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288 純粋な悪意なき殺意の魔力




「ハッ、あいつがここにいたら発狂ものだな」

「こっちは、いたって真剣に聞いているんだけど。その態度はどうかと思う」




 アルベドは、笑いながら言っていたが、ラヴァインからしたら本当に思い出したくもないことだろう。今ですら、自分の魔力を制御できているか怪しいというか。彼が暴走したところは見たことがないが、いつも不安定に感じる。彼を見ると、いつか壊れるんじゃないかって思うからそばにいてあげたいとも思うのだ。それは、グランツだってそうで、あの二人はいつだって不安定だ。

 不安定さは魔力に反映される。魔力が不安定だから精神が不安定なのか。鶏が先か、卵が先か問題にもなってくるが、どちらもがお互いに作用しあっているのは確かである。そのため、どちらかが不安定になれば、いともたやすく精神崩壊を起こすことが可能だと思われる。

 災厄の影響によって負の感情が増幅される人間というのは、もしかしたら決まっているのかもしれない。それでも、人の心には必ず闇があるわけで、そこに付け込まれえつぃまえば、誰だって、闇に落ちる可能性はある。でも、生まれながらにして悪の人間がいるのだろうか。




(こんなに複雑になってくると思わなかった……ただの乙女ゲーム。私の知っている知識じゃもう太刀打ちできないかも)




 もうすでに太刀打ちできないでいるし、予備知識は役に立たない。

 かかわったうえで、その人がどんな人間性なのか、自分で理解する必要があると感じた。

 それは今回のことに関わらず、だが、そもそもラヴァインの存在はあまり重要視していなかったため、アルベドとかかわったことで、彼を知る機会にはなったのだと思う。攻略キャラであることは変わりないが、彼はあると億邸の条件を満たさなければ出てこない攻略キャラだったので、他のキャラと違うというのは仕方がないことだろう。難易度も高めにせってしてあるはずだが、問題はそこではなかったというか。




(今思えば、ラヴァインのキャラについてよく知らないかも……)




 公式ブック第二弾が発売されるのは、エトワール・ヴィアラッテアの悪役ルートが解禁されてから一か月後くらいのことだったから、そこにラヴァインの情報が載っていたかもしれない。ほかの追加情報だったり、キャラデザだったり。そういうのが発売される前にこちらに来てしまったから、もう確認しようがないが、それを見たところで理解できるかと言われたら違う。どれだけ情報があったとしても、実際に関わったら人ちうのは変わるのだから。




「それで、魔力が制御できなかったって何?」

「言った通りだ。それで、人を殺した。善悪がつく前に人を殺しちまって傷ついて壊れた。ただそんだけの話だ」

「ずらさないで。隠さないで。アンタ、いいたくないの?」

「……」

「別にいいけど。でも、なんとなくだけど、ラヴィのその魔力が制御できなかった話、暴走した話は、私の現状とつながる気がしたから。教えてくれたらうれしいかもって思うけど」

「……」

「でも、デリケートな問題だし、それこそ、ラヴィがここにいないのに、彼の口からではないのに、話されたらたまったもんじゃないっても思うけど」




 ラヴァインがいたら怒るだろうか。でも、ラヴァインはたまにアルベドに対して盲目的なところがあるから怒らないかもしれない。でも、どちらにしてもいい気はしないだろう。それを、ラヴァインが気にしているならなおさらだ。

 善悪がつかないということは、子供の時、物心ついたかついてないかくらいの時に自分の力によって人を殺してしまったら……壊れるのも無理がないと思った。死というものを理解していたか否かという話にはなるが、自分がその人を大切にしていようが、大切にしていなかろうが、意思と反して殺してしまったという事実は衝撃ものだろう。私いだったら、一生トラウマになっていたかもしれない。

 ラヴァインのことはやはりよく理解していない。理解したいと思っても、そんな話をちらつかされれば、踏み込んでいいものなのかわからなくなる。彼は笑顔で答えてくれるかもしれないし、笑顔で話を逸らすかもしれない。

 アルベドも、そういう相手のプライバシー的なところは守るタイプなんだ、と思いながら私がふと顔を上げると、アルベドはどこか辛そうに少し口を開いては閉じて指を組み替えた。




「いい、あいつに恨まれようが、話しておいたほうがいいと思うからな」

「え、えっと……別に、そこまでしなくても」

「お前の言った通り、今のお前に起きている現象と酷似しているところがある。だから、話しておいて、二人で考察するのもありだと思ったんだよ」

「ああ、あそう……?」




 歯切れ悪いな、みたいな顔をされたが、まずそっちが言い渋ったんだろうともいいたくなった。

 私は、それでも仕方ないかと思い、彼の言葉に耳を傾けることにした。アルベドしか知らないラヴァインの話っていうのは絶対にあるだろうし、私もその話を聞きたいと。そして、アルベドは私のいった通り、現状とつながるといってくれて、彼の中でも引っ掛かりを覚えたのだろう。




「あいつが、まだ四だったか、六だったか、それくらいの年齢だった時、あいつの魔力暴走した。いや、あいつ自身が魔力に支配されている感じもなかったから、本当に魔力が、人を傷つけたんだ。あいつ周りの使用人は、ラヴィの魔力によって死んだ。外傷も見つかって、あいつの風魔法が人間を切りつけたんだって」

「そう、なんだ。その時の様子が、魔力と人間の意志が分離していると?」

「鮮明に覚えているわけじゃねえから、どういったもんかとは思うが、そうだな。分離していたように見えた。あいつに人を殺すという動機も殺意もなかった。ただ単純にあいつに……しかも、その使用人は、どうやらラヴィの命を狙っていたらしくてな。だから、魔力が、あいつを守るために勝手に暴走したんだ」

「……私の時と一緒?」




 私がそう聞くと、こくりとアルベドはうなずいた。

 イレギュラーと言われたが、もしかしたらこの世界を調べたら、同じようなことが起きるのではないかと。しかし、アルベドは、今のラヴァインにはその記憶もなければ、彼の魔力が前のように暴走することもないという。だからこそ、あれは事故だったというように片付けてしまったらしい。




「今思えば、あれはおかしいことだったんだ。純粋な人間の魔力が、その人間を守るために手を汚したっつうか。でも、結局それをすることで、殺したのはラヴィだっていうふうになるんだから、皮肉なもんだよな。罪悪感があるやつだったらつぶれちまうかもしれねえし」




 と、アルベドは言うと私を見た。

 私は自分を指さしつつ、確かに、とも思った。私がもし、無意識的に人を殺してしまったらと考えると恐ろしい。魔力が暴走して、傷つけたくない人を傷つけてしまったら……そう思うと、もしそうなったとき、私は立ち上がれないかもしれない。自分が殺したのだと、責任を感じて引きこもってしまうかもしれない。でも、ラヴァインはどうなのだろうか。今彼らは、人を殺すことにためらいない。もちろん、罪悪感がないわけではないが、感じないようにしている。アルベドは同課はわからないが、少なくともラヴァインはそれでもいいと、自分のことを受け入れている。

 誰かのために魔法を使えるようになったが、その誰かのために人を殺す魔法。それを、ラヴァインは誇ってはいないだろう。




「ただ、あの純粋な悪意なき殺意の魔力……矛盾している魔力っつうのは、今お前しか持ってないだろうな」




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