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300 聖女分離




「聖女は真っ白な空間にいるんすよ。悪魔は順番待ち。でも、聖女は違うっす。聖女は基本は同じ魂の循環。前の代で受けたダメージや闇は次の代が引き継ぐんす」

「ということは、聖女は基本同じ人間ってこと?」

「そうなるっすね。あーでも、召喚されるっていっても、だいたいブランクがあるんすよね。そもそも、混沌を倒すため、封印するために聖女が召喚されるんすから、混沌が復活しなければ召喚される理由がないし、基本は召喚できない。むやみやたらに召喚しようとすれば、前の代で傷ついた聖女、力がない聖女が召喚されて逆に世界に悪影響を及ぼすんす」




 同じ魂だけど、体は違う。しかし、中身も違うように思えるがそれはどうなのだろうか。

 ベルの説明が少しわかりにくく私は首をかしげることしかできなかった。もう少しわかりやすく言ってくれてもいいのに……なんて思ったが、ベルは私の反応を見て「困ってるっすね~」といって笑っていた。わざと難しくしたわけではないが、私の読解力と、この世界に対する認知があまりできていないせいで起こった差異なのだと。

 そもそも、乙女ゲームの知識しかない私が、この世界のすべてを知っているわけではなかった。作り物だと思っていた世界の延長線。私が知らなくても、この世界はいきなりできて、いきなりこんな府になったのではないのだと、ベルはそう言いたいのだ。もちろん、そうだと思う。本当にゲームの世界に入ったとしたら那波、エンディングを迎えたらそれで物語は終了するはずだから。そうじゃないからこそ、この世界が第二の世界、地球と同じように文明があって、文化があってと考えるのが正しいのだと。

 それにしても、わからないことだらけであり、いまだにこの世界の常識についていけていないところもある。




「聖女召喚は言えば、非常ボタンみたいなものってこと?」

「非常……まあ、そうっすね」

「いや、アンタ本当にわかってる?」

「わかってるっすよ。ステラちゃんの記憶は覗けるんで、ステラちゃんの元居た世界のこともなんとなく。まあ、だから簡単にポンポン押したらいけないってことっすよね。聖女召喚は、あくまで非常措置。だからこそ、何もない時に召喚はできない。けれど、今回はイレギュラーが起こった」

「エトワール・ヴィアラッテアと、トワイライトの二人の聖女の召喚」




 聖女の魂は一緒だといいながら聖女が二人いるという矛盾。もし、ベルの言っていることをみんな知っているのだとしたら、二人聖女がいるのはおかしいと思うのは当然だ。そもそも、聖女というのは体は違っても、聖女と一目見てわかる容姿をしているのなら、容姿違いの私が偽物だといわれてもそれも仕方がない話なのだ。

 二人いて、違うほうを省くのは道理にかなっている。




「そうっす。二人召喚されている時点でどちらかは、聖女じゃないんじゃないかって思うのが普通っすよね。ましてや、もしこれがステラちゃんじゃなくて、本来のエトワール・ヴィアラッテアが召喚されていたとしたら、またそれもきっとおかしなことになっていったすよ」

「……もしかして、私とトワイライトは双子で同じ魂を分けていたから?」




 魂が同じ、ではないのだが、双子だとそれはもしかしたら当てはまるのかもしれ兄と思った。あまり嬉しい話ではなかったが、そういえなくもないだろうと。ベルは無言でうなずいていた。どうやらその推察はあっていたらしかった。

 だが、エトワール・ヴィアラッテアだった場合、トワイライトとは関係ない存在になる。

 しかし、そこまで考えて、ある考えに私はたどり着いてしまった。




「聖女の人間らしい部分と、聖女らしい部分に分かれたってこと?ということは、結局二人で一つの存在」

「そうっすよ。エトワール・ヴィアラッテアがあんなにも人間らしくてドロドロとしているのは、聖女らしい部分とトワイライトという聖女に持っていかれたから。だから、彼女に残っているのは、聖女が捨てるはずの、あるいは中和されて丸くなるはずの愛してほしい、認めてほしい、必要としてほしいという部分が大きく出てしまっているんす。とうか、承認欲求の塊になってしまっている。逆にトワイライトはそうじゃないでしょ?」

「……でも、そうじゃなかったとしたら、そもそも混沌の手に……闇落ちはしなかったと思う」




 トワイライトが本当に聖なる存在であったとするのなら、闇落ちする理由なんてなかったのだ。でも、トワイライトは混沌の手を取ってラスボス化した。彼女に、そういった負の面が全く残っていなかったというのなら、誰かに嫉妬することも、何かを求めることもしなかったのではないかと私は思った。あくまでそう考えたら、の話なのだが。トワイライトは私と関わることで人間らしくなっていったというのだろうか。

 それとも、私と魂を分けた双子だったから話が違っていたのだろうか。もし、エトワール・ヴィアラッテアとトワイライトという二人の聖女がいたとして、私が完全なる部外者だった場合、どうだったのか。エトワール・ヴィアラッテアが闇落ちするルートは確実だったのではないかと思う。




(だから今みたいな状況に……)




 満たされぬ承認欲求を満たし、彼女を救う方法などなかった。それに、彼女とトワイライトをもとの存在に戻すことはもうすでに不可能だろうお。私が存在している時点で、トワイライトの魂の片割れは、私であり、エトワール・ヴィアラッテアがではない。エトワール・ヴィアラッテアの魂は確立され、承認欲求の塊、愛に飢えたかわいそうな人間が誕生してしまったのだ。トワイライトはトワイライトで私に感化されて、一人の人間となってしまった……

 私が、エトワール・ヴィアラッテアから体を奪えば、トワイライトは一人の人として生きることができ、聖女としての役割から少しずつ隔離することができる……?

 いろいろ考えてみたが、難しい話だった。私には到底理解できず、それがあっているとも思えない。しかし、一人の人間に戻すことは現時点では不可能なのだろう。

 エトワール・ヴィアラッテアが救われる道は経たれてしまった。




「救えない……?」

「救おうとしているところがステラちゃんの優しいところっすよね。でも、何でもかんでも救えると思っちゃダメっすよ。こればかりはどうしようもない。今回のイレギュラーは、ステラちゃんじゃなくても起きた。何千年と歴史ある、もっとも人間が生まれる前からだったられきしはもっとながいこの世界。初めて、聖女の分離なんてもんが起きたんすから。それは、本当にイレギュラーとしか言いようがないっすよ」

「私が転生しなかったとしても、エトワール・ヴィアラッテアは救われなかった」

「そう、創作者が設定したんすかね。ただ、悪の塊から人間に戻ることはできたと思うっすよ。それを拒んだのはあの偽物……彼女自身、悪の塊になることを望んでしまったんすよ。それこそ、悪魔との取引みたいな。もう、引き返すことはできないところまで来てしまった。救おうと思わないほうがいいっす。ステラちゃん。その弱みに付け込まれて、また引きずり落されて、死ぬっすよ」




 と、ベルは今まで聞いたことがないほど真剣な声で、表情でそういった。

 救えるものだと思っていたし、分かち合える、理解しあえるものだと思っていた。だが、そうではないと。

 三人の聖女。悪と善と人間……完全に分離してしまった今世代の聖女は、一人が消えることでそのバランスをとることしかできなくなってしまったというのだ。




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