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291 凍え死に




「このまま降り続けたら、動かなくなっちゃうんじゃない?」

「かもな……」

「……どうしよう」




 もう少しでつくといっても、魔法が使えない以上徒歩になる。そして、御者や馬車を置いていくのも心苦しかった。引き返そうにも、この雪の中じゃどうしようもない。もちろん、辺境伯領の中まで入ってしまえば問題ないのだが、そこにたどり着けるかも不安だった。立ち往生で、凍え死んでしまうのだけは避けたかったが、とうとう馬車が止まってしまったときには絶望さえ覚えた。

 御者が私たちに、これ以上は進めません、と震えながら言ったので、私たちはとりあえず御者を馬車の中に引き入れ、今後どうしていくかの話し合いをすることにした。馬たちも外気にさらされて死んでしまうかもしれない。アルベドは雪が積もらないようにと結界魔法を張ってくれて、先ほどよりは寒さが和らいだ気がした。




「結界魔法……」

「んだよ。どうせ、ラヴィと似てるって言いたいんだろ?」

「ああ、まあ、うん。そうだけど。このまま移動できないかなあーって」

「めちゃくちゃな要求だな」

「えーでも、こうやって結界魔法がはれるってことは、張りながら動けるんじゃないかって思ったんだけど……ダメ?」

「ダメというか、かなり魔力を消費するからしたくねえんだよ。俺は、こういう繊細な魔法は苦手なんだよ」

「そういうふうには見えないけど……でも、そうだね。魔力は温存しておいたほうがいいかも」




 胸騒ぎがする。そして、この先になんだか嫌なものがいる気がしたのだ。となってくると、今魔法が使えるアルベドの存在は重要だ。御者の人は一般人だろうし、一般人でないにしても戦闘向きの魔法は使えないだろう。アルベドたちを基準に考えてしまうが、普通はあんなふうに戦えない。アルベドだよりになってしまうのも申し訳ないが、頼らざるを得ない状況であることは確かだ。

 このまま一夜を明かしてもいいが、何もない状況。そして、結界魔法の維持には魔力が必要。そうなってくると、アルベドの体調も心配になってくる。馬車の人を転移魔法で元の場所に戻すことはできるだろうし、だったら後は私たちが歩けばいいだけの話なのだが。




(こんな吹雪の中歩くとか考えたくないんですけど!?)




 一応考えの一つに挙げてみたが、この吹雪の中歩くとなると、次は体力面で消費してしまうのではないかと思った。アルベドもさすがに、この中を歩きたいとは思えないだろう。だが、馬車と御者をもとの場所に転移させ、私たちが辺境伯領の正門の前まで歩くほうが魔力を温存できる。それに、暗くなって何か魔物が出てもしたら大変なのだ。




「アルベド」

「歩けるか?」

「エスパー?私の心読んだの?」

「いや、それしかねえだろ。ああ、エスパーとか云々じゃなくてだな……歩くしかねえよ。辺境伯領周辺の結界魔法を一時的に解いてくれれば、すぐにでも俺たちは転移できるが、それができねえせいで歩くしかない」

「ま、まあ、そうだけど」




 外部からの侵入を警戒し、辺境伯領周辺には特殊な結界魔法が施してある。そのせいで、辺境伯領に行くには、近場まで転移してそこから馬車を使うしかなかった。それか徒歩で。そんな厄介な性質が、ここで顔をのぞかせるとは、なんとも最悪な話だった。一時的に魔法を解くなんてこと大がかりすぎてできないだろうし、それこそ、一日でできるかもわからない仕事だ。フィーバス卿と連絡が取れるわけでもない。

 アルベドと私は腹をくくり、御者にお礼を言って、馬車とともに、レイ公爵家まで転移させた。結界魔法を解けば、また先ほどの寒さが体にビシバシと当たる。もう一重にアルベドは私に魔法をかけてくれたが、またその時いつもの反発は起きなかった。

