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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第三章 拗れ始める関係

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14 リースの勘違い




「リース、なんでここに?そ、その……苦しいんだけど」




 そう言って彼の胸を押し返すが、びくともしない。


 この馬鹿力めと思いながらも、どうにかしてこの状況から抜け出そうと藻掻いていると、リースは無事で良かったと蚊の鳴くような声で呟きさらに私を抱きしめる腕に力を込める。

 このままじゃ窒息死してしまうとかろうじて動く手で彼の胸をグーで叩いた。すると、ようやく私の力が緩み解放される。そして、改めてリースの顔を見ると彼は今にも泣き出しそうな顔をしていて、どうしてか酷く胸が締め付けられた。


 別に、リースはあの場にいなかったしてっきりグランツの方が心配して私を探しているものだと思ったのだけど。 

 そんな風に、軽く私はリースを見ていると彼は深刻そうな表情で口を開きルビーの瞳を酷く揺らした。




「お前が誘拐されたと聞いて」

「え、誘拐?」




 しかし、彼の口から出たのは思いも寄らぬもので私は思わず聞き返してしまう。


 誘拐とは一体どういうことなのだろうか。


 そもそも、私がアルベドと一緒に公爵家に行ったことはグランツしか知らず、そのグランツも一応は私の状況を理解していてくれたはずだ。となると、グランツが嘘の供述をして、場を混乱させたと言うことだろうか。どちらにしろ、私は誘拐などされていないし仕方のなかった、あれは事故なのである。


 私がそう弁解しようとするも、怪我はなかっただとか何かされなかったとかリースは私が口を隙を与えず質問攻めにしてきた。



 思えば、リースもといい遥輝はそういう奴だったと思い出した。


 遥輝は、普段は無口で何を考えているか分からない超絶クールイケメンだったけど私が何かしでかすとか、帰りが遅くなるたびにそれはもう過保護を通り越したレベルで心配してきたのだ。わざわざ家まで来て安否確認をし、心配しすぎたから安心するまで家に泊めて欲しいなども言ってきた。

 まあ、それぐらい愛されていたわけだけど私は別にそこまで心配をかけたつもりはなかった。

 だから、今回リースがここにいるのが私の状況をどういった経緯で知って、今心配しているのか分からなかった。


 そうして、やっと口を開くタイミングを見つけたので私は事の経緯をリースに話したが彼は半信半疑に眉をひそめ、私の肩を掴んだ。




「そう、いえと脅されているのか」

「だから、あれは事故だったの。光の枷で繋がれちゃって」

「手錠プレイ……!?」

「や、やめてよ!違う!」




 リースは変なことを言い出して、私は慌てて否定する。あの天下のリース様が必死な顔で手錠プレイなんて言っている姿なんて見たくない。でも、今目の前で見せられている私の気持ちを少しでも察してくれるなら今の言葉を撤回して欲しい。


 しかし、リースは何故かショックを受けた様子で俯いていた。まさか本当に手錠プレイと勘違いをしているんじゃないかと不安になったが、次の瞬間またリースはあの泣きそうななんとも言えない複雑な表情を私に向けてきたため、私はハッとした。



 心配されたことが嫌だったとかじゃない。寧ろ心配してくれたことが嬉しかった。

 それは、推しであるリース様に心配されたことではなく、遥輝に心配されたことが嬉しかったのだ。確かに、推しに心配されるシチュエーションなだ二次元オタクからしたら最高のものである。でも、それ以上に遥輝に心配されたことが私にとっては嬉しかった。だから私は彼の手をいつの間にか握って彼にありがとうと一言伝えた。

 だって、一応は心配してくれたんだもん。ちょっと、妄想が行きすぎているけど。




「ありがと……心配してくれたんだもんね。心配かけてごめんね、でもほんと大丈夫だから」

「……そうか、お前の護衛騎士から誘拐されたと話を聞いたとき血の気が引いた。お前に万が一のことがあれば俺は」




と、リースは震える手で私の手を握り返すとギリッと奥歯を噛み締め私を見つめてきた。


 ルビーの瞳は鮮やかで光り輝いているのに、何処か寂しそうで、私に何かを求めているようにも感じた。その何かが私には分からなかったが私はただ見つめ返すことしかできず、リースのルビーの瞳に自分の夕焼けの瞳を重ねる。



 それにしても、やはり妙なのである。


 あの従順で年の割にはしっかりしているグランツが嘘をつくなんて。

 確かに、いきなり転移魔法で転移したのだがそれで誘拐などさすがに行きすぎている気がする。それに、彼を拘束したの私であってアルベドは被害者だと言われれば被害者である。

 なのにも関わらずグランツは、リースや他の人にそう伝えていたのだ。

 そういうことで、グランツにメリットがあるわけでもないのに。




(後で直接聞こう……その方がよっぽど良い)




