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298 序列




 アルベドたちならきっと大丈夫。


 そう分かっていても、気になってしまうし、心配になってしまう。もしもとか、最悪、とかいろいろ考えてしまえるから。不安ごとはだいたい怒らないとはわかっていても、可能性があるのならそれに引っ張られてしまうものだ。




「本当に嫌になる」




 純粋に好意を受けいれられない未熟さと、それを受け取って幸せになってしまうという恐ろしさがあって私は、フィーバス卿の言葉に関していろいろ思うところがあった。本当に純粋に受け取ればいいのに、魔法が使えないだけでこんなにも自分の気持ちが落ち込むなんて思ってもいなかったのだ。

 わかっている。これも甘えで、弱さだってことも。自分が受け入れてそのうえで何をできるか考えなければならないことだって。全て。

 それでも、一人心細く、アウローラもノチェもいないこの部屋の中にいることはできなかった。しかし、ここから脱出しようにも誰かに見られては部屋の中に戻ってくださいといわれるがおち。いったとしても、戻れといわれてしまうだけ。仮に何かしらの方法で魔法を使えるようになればとは思うのだが。




「はあ……そんな簡単にいくわけがないんだよね」




 アルベドと、フィーバス卿がいってしまってからかれこれ一時間が経過した。オタク心を消化できるものが何もないため、本を読んで過ごせばいいのだが、そんなことできるような余裕もなく、私はごろごろとベッドの上で寝転がることしかできない。秒針の音がゆっくり聞こえる。カチカチとゆっくりと、ゆっくりと。それが私をいらだたせ不安にさせるのだ。こんなにも時間がゆっくりとすぎることは今までになかったから。




「……ベル」




 弱みに付け込むというところでは悪魔らしいのかもしれない。

 フィーバス卿があの門を開けた今、きっと彼はここに入ってこれる。だが、閉じたとき帰れなくなるという嫌な制約がつくが、きっと彼は賢いし、そういうのもすべて計算に入れるだろう。




「呼んだっすか」

「本当に来るんだ。びっくりした……」

「呼んだのはステラちゃんじゃないっすかーひどいっすね。俺を精霊みたいに呼ぶのステラちゃんぐらいっすよ。俺、一応悪魔なんすよ?」




 それでも来てくれるところを見ると心配はしてくれているらしい。

 確かに、ベルのいう通り悪魔を顎で使うような人間はこれまでも、これ以上もいないだろう。それに、悪魔に相談相手になってもらおうという聖女なんてこの先も絶対に現れない。

 藤色の髪を揺らし、ベルは蝙蝠のように逆さになって現れた。もうそれくらいじゃ驚かないので、私は彼が床に足をつけるまでその一連の動作を見守って息を吐いた。




「一応、念のため。本当に念のため聞くんだけど、アンタと契約したらどうなるの?」

「えー、なんでそれ確認するんすか」




 ベルは、ふてくされたように頬を膨らまし私を睨みつけた。この間、絶対に契約はしないといったばかりなのに言われたら、誰しもそんな反応をするのかもしれない。もちろん、私は契約する気なんて毛頭ないし、契約した後のデメリットの大きいことを知っている。だから、一応あくまで確認なのだ。

 私が教えてといえば、ベルはお手上げのように肩をすくめ、私の前にすとんと座った。




「まず、禁忌の魔法っすから、契約者の存在は消える。まあ、言ってしまえば俺が魂食うみたいなもんすね。いや、俺が魂を食う。食うことによってその人間に成り代わるんすよ。だから、元の人間の記憶やこの世界で生きていたっていうすべての情報が消されるわけっすね」

