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289 第二の人生、第三の人生で




「純粋な悪意なき殺意の魔力?」




 アルベドが口にした言葉。そのあまりにも矛盾する言葉に、私はどう反応すればいいかわからなかった。いっている通り、矛盾だらけの言葉だったから。本人もそれを自覚済みだからこそ、不思議な感覚に陥る。筋が通っていないはずなのに、納得してしまうような言葉だったから。




「ああ、そうだ。うまく言えてるかわからねえけど、純粋な悪意なき殺意の魔力……本人が純粋無垢だからこそ、魔力がその人間の悪を代わりに引き受けるようなそんな、な?」




 アルベドは、どうにか言語化してそういうと目を伏せた。

 たしかに、ラヴァインがその時まだ善悪がついていなくて、純粋で、そして自分を狙った人間を魔力が反応して殺したというのなら。魔力の持ち主は純粋で、魔力の持ち主を守るために魔力が暴走した、殺傷したというのはわからなくもない。それって、結局私が今陥っている状況と合致するのではないかと思った。

 ラヴァインははっきりと覚えていないが、トラウマになっているともアルベドは言った。ということは、恐怖を感じた瞬間魔力は主人を守らなくなる……ということだろうか。

 すべて憶測にすぎないし、それがあっているとも言えないし、言わない。けれど、なんとなく出仮説を立てることはできそうだと思った。




「でも、似てる。けど、わかんないよね。なんで魔力が意思をもって主人を守るかって話」

「そうだな。守ってほしいと願ったからか。いや、でも無意識だな。となると、この現象については説明ができねえ」

「そもそも、魔法をすべて理解して使える人なんてそうそうそういないじゃん!だから、わからなくてもしたないし、魔法が人の手に余るものだって、私たちは理解していないといけないわけで……」




 魔法は人が扱う中で一番恐ろしい平気だと思っている。だからこそ、理解したうえで使わなければ危険なのだ。

 それができなければ人を傷つける。

 この話に答えはないと思った。ぶっきらぼうすぎる言い方をすれば、人それぞれで、似たような現象が仮に起きたとしても、それは全くの別物だと。だから、考察の余地はあるが、100%それと言い切ることは不可能だと思った。

 何にしろ、ラヴァインが経験したそれらは、思い出すのも苦痛なものだったのだろうと。そこから、ひねくれてしまったのかもしれないし、加えて、アルベドとの関係もあったから、彼は今のような状態になってしまったのではないかと思う。それがかわいそうという言葉で片づけられないからこそ、彼はどうしようもなさを抱えているのではないかと。




「わかんねえな。ただ、もうラヴァインは同じような状況にはならねえんじゃねえかと思う。あれ以降、同じような現象は起きてねえし。それに、お前の魔法はお前を守るために俺の魔法を粉砕したので当て、ラヴィの場合は、ラヴィに向かって魔法を放ったやつが死んでるから、また違うと思うぞ?」

「確かに、そうだけど……でも、ラヴィが殺そうと思って殺したわけじゃないんだよね……多分」

「ああ、多分としか言いようがねえよ」




 だって、善悪の基準がまだわからなかった頃と言っていたから、明確に殺意を持っていたわけじゃないだろう。けれど、危機感というか、そういうのは働くわけで、それらが魔力に作用して、魔力が勝手に人を殺したという可能性は捨てきれないのだ。難しい問題なあ、なんて思いながら、私は息を吐いた。

「まあ、それが何にしろ、今のラヴィになるまではいろいろあった。それも一つの原因かもしれねえし、そうじゃねえかもしれねえ。ただ、もっとあいつに関わっていれば変わったかもしれない未来があったのは確かだな」




 と、アルベドは言って窓の外を見た。


 後悔しているようにも見えたが、どうしようもない現実を見て、過去を見てどうにか救われようとするのはアルベドらしくないと思った。だから、もう仕方がないことであり、今からどうやって彼との溝を埋めるか、模索しているような顔にも思えた。難しい問題であり、簡単に突っ込める問題でもない。私が手を差し伸べることはできても、それは本当に、差し伸べるだけで、解決には至らないだろう。

 私は、トワイライトとそういう関係ではないので、仲良く姉妹をやっているが、周りから見たらこれも異様な形なのかもしれない。




「仲が悪いのは、知ってると思うが、お前の思っている通り、簡単にこの溝は埋まらねえと思う。それは、世界が元通りになったとしても、俺たちはずっとぎくしゃくしていくだろうよ」

「それは、悲しくないの?」

「悲しいっつうか。互いにすれ違って、意地を張っている部分があるから、そこをどっちかが折れるか、どっちもが折れるかしねえと無理かもしれねえ。でも、そういう問題でもないだろ?兄弟は、家族とは、そんな簡単な言葉で片づけられるような関係じゃねえんだよ。だから、ステラも、そこまで気を負う必要ないと思うぜ?フィーバス卿は俺から見ても、変わったと思うし、ステラがいることで、辺境伯領が少しずつ変わっていっている気もするからな」

「そんな感じ、本当にするのかな……」




 客観的になれていないから、そう見えないだけで、アルベドが言うならそうなのかもしれない。

 ムリして家族になろうとしていることがバレバレで、というのは全くそれもその通りで、私は家族というありかたについてずっと考えていた。少なくとも、前世のあれは家族ではない気がする。トワイライト……廻が死んだことで起きた崩壊は一生立て直せないものになってしまい、私は彼女を背負って生きるための道具になってしまった。死んだことを受け入れたくなくて、そして、死んだことを受け入れるのであれば、双子の私に頑張ってほしいと、そんな押しつけが両親にはあって。私はそれを受け入れることができなかった。もちろん、リュシオルとかリースとか、きっと受け入れる必要ないって言ってくれるだろうし、私だって受け入れなくていいと思った。廻の分、生きなければならないのはそうかもしれない。でも、私がそれを背負う必要が果たしてあるのかということだ。


 それはきっとない。私は私の人生だ。


 そして、私の両親はそれすらわからなくなって、あきらめて仕事に走って私を捨てた。私はそれから、家族に何かを求めるのをやめたし、他人に何かを求めることをやめた。あきらめることで救われようとしたが、救われなかった。

 けれど、遥輝や、蛍に出会ってそれは少し緩和されたのかもしれない。そして、第二の人生、今は第三の人生かもしれないけれど、今に至る。今の人生はあの頃できなかったことをすべて取り戻そうとしているのだろう。だからこそ、家族だといってくれる人に対して、家族らしくあろうと責任感のようなものを感じてしまっている。フィーバス卿にもそれはバレてしまっているだろう。けれど言ってこないのは、彼も家族の在り方を理解していないから。いや、それが正しいと思っているからに違いないのだ。

 何度も考えてしまうのはそういう面で、私が遠慮しているからなのかもしれない。本当に心から、フィーバス卿のことをお父様と呼べるようになった時には、もしかしたら元の世界に戻っているかもしれないけれど、でも、いつかは――




「今の生活は好きだよ。守りたい……でも、取り戻したいっていう気持ちもあるから、その時は……また、フィーバス卿に会いに行きたい」

「好きにすればいいだろ。誰もお前を止めたりしねえよ」

「だね」




 アルベドも悩んでいる家族や兄弟のカタチ。それは、これから先もずっと考えていかなければならないことだろうと思う。私は、冷たくなった窓に手を当てて、はあ、と息を吹きかけてみた。真っ白くなった窓には私の顔が映りこんでいた。




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