 私は取りあえずグランツの虚偽発言に関しては今は考えないことにし、リースをもう一度見つめ返した。するとまた彼は、本当に何もされていないんだろうなと言ってきて、酷く私の肩を揺さぶった。頭がそのせいでぐわんぐわんし、そういえば一緒の部屋で寝たけどとこぼしてしまったことが、彼の地雷を踏んだようだった。




「なん、だと……一緒の部屋で?」

「え、え……うん。だって光の枷で繋がれていたわけだし」

「手錠プレイだけではなく、監禁プレイも」

「ちょっと、だから言い方が!」




と、私が反論しようすると、彼の目が一瞬鋭くなったかと思うと私の首筋に指を当てこれは何だと地響きするような声で呟いた。


 これとは何かと、思考を巡らせていると1つ思い当たる節があり、私はそれを思いだした途端顔が真っ赤になった。




「えっと、これは……虫に」

「このキスマークは、誘拐犯につけられたものなのか?」




 リースの声があまりに恐ろしくて、私はがたがたと震えていた。

 というか、アルベドのことを誘拐犯と言うのはやめて欲しい。一応、公爵家の人間なのだから、それなりに地位はあるわけだし。

 そんなことを考えていると、リースはさらに険しい顔になりチッと舌打ちを鳴らす。




「俺は触れることさえ出来なかったのに」

「リース?」

「……一緒に寝たのか?」




 リースは私にそう問いかけると、答えようによっては……といった感じに私を睨み付けてきた。

 ここで嘘を言ったところで、リースは勘が良いしバレるだろうし、本当のことを言ったら行ったで怒るだろうしで私は後に引けない状況に立たされていた。


 それもこれも、これはアルベドが悪い。




(矢っ張り、痕になってたんだ……確かに痛かったし)




 昨日の夜、私に覆い被さってきて私の首筋に噛みつくように吸い付いてきたアルベドの顔を思い出してしまい私はまた思わず顔を赤く染めてしまう。


 そんな私を見てリースはまた眉間にシワを寄せた。そして、私に近づき首元に顔を埋めてくる。

 私は慌てて彼から離れようとしたが、腕が背中に回され離れられない。そして、彼は私の首元に顔を近づけたかと思えばちゅっというリップ音が聞こえてきて、私は思わず悲鳴をあげてしまった。リップ音と共に、ピリッとした痛みも走り私はただ彼の行動を受け入れることしか出来なかった。


 それも、聖女殿の前で。




「わ、わ、わわわッ!な、何して……!」

「……消毒だ。お前が他の男に触られたのなら、俺が上書きしないと……」

「しょ、消毒、上書き……!?ぴぎゃあ!」




 ぺろりと首元を舐められ私は奇声をあげるが、彼はお構いなしに私の耳元に唇を寄せる。

 さすがに、これ以上はヤバいと私は必死に抵抗し、何とか彼の胸を押し返すことに成功した。だが、まだ諦めていないのか、リースの手が私を捕らえようと伸びてきたが、彼はあと一歩の所で手を止めると、その手を引っ込めてふぅと片手で顔を一掃する。




「もう我慢しなくて良いんだと……抑えられなかったんだ。悪かった。怖い思いをさせたか」

「い、いやべつに……」

「……だが、思えばお前に拒む権利はないな。俺は皇太子だから」

「そ、それは理由になってないんじゃない!?」




 彼は、そう言うとフッと笑い、皇太子だからという理由づけて再び私に触れようとしてきた。

 それは、反則ではないかと思った。だって、確かに皇太子なのは変わりないがそれを理由に好きかってして良いわけじゃないんだし。でも、それで皇太子を突き飛ばしたとかいう罪に問われても嫌だし。

と、私は行き場を失った手でリースをガードしつつ彼と距離を取った。これは、彼が嫌だからではなく防衛本能が働いているからである。




「……まあ、無事だったならいい。俺はそれだけで」

「リース」




 彼は、そう儚い笑みを浮べると私の頬を優しくなぞった。撫でるような、それでもただ触れるだけのものでそこに何処か距離を感じてしまった。

 そんな風に彼を見つめていると、ピコンと機械音を立てて彼の好感度が上昇する。




(後12%でリース攻略か……)




 もうここまで来ると、焦りとかは感じず悟りを開いたような感覚になっていた。後12%でリースの好感度は100%になり、リースを攻略しきることになる。攻略した後のことは分からない。何せ、エトワールストーリーをクリアしていないのだから。

 もし、仮クリアになったとして私はどうなるのだろうか。元の世界に戻れるとか、それともヒロインが現われて全てが無に帰るのだとか。やはり、攻略しても先が見えないため私は不安で仕方がない。


 そんな私の事を察したのかリースはどうした?と顔を覗いてきた。




「やはり、あの誘拐犯に何かされたのか?」

「ううん、違う、違うの何でもないの」




と、私は慌てて誤魔化し笑う。


 リースは完全には納得していない様子だったが、信じようと目を伏せ、次に目を開いたときには顔には笑みが浮かんでいた。

 如何したのだろうかと、私が聞く前に彼は口を開き優しい声色でこう言った。




「明日、一緒に星流祭をまわろう」






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