「なるほどね……だから、誰もラアル・ギフトのことを覚えていないと」

「でも、ステラちゃんは例外っすね。あの場にいたのと、悪魔と聖女じゃ、悪魔の力はあまり通用しないっすから」

「ベルの記憶操作を受けなかった理由はそれだったの」

「そうっす、そうっす!」




 元気よく言うので嘘っぽく聞こえるが、嘘じゃないのだろう。

 記憶操作を受けなかったのは聖女だからというのは理由が通る。それはあの場にいたラヴァイン……に化けたアルベドと、グランツが一緒にいても彼らは覚えていなかったからだ。それに、魔法を切ることができるグランツでさえ覚えていなかったのだから、記憶改ざんという名の、世界からその人間の記憶を抹消するという禁忌の行為は誰もが手を付けられないレベルらしい。

 自分がいなくなると考えるとゾッとするし、知らぬ間に知らない人に入れ替わって日常に溶け込んでいると思うと恐ろしい。そういう映画がありそうだなと思いながらも、その知らぬ間に溶け込むという行為は、ベルにとってはきっと苦痛なのだろう。




(私と一緒にいたいのって、もしかして孤独だから?)




 悪魔に感情があるかわからない。心があるかわからない。だが、少なくともベルは、人間に寄せた心があるわけで。その心に従って私のところまで来てくれている。まあ、元の人間がそもそも心のないような人間だったため、自分が食べた情報の魂の相手が心がなくとも、人間らしさに引っ張られるのではないかと思った。




「孤独っすよ。ステラちゃんのいう通りっす」

「心読むのやめてくれない!?怖いんだけど」




 ごめんごめん、と謝る気のない謝罪を受けた。だが、思っていたことは少なからずあっていたらしい。

 孤独だから、誰かを求めてしまう。それは、人間に憑依した悪魔特有のものなのかもしれない。




「ベルはなんで召喚されたの?」

「そりゃ、禁忌の魔法を使われたからっすよ。まあ、といっても序列みたいなもんがあって、誰が召喚されたときに行く?っていう話になるんすよね。今回は俺だったってだけで、他の奴だったかもしれない。ただ、俺みたいなタイプも珍しいんで、他の奴が召喚に応じていたらもしかしたらステラちゃんたちはあの場でコテンパンにされていたかもしれないっすね」

「ひ、ひどいけど……そう、序列が……」




 順番待ちをしているということか。

 悪魔にもそんな規則性というか、法則性があるなんて知らなかったが、ベルはこの世界を満喫しているみたいだった。聖女ももしかしたら同じものなのかもしれないが、またそれも変わってくるかもと。




「外側からずっとこの世界を見ていたんっすよ。俺たちのいるところは暗くて何もない場所。目では相手の姿を目視できなくて、けど、その姿ははっきりとわかるんすよね。それこそ、魂じゃないっすけど、そういう形っていうか。それで、償還に応じてようやく形を得られるんすよ。だから、みんな争奪戦って感じっすね。召喚された、俺が行くって」

「そ、そんな大変なことなの?」




 ベルは大変じゃないといっていたが、ある時はもっと壮絶だったという話を聞いて肝が冷えそうになった。悪魔たちはお互いが仲間だと思っていないからそういうことが起きるのだと。




(というか、悪魔は真っ暗な空間にいるんだ……)




 トワイライトは真っ白な空間だといっていた。そこは、悪魔と聖女で違うのかもしれない。ただ、何もない空間にずっといたら気が狂ってしまうのではないかと。それも、悪魔だからという理由で大丈夫なのだろうか。




「聖女はちょっと違うと思うっすよ」

「ちょっと、また人の心読んで……ひどい」

「ひどいって。ちゃんと答えてあげてるじゃないっすか。ステラちゃんの暇つぶしに」

「……」

「それで、続けてもいいっすか?気になるっしょ?」




 と、ベルは私に向かって意地悪な笑みを浮かべる。

 確かに気になるところだが、私が気になるのはそっちではなくて、アルベドたちだ。しかし、もう少しだけここで待ってみようという気にもなってきたので、私は続けるよう、ベルに促した。彼は待っていましたといわんばかりににしし、と笑って椅子に腰かけた。




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