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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第三章 拗れ始める関係

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08 近すぎる!!




「……ッ!?お坊ちゃま、一体今までどちらに」

「あー説明すると、長くなる」

「それに、そちらの方は……」




 転移魔法で、レイ公爵家まで連れてこられた私は、アルベドの首に回した腕がつったように動かなくなりがたがたと小動物のように震えていた。


 転移魔法と言えば複数人で発動させる、高難易度の魔法だと思っていたのに。それに、アルベドは今魔力が半分しか出せないといっていた……のにも関わらず、彼は私を抱いたまま転移魔法を成功させた。一体彼にはどれほどの魔力があるというのか。


 そんなことを思いながらアルベドを見上げていると、彼はフッと笑い私を見下ろしてくる。




「何だ、惚れたのか?」

「はあ!?なんでそうなるのよ。少し顔が良いからって」

「ふ~ん、俺の事顔が良いって思ってるんだな」

「違う、違う!今の違うから!」

「あんま、暴れると落ちるぞ」




 私が慌てて否定すると、彼はくつくつと喉の奥で笑う。私は、彼の首に回す腕に力を入れると、それを見計らっていたかのように彼は私の腰をぐっと引き寄せる。

 まるで、恋人同士が抱き合っているような体勢に恥ずかしくなり、私は彼から離れようともがくがびくりともしない。

 これが男女の差なのかと、まわらぬ頭は変な方向へと転がって落ちていく気がして今すぐにでもこの状況をどうにかしようと思った。


 彼は私の反応を見て楽しんでいるみたいだったし、彼の執事はと言うとやれやれと言った感じで私達を見ているしで、ほんとうに穴があったらはいりたいと思った。いや、この場合、アルベドを穴に埋めたいと思った。




「そんな、抱きついてやっぱお前俺の事好きだろ?」

「なんでそんな発想に至るのよ!私は落ちたくなくて捕まってるだけ!下心も何もない!」




 私の言葉を聞いた彼は、一瞬目を丸くしたあとにぶはっと思いっきり吹き出して笑い出した。

 何がおかしいのかさっぱり分からない。

 私はただ、落とされたくないから必死にしがみついているだけだ。何が面白いのかと眉間にシワを寄せていると、ゴホンと彼の執事ファナーリクが咳払いをする。




「お坊ちゃま、何があったかは存じ上げませんが、帝国の救世主である聖女様をそんな扱いをなさるのは如何なものかと思います」

「そうよ!私は、聖女なのよ!」




と、私はファナーリクの言葉に乗っかるように彼に言うと分かったよ。とアルベドは言って私を下ろしてくれた。


 下ろす際に名残惜しそうな表情をしていたのは気のせいだろうか。


 私は不思議に思ってアルベドを見ていたが、彼はファナーリクに状況を説明しているようで私の事なんて視界にすら入っていなかった。なんだか、ちょっと寂しいと思ってしまった自分が嫌になった。

 彼が説明をしている間、私はどうすればいいのだろうと思っていると、アルベドが私に向かって手を差し出してきた。

 その行動の意味がわからず首を傾げて彼を見ていると、彼はにやりと口角を上げて笑った。


 その笑顔に、私はぞくりと背筋が凍るような感覚に陥った。それは、捕食者のような目つきのように思え、私は本能的に彼と距離を取ってしまう。




「何で離れるんだよ」

「防衛本能です。これは、防衛……」

「あんま離れるとこの枷が発動するだろうが。俺が嫌いなのは分かってるが、今は我慢して俺の隣にいろ」

「あ、そっか……」




と、私は彼に光の枷のことを諭され納得した。


 確かに、こんなに離れてたら危険かもしれない。痛いのは嫌だし。




「別に、嫌いじゃないわよ」

「なら、好きなのか?」

「ば、馬鹿!好きでもない!」 




 私は、彼に向かって怒鳴ると、彼は楽しそうに笑って私に手を伸ばしてきた。

 何をされるか分からずに固まっていると、彼は私の頭を撫でた。

 そしてそのまま耳元まで顔を持ってくると、彼は囁いた。




「俺は、お前のこと意外と好きだぜ」




と、彼の声がダイレクトで聞こえてきて、私は頬に熱が集まるのを感じた。


 彼は、私の反応を見て満足したのか私から離れるとファナーリクの方へと歩いていく。そうしてついてこいと言うように顎で私に指示を出してくる。

 私に顎で指示を出すとは……と怒りに震えつつも、彼が先ほど呟いた言葉を思い出して、私はふと彼の好感度を確認する。


 紅蓮の髪の上の好感度は26%と以前よりも上がっていることはうかがえたが彼の好きはただの好意でしかないんだろうな、と私は何故か落胆する。

 別に、私も好きでも何でもない。でも、ペースを乱されてしまうのがなんとも言えないし、怪我しているとき見捨てられなかった。




(ううん、怪我してたらそりゃ助けるよ。攻略キャラだし……一応私だって聖女だし)