 私の周りに浮ているであろう魔力も何も言ってこなかったため、多分こういった悪意のないものには反応しないのだと思う。ラヴァインの時が同だったかは知らないが、少なくとも私の魔力は人を殺すような力はないと思うのだ。そう勝手に決めつけているが、もし人を傷つける類のものだったらどうしようとも思う。アルベドがそのせいで傷つくところだけは見たくない。




「さーて、行くか。あんま乗り気しねえけど」

「そりゃ、この中誰だって歩きたくないでしょ……寒い」

「……魔法はかけてあるはずなのにな。何か問題でもあんのか?ほかの……」




 アルベドの魔法が不発に終わったわけではない。ただ、本当に寒かった。彼のいう通り何かほかの原因も考えられた。

 私たちの足元は雪で覆われはじめ、このままいたら頭の先まで埋まってしまいそうだと、足を進める。といっても、私の服がドレスに近い形なので、本当にゆっくりとしか前に進め体は冷えていくばかりだった。

 辺境伯領に何が起きているのか、先に進まなければわからないのに、まったく前に進まない。ドレスをびりびりに破ってみてもいいが、さらに寒くなるのではないかと思って破くこともできなかった。それに、今の私の力じゃ何もできないだろう。




「おぶってやろうか?」

「いい!アンタだって寒そうにしてるし、これ以上迷惑かけたくないし……」

「迷惑じゃねえけど。まあ、確かに俺も寒いな」




 そう言われれば、みたいな感じでアルベドは言うので、彼は体感がおかしくなっているのではないかと思った。温度を感じないわけがないのに、指先が震えているのが分かった。黒い手袋の下で指が震えているのを私は見てしまった。視界が悪くなって、さらに寒さが私たちを襲う。前に進んでいる感覚もなくて、ぐるぐるとその場を回っているようにも思えた。




(どうして、こんなこと……)




 フィーバス卿が何かやったとかそういうのではない。この森事態に異変が起きているのか。まるで、あの怪物の中に入ったような感覚に近かった。しかし、あの中は一寸の先も見えない暗闇で……




「アルベド」

「んだよ」




 寒そうに鼻をすすりながらアルベドが私のほうを向いた。足は止めることなく体は前を向いている。彼もこのままでは凍ってしまうと考えているのだろうか。




「ここが、あの肉塊の中ってことはないの?」

「ねえよ。今までそんな肉塊いなかっただろ?」

「でも、そういうふうになるように作ったんじゃ……」

「ねえ。それははっきり言う。ここが肉塊の中だったとしたら、もっと俺たちは苦痛を感じていただろうし、そもそも、魔法が使えないお前は闇に飲み込まれてるだろうしな」

「た、確かに、そうかも、だけど……」




 となると、異常気象という線しか考えられなくなる。それもそれでおかしくて、私はますます、体に力が入らなくなってきた。

 眠たくもなってきて、このまま寝てしまいそうだ。でも、それはよくある雪山で遭難した時寝てしまったら、死んでしまうあれに近いものだと思ったので、どうにか自分を叩いて奮い立たせる。




「アルベド、あとどれくらい?」

「もう少しだと思うけどな。つっても、どれくらい歩いたかもわかんねえから、はっきりとは言えねえけど」




 そういったかと思うと、アルベドは足を止めた。

 何があったのかと私は倒れ込むように彼の背中に鼻をぶつけてしまう。痛いと、はなをおさえながら 前を見ると、先ほどまでなかった、辺境伯領につながる大きな門が目の前に見えた。しかし、その門をたたく気味の悪い赤黒い物体が二つ……




「うそでしょ……!?」




 ハッと私は口を押え、目の前のありえない光景に瞳孔を震わせる。

 そこにいたのは、まぎれもなく、あの肉塊。しかも、この間よりもはるかに大きな体をしており、生臭いにおいを発し門をたたいていた。




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