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295 魔法反対派閥




「あるぞ。前例が、という言い方であっているかどうかはわからないが、類似した事例はある」

「え?」




 思わず見てしまったのはアルベドのほうだった。アルベドは、マジかよ、みたいな顔に出すぎている表情でフィーバス卿を見ていた。先ほど彼はラヴァインが似たような例だったといい、だが稀すぎて普通はありえないといったばかりだったからよほど驚いたのだろう。わからないでもなかったが、彼と次に顔があった時は、「嘘じゃないから」みたいな顔で私を見ていた。フィーバス卿がいったことが本当であれば、アルベドのはうそになる……ということにはなるけれど。




(フィーバス卿が嘘を言っているようには思えないし……)




 とても自信のある表情で言うのだから、これが嘘という話にはならないだろう。そして、まったく的外れな内容でもないことはフィーバス卿を見ていればわかる。彼が自信を持っていうのだから何も間違っていないと。アルベドはもう何も言わなかった。




「ステラが今置かれている状況のすべてが当てはまるかはわからないがな。だが、ここには多くの資料や文献がある。一つや二つぐらい前例はあるだろ」

「待ってください。お父様。そんな文献、どこに……というか、それはなぜここにあるんですか?」




 疑問はそこからだった。なぜ、フィーバス卿のもとにそんなものがあるのだろうか。そういうのは普通皇宮とか、それかブライトの家にあるものじゃないだろうか。ブライトに関しては、帝国の魔導士の中で一番力を持っている家だし、神殿とのつながりも強い。もちろん、私は今自分が聖女だと公言していないし、この体が初代聖女のものであるとも言っていない。だから、聖女は他とは違う、というのもまた話が別になってくる。

 それはおいて置いて、なぜそんな貴重なものがフィーバス卿のもとにあるのかだけはとても不思議だったのだ。




「それはだな、ステラ――」

「それはフィーバス卿が、魔法反対派だからだよ」

「え、えっと」




 重ねるようにアルベドが言葉を紡いだ。フィーバス卿は、言葉を重ねるなとアルベドを睨んでいたが、アルベドはお構いなしにそうだろ? と首をかしげる。

 魔法反対派だから、という理由もよくわからないが、そもそも魔法反対派というのはいったい何なのだろうか。




「あの、魔法反対派って……」




 聞きにくい雰囲気の中ようやく開けた口から紡がれたのは本当に言葉をそのまま返すようなものだった。フィーバス卿も、アルベドも私のほうをじっと見ていて、私だけが知らないみたいな空気を作らないでほしかった。実際にそうなのだけど、もう少しわかりにくくしてほしいというか。メンタル面で自分があまり強くないことを自覚しているため、こういう空気は耐えられなかった。

 アルベドも、フィーバス卿も互いに顔を見合わせた後にこっちを見たため、二人は知っていて、私は知らない勘をさらに強調してきた。




「魔法反対派っつうのは、魔法を戦争に使わないことを推している派閥のことだよ。それもあって、フィーバス卿は現皇帝と仲が悪い。魔法は兵器っつう話はよくするだろ?帝国では魔法が使えるのが貴族しかいねえ。そして、そういう貴族はだいたい魔法を兵器として活用する。戦争で勝つために、目立つために。だからこそ、魔法を日用的に使うものにしようとする動きは見かけられねえんだよ」

「そ、そうなんだ……へー」




 言っていることは当たり前なのだが改めて聞くと、そういう派閥があること自体知らなかったと視線を逸らすことしかできなかった。

 確かに、魔法が使えるのはほとんどが貴族だ。そして、その貴族のほとんどが魔法を兵器や力を証明するために使っている。アルベドのいうように魔法を日用的に使おうとしている人間はいないのだ。魔法は便利なため、普段使いできる、暮らしを助けるものに変えることができたら貴族や平民が平等になるのかもしれないと。

 そう考えたとき、魔法石が取れる洞窟をダズリング伯爵家に渡したのはとてもいい選択だったんじゃないかと思った。ダズリング伯爵家もきっと魔法反対派だと思う。彼らは富豪であり、金儲けができればいいから。ということは、平民やお金の流れを作れる人を好く。もちろん、最初は貴族しか買えないだろうが、その範囲を広げていけばまたお金儲けができるだろうし。




「魔法反対派といっても、魔法を使えなくするべきだとは思わない。使い方によって、兵器にもなるが人を守るための盾にもなる。それを理解してほしいと思っているが、そう簡単にはいかない。それは、アルベド・レイと同じだな」

「一緒にされたくねえけどな。だが、思想としては似ている。俺の差別ない世界の実現と、魔法を使った平和化……」




 そういって二人は顔をそらした。


 似ているといわれたくない気持ちもわかるし、そして似た者同士であるという気持ちも十分に理解できる。目指す地点は違うが、アルベドの理想の先にフィーバス卿の理想があるといった感じだろう。アルベドのほうが理的な問題で実現は難しくあるが、フィーバス卿の理想もこれもまた難しいだろう。どちらもそれをわかっていて、また、理解者がいない。それをずっと悩んでいたのだと今知った。もしかしたら、フィーバス卿は自身の理想と近いアルベドを嫌いになれずにいるのかもしれない。そもそも、差別するようなタイプでもないため、アルベドの理想はかなってほしいとも思っていると。私はそう思った。

 魔法反対派閥。もちろん、それは少ないと思うし、軍事国家まで行かずとも、帝国は魔法主義なところがある。魔法をという力、権力を振りかざす貴族はこれまでに見てきた。その中で、闇魔法の魔導士の魔法の使い方が非人道的であることが強調され、魔法は危険であり、そして魔法でなければそういった者たちに対応できない、闇魔法の人間は悪であると負の循環に陥っているようにも見える。

 そして、魔法主義の帝国で、魔法が使えなくなった私は非力すぎると。




「魔法反対派閥についてはわかった。それで、お父様の家に資料があるのはなんで?独自に調べたものがあるってこと?」

「ああ。先代ブリリアント家当主からもらった資料もある。今の当主はだめだ。魔法に縛られすぎている。ブライト・ブリリアントは違うようだが、あいつもまた違う問題を抱えているようだしな」

「……」

「ブリリアント家とは長い付き合いだ。俺がこの地に飛ばされてからも、現当主の父親と交流があるしな。皇族側からすれば、皇族と並ぶかもしれない力を持つ辺境伯は遠ざけたいに決まっている。だからこそ、ブリリアント家を盾にしている。無理やり従っているわけではなかろうが、今のブリリアント家は皇族の配下といっても過言ではないだろう」

「ブライトのところが……」




 フィーバス卿は独自に調べたものを保管しているといった。そして、その中に私が今まさにぶつかっている困難と似たような事例があったというのだ。

 自分が置かれている状況もそうだが、ブリリアント家がそんなふうになっているなんて知りもしなかった。ブライトはそういったことを一切言わなかった。だが、気づくきっかけはあったというか。




(そういえば、ブライトってリースのこと苦手だったもんね……)




 リースが、というよりかは、皇族そのものが嫌いなイメージがあった。現皇帝が力で押さえつけているため、そういうやり方をひどく嫌っていたのだ。それでも、口出しできないのは反感を食いたくないから。




「それで、もう少し詳しくきこう。ステラ……話の腰を折ってすまなかったな。続けてくれ」

「え、ああ、はい」




 フィーバス卿に促され、私はこれまであったことを落ち着いて話すことができた。先ほどまでの心のもやもやはどこかに消え、最後まで親身に聞いてくれたフィーバス卿に感謝の気持ちを抱きながら自分の言葉で説明することができた。




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