 そう私は首を横に振って彼についていく。

 少し胸がざわついたのはきっと気のせいだ。






「お坊ちゃま、食事はどうなさいますか?」

「あー部屋まで持ってきてくれ。此奴の分も忘れずに」




と、アルベドの部屋に通された私は適当に座ってろと言われファナーリクとの話が終わるまで彼と一定の距離を保ちつつ彼の部屋を見て回った。


 アルベドの部屋は意外とシンプルで、家具は白と黒で統一されていて、あまり物が置かれていない。

 公爵家の長男だからもっと煌びやかなものを置いていると思っていたけど、案外普通というか質素だった。どちらかというと使用人が使うような部屋……見たいな。


 部屋の中をぐるっと一周見て回っていると、話が終わったのかアルベドから声を掛けられる。




「おい、何見てんだ」

「ひっ、あ、えっと……アルベドの部屋」

「まあ、俺の部屋だしな。別にめぼしいもん何もないだろ?」




 そう、私が見ていたのに気付いたアルベドが後ろから話しかけてきて思わず私は悲鳴を上げる。

 そんな私に呆れた顔をしながらも、彼は特に気にしていないようで椅子に腰掛けふうと息を吐く。




「……公爵家の長男だからもっと色々ものが置いてあるとか、高そうなもの置いてあるとか思ってた」

「お前の今触ってる机0、5つつくぞ」




 そう言って彼は私の触れている机を指さした。一見すると何処にでもありそうなよく見る小さな円机である。

 0が5つということはつまり十万である。

 私は、頭の中で0を並べた後すぐさま机から手を離した。




「まあ、別に気にしたことはねえけどな。前にその机壊したことあったし」

「なんで壊したの……」

「むしゃくしゃしたから」




と、彼は悪びれもなく言い放った。


 彼の行動は、ゲームの中でも度々目にしていたし、そもそも彼はそういう人間であるが、そんな何十万とする机をただむしゃくしゃしただけで壊すなんて。


 庶民には考えられないことである。


 でも、彼は公爵家の人間で金銭感覚が庶民とは違うのだろう。当たり前だ。

 私は、彼の短気さと金銭感覚の違いに若干ひきつつも、足が痛くなってきたので座ろうかと椅子を探していると彼は明らかに高そうなソファーを指さした。




「座れよ」

「いや、でも……」

「きっと、聖女殿に置いてあるものも高価なんだろうな~」

「た、確かに、そうかも知れないけど……わかった、座らせて貰う」




 確かに、今の今まで忘れていたがこの帝国の人達が聖女に貢ぐお金はきっと公爵家や富豪達に相当するものなのだろう。何気なく使っていたが、聖女殿に置いてあるものもかなり高価なものである……と思う。

 私は渋々と彼の言葉に甘えて座り心地の良いソファーに身を沈めると、彼は満足げな表情を浮かべて座っていた椅子から立ち上がると、私の横に腰を下ろした。




「な、なんで!こっち来るのよ」

「俺もこのソファーが好きだから」

「はあ!?じゃあ、私はアンタが使ってた椅子使うからどうぞご自由に。アンタの家な訳だし」

「寂しいこと言うなよ。それに、離れたらお互い痛い思いするだろ?」




 アルベドは、そう言うと私に近づき膝の上に手を置いた。その行動が何を意味するか分からず、私は思わず顔を引き攣らせる。

 でも、これでは、まるで恋人同士の距離感ではないか。

 しかし、アルベドはそんなことを気にも留めず、更に距離を詰めてきた。




「ちちちっちち、近い!そんな近づかなくてもいいじゃない!」

「いいだろ別に」

「わっ、私はまだ心の準備が出来ていないのよ……!」

「なんだそれ」




 私が慌てて離れようとすると、アルベドは私の肩を抱き寄せてくる。




「ひゃああああっ!!ちょ、ちょっと待って……!」




 私が必死に抵抗するが、アルベドは全く気にせず、そのまま顔を近づけてきて、耳元で囁いた。


 吐息がくすぐったくて、思わず身体がビクッと反応してしまう。

 そして、彼の唇がゆっくりと耳に近づいてきて、キスされる!と目を瞑ると、プッとアルベドが噴き出す声が聞え、恐る恐る目を開けると、彼は口元に手を当てて笑っていた。


 完全に遊ばれている。




「ほんと、お前面白すぎるだろ」

「なっ!また、アンタ私で遊んで……!」




 私は、羞恥心から一気に体温が上昇し、顔が真っ赤になるのが分かった。




「出会った時から面白ぇ女って思ってけど、面白さに磨きがかかってんじゃねえか。まあ、そんなところも可愛いんだけど」

「かわ……!?」

「嘘に決まってんだろ。やっぱ可愛くねえ」




 彼はそう言って意地悪な笑顔を浮かべるが、それはそれで恥ずかしい。


 何よ、やっぱり揶揄っているだけじゃないか。


 私が口を尖らせながら彼を睨みつけると、彼はそんな私の視線から逃れるように立ち上がって、ソファーの後ろ側に回り込んだ。

 何をするのかと、身構えているとふと彼は動きを止めぼそりと呟いた。




「なあ、エトワール。お前って好きな人いんの?」





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