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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
番外編 ~回帰~

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305 品種改良の末




「アルベドッ!」

「無駄だよ。そこを叩いても、あっちには声が聞こえないし、あっちも俺たちの姿を見ることはできないっす。ステラちゃんの世界の文明で言うなら、テレビみたいなもんすかね。生中継ってやつっす」

「……すごくダメージを食らっていた。それに、まだ胃の中に入っていないってことは、倒しきれていないってことだよね」

「まあ、そうなるんじゃないっすか」

「いきなり冷たくなるのね」

「こうなるから嫌だったんすよね」




 先ほどとは打って変わって冷たい言い方。だが、ベルは私がこんなふうに取り乱さないためにいろいろと手を回してくれていた。けれど、みせた途端こうなった私に少し幻滅したのかもしれないと。それは仕方がないことだった。それアは仕方がなくて、どうしようもないこと。

 アルベドは次の瞬間にも肉塊に食べられてしまったようだった。


 あ、という間もなく、鏡にノイズが走って見えなくなる。

 肉塊は少なくとも二体いた。そのうちの一体は倒せたから、あんなふうに負傷していたのだと思いたい。でも、もしそうではなかったら、とても苦戦を強いられていることになる。そもそも、軍隊をダサい手戦わないのは、あれを倒せるのは核を壊したときだけだからであって、人が多ければいいという問題ではない。初めてあの肉塊に会った時は、大勢の騎士たちを連れて行ったが、全く役に立たなかった。だって、物理も魔法攻撃も外側からじゃ効かないというのだから、人数がいればいいという問題でもない。むしろ、あの人数が中に取り込まれていたとしたらきっと戻ってこれなくなっていたのだろうと。正気を保っているからこそ、核を壊した後に外に出られるのであって、闇に意識が呑み込まれ消えてしまえばもう元も子もない。人としての人格も体もドロドロに溶かされて出てこれなくなってしまうだろう。

 だから、アルベドとフィーバス卿。そして、ノチェとアウローラしかあの場にはいっていない。

 一体は倒せているはず。だが、あの場に他の三人の姿は見えなかった。最もあの一瞬ですべてが見えたかと言われたらそうじゃないし、うつっていなかった部分もあっただろうが……




「見るだけ苦しいじゃないっすか。どうせ何もできないのに、それを突き付けられるのは」

「それでも、明らかに遅かったから。かえってこないから」

「そうっすね。あの肉塊を作るのにどれほどの犠牲があったか……」

「……っ、そういば、アンタヘウンデウン教にいたわよね。知ってるの?あの肉塊の事」




 そういえば気づかないでいたが、ベルはあの肉塊を生み出す研究に関わっているはずなのだ。だからこそ、少しでもその情報を聞き出そうと彼の方を向く。

 あの肉塊を作るのに、どれほどの犠牲がいるかは大体知っているが、その犠牲よりもはるかに多い数の犠牲が出て作られたものではないかと思ってしまったのだ。それに、尋常じゃないまでに強い。そこまで強くなった理由もベルなら知っていると思ったのだ。

 幹部がどれくらいいたかは正直覚えていないし、ベルトラヴァイン……そして、裏切者のブライトの父親ブリリアント侯爵。他にもいるかもしれないが、幹部が関わって作られた人工魔物であることは確かだ。

 ベルは、私をジッと見た後へらりと笑って、また真顔に戻った。




「普通の人間は聞いたら吐くっす」

「……そんなにもなの?」

「それこそ悪魔的っすね。よく思いつくなと思うくらい……こんなことが効きたいんじゃないでしょうけど、今回の犠牲は多かった。そして、犠牲の前に多くの人間でいろんな実験をしていた。ヘウンデウン教の人間も自らの命を捧げてできたのがあの人工魔物っすよ」

「何で、自らの命を?そこまで、なんで……」

「何で、前の世界と違うかって?そりゃ、混沌が敵じゃないからじゃないっすか。いや、混沌が敵でも、和解を望んでいたあのファウダー・ブリリアントではなくて、君の知っている恐ろしい愛に飢えた獣じゃないっすか。だからっすよ。今回は彼女が全て指揮をとっている。だからこそ、こんなことになっているんす」




 と、ベルは強く言うと鏡にそっと触れた。

 鏡は真っ黒のまま冷たく光っていたが、時々ノイズが走ると、カタカタと震えているようにも感じた。ベルは、あの肉塊の中は中継できないと言っていた。中継しようとして、鏡がおかしくなったように変に動いている。それが気味悪く、私は目をそらした。

 ベルの言う通り、エトワール・ヴィアラッテアが関わっているのだから、違うとはわかっていた。だが、エトワール・ヴィアラッテアがここまで非道な人間だとは思いたくなかったのだ。それが誤算ともいえるし、私が生ぬるい考えを持っていたのだと思い知らされる結果となった。

 問題はそこじゃないのかもしれないが、あの肉塊は彼女が関わったことによるイレギュラーな産物であると。




「私たちを徹底的につぶそうとしているってこと?」

「そうっすね。元からステラちゃんには目をつけていたみたいだし、それもあってフィーバス辺境伯周辺に肉塊を設置したんでしょうね。でも、簡単にフィーバス卿の結界を破ることはできなかった」

「でも、結界は食べていたんだけど……」

「まあまあ、それなりに品種改良はしてあるっすからね」




 ベルはそういって唇を撫でていた。

 品種改良してあると言ったが、その品種改良をどうやってしたかとても気になってしまう。恐ろしいことをするもんだと思うが、そういう問題ではなく、もっと大きくとらえなければならないというようにも感じた。

 ただ、ベルはそういうのにかかわっても止めるという選択肢はとらないし、それに罪悪感を覚えない。ヘウンデウン教を抜けるという選択肢は、彼のかだらの主であったラアル・ギフトが望んでいないためできないというのだ。それもよくわかる。分かったうえで、どうにかできないのかと言いたくなる。しかし、これまでラアル・ギフトがやってきたことを、ベルが引き継いでいるのであれば、いきなりやめだすとベルが何か言われそうでそれも怖かった。エトワール・ヴィアラッテアがベルことを悪魔として認識しているのかいなかも関わってくるのだが……




「アンタは、エトワール・ヴィアラッテアにどう思われているの」

「どう思われているって。ただの幹部……そもそも、あの偽物ちゃんが誰かのことを信用しているとでも思っているんすか?」




 呆れたようにベルはいうと鼻を鳴らす。確かにそれはそうなのだが……




(本当に可愛そうな人。誰も信じられず、信じられるのは自分だけって……どんな人生……)




 私だったら耐えきれない。孤独を好んでいるわけではない。誰かが話しかけてくれたら、同じ話題で話せたらって理解されなかったが思っていた時期があった。その時蛍が声をかけてくれたから今があるみたいな……

 でも、エトワール・ヴィアラッテアにはそういう人間がいない。彼女を理解し、彼女に寄り添ってくれる人間が一人でもいればいい。しかし、彼女はそれを望んでいないのかもしれないし、もとよりあの性格じゃ歩み寄ってくれた人も疑ってしまうだろう。




「……」

「ステラちゃんは優しいから、傷ついちゃうんすよね。分かるっす」

「何が分かるのよ……」

「ありゃ、辛辣。まあ、まとうじゃないっすか。たぶん倒してくれでしょうし」

「そういうアンタは倒せないの?あの肉塊は」

「そうっすね。あれの倒し方は全部共通っすから。俺が言っても動きを止めて進行を食い止めるだけだと思うっすよ。それに、悪魔はあの中に入れない。いや、入りたくないって言った方が正しいっすね」




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