!!


うう、仕方ないのでめちゃくちゃわかりやすく解説しますか。ただしあくまでも私の素性などは伏せてです。そうでないと後で怒られちゃいますからね。


「無駄に規制ぎりぎりを攻めてみた作者にそれとなく注意したり、物語としての均衡を乱した二次創作者に警告したり、エタった作者に実力行使で続きを書かせたりしてます。」


「えっと、今の俺はどの辺?」


そりゃあもちろん、少なくともうちの会社の規定によるところにはですが、


「もちろん、実力行使で続きを書かせる状態です!というわけで、続きを書いてください!早く!!さあ早く!!!ほらさっさとパソコンの前に座って?はい書いてください!!書きたくない?いい度胸ですね、処しますよ?・・・・・・はいさーん、にーい、いーち・・・・・・」


20日で1作品完成させるのであれば初日くらいは頑張らせておいたほうがいいかと思ったのですが。


「だあああ!!!うるさいなあ!!!俺はもうラノベの続きは書かないって決めたんだよ!!!」


とのことらしいです。いったいなんでこんなことになってしまったのでしょうかね。


「本当にそれでいいんですか?あとから後悔しませんか?確かに小説を書くのは大変かもしれませんが、あなたが作品を更新するのを待っている人もたくさんいるんですよ?」


まあ、そのうちの一人が私であることは言わずもがなですよね。


「それでも関係ない!俺はこの仕事を辞めるんだ!!!」


「ほほーう、それはつまり私に対する挑戦ですね、いいでしょう、受けて立ちます!!!」


やった!!!!!やりました!!!!これで相手に尽くすことによってやる気を出させる一種の作戦とかいういい訳が効きますし、ずっとすぐ近くにいられます!!!!!まず一緒に学校に行って、ご飯も作ってあげて、そうだ!一日二回お風呂に入ることにしましょう!龍介さんが入る前と、入った後、一粒で二度おいしいとはまさにこのことですね!!




<<<>>>




「さあ龍介さん、これで続きを書く気になりましたか?」


聞くまでもなくなっちゃいますよねこんなの!毎日美少女のエキスが入った風呂に入って、ご飯を食べて、一緒に学校行ってるんですから。


「今、なんて?」


「ですから、これで続きを書く気になりましたかって。そういったんですよ。」


なったに決まってますよね!?


「ならん」


「ふっふっふ、龍介さんがそういうのは分かりきっていましたよ。」


って、えええええ!!!???ならないんですか!!??あんなに尽くされてるのに好きになるどころかお願いを聞く気にすらならないんですか!!!???


「だろうね、逆にわかってないんだったら君の脳の足りなさに対して驚愕を超えて恐怖して失神してたよ。で、なんでそんなこともわかってたのにも関わらずあんなヤンデレ妻みたいなことをしてたんだい?」


え?めちゃくちゃいうじゃないですかこの人。というかもしかして、お風呂の件もバレちゃってたり・・・・・・わ、私知りませーん!!


「それはですね」


ふおおおおおお!!!!!うなれ!私の灰色の脳細胞!!!これまでの行動を無理なく説明できて、納得できる理由があって、龍介さんに頭がおかしい人と思われずに済んでとりあえずなんかいい感じの理由よ出てこい!!!


「作家活動を続けるんだったら今みたいに楽させてあげますよ。」


き、きちゃあああああぁぁぁぁ!!!!!!!勝った!!


「続けなかった場合は?」


え?あんなに言ったのにまだ続けない可能性を考えているんですかこの人?もう、しかたがないですね。


「そりゃあもちろん、最初に言った通りに実力行使をしてでも続きを書かせます。つまり龍介さんには、毎日楽にすごしながら小説を書くという選択肢と、催促されながら精神的な疲労が蓄積した状態でも関係なく書かされ続けるというふたつの選択肢があるわけです!」


つまり書くしかないということですね!!


「ダブルバインド効果じゃねえか!!!」


だぶるばいんど効果・・・・・・?どこかで聞いたことがあるようなきがします。なんだったっけなぁ。


「だぶるばいんど・・・・・・ですか?ああ!あれですね?上司からふたつの矛盾する指示を食らうことにより何をどう足掻こうと必ず叱責される上に感情を押さえつける効果や相手に自分が悪いのだと誤認させる効果があるというブラック企業御用達の行動支配術ですね?私もよくやられます!」


いやぁ、無事に思い出せてすっきりしましたよ。よかったよかった。


「延々と長ったらしい説明口調ありがとう、そしてそっちじゃねえ!最後のはほんとにお疲れ様!」


そんなに長くもなかったとは思いますけどね。というかそっちじゃねえってどういうことでしょうかね。私の記憶だとこれで正しいはずなんですけれど。


「え、他になんか意味ってありましたっけ?あ、ありがとうございます。」


「今締め切りちゃんが説明したのはグレゴリー・ベイトソンさんの方で、俺が言ってるのはミルトン・エリクソンさんが発展させた自分がやらせたいことを前提条件として、そのうえで相手に二択を選ばせるっていう、相手に自身の目標を呑ませやすくする方法な。」


なんか名前が似てて覚えづらそうですね。それにしてもそんな方法があったとは。私も今度やってみましょうかね。


「えーと、説明口調ありがとうございます?あと、ちょっと電話してくるので先にご飯食べといてください。」


「あっ、りょうかーい」


「はい、エキリスです。」


多分お叱りの電話かなぁ、やだなぁ。


「もしもしエキリスちゃん?もう47日経ってるわよ?もしかしてさぼってるんじゃないの?」


「いえ、現在鋭意取り組み中です。」


ってもうそんなに経ってるの!!??やばいやばいどうしよどうしよ~。


「3日後までに2作品完成させなきゃいけないのよ?できなきゃ減給だからね?」


「はい、了解です。」


あああぁぁぁんのクソおかま野郎マジでふざけんな!!!!!!!!絶対許さん!!!!!昇進したらリストラしてやる!!!!!


「そう?まあせいぜい頑張りなさいよ?最悪減給どころか解雇まで行っちゃうかもしれないケド。んじゃ、バイバーイ。」


「はい、失礼しまーす。」


ああもうほんとに嫌いです何なんですかあの人パワハラで訴えられませんかね。っと、いやなことより楽しいことを考えましょう。そのほうがよっぽど生産的ですしね。


「電話終わりましたよ〜。」


不思議なことに楽しいことを考えようとしても切り替わらなかったいやな気持ちも龍介さんの顔を見ると晴れ渡っていきます。これが愛の力っていうやつなのでしょうかね。


「お疲れ様。ところで、締め切りちゃんが作家活動を監視するのはいつまでなのかな?」


永遠に!!!と言おうとした口を必死に閉じます。まあ、本音を言うのであれば永遠に一緒にいたいですけれど、


「そりゃもちろん、龍介さんがエタっている小説をすべて完結させるまでです!!!」


「(今はこのくらいで我慢してあげましょうかね。)」


きっと、その「今は」が終わったら、もう二度と会うことができなくなるだろう、ということには目を瞑りました。

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