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287 家族の在り方




「信じてみるって……アンタが不安にさせること言ったんでしょうが」

「まあ、そうなるか……?」

「ひどい、しらばっくれて!」




 勢いのまま、私はアルベドのすねを蹴る。よけるような隙間はなく、アルベドのすねに足が直撃し、彼は痛そうに声を漏らした。つぅ~と言葉にならないような悲鳴を上げている。知ったことか、と思ったが、やりすぎたような気もして謝るか迷ったが、私はアルベドの顔を見たのち、いう気も失せた。少し笑っていたからだ。




「何で笑ってるのよ」

「いーや、だって、心配なんだろって思って」

「それは、人の命がかかっているから。だとおもうけど……だって、あの肉塊は確実に辺境伯領に攻め込んできているから。今私は魔法が使えないし、お父様も、外に出られない。アウローラ一人に任せることはできないから。もし、お父様が動くようなことがあれば、それは、中に侵入されたとき」

「そうだな」

「そうなったら遅いじゃん。私は、まだ辺境伯領のこと全部知らない。どんな人がいて、どんな生活をしていって、全部知っているわけじゃない。けど、心配にはなる。家族だとか、そういうのじゃなくて」




 家族だから心配ってことはないだろう。いや、その気持ちがないわけじゃない。けれど、領地全体を思って、どうかと思ったとき、とりあえず心配なのだ。誰も対処できないから。あれは特殊だから。アルベドが何を感じ取ったかわからない。今は余裕そうな顔をしているが、本当は余裕がないのかもしれない。私に悟られないようにしているだけかもしれない。考えたらいろんな可能性が出てくる。そんな中で、何がこれから起こるのか、起きてしまったらと考えたら……




(家族だから、心配なの、かな……?)




 家族は心配するものである、という結論はおかしくもある。そういう定義づけはしたくなかった。けれど、心配なのは事実だ。私が、フィーバス卿に深くかかわりすぎたからというのもある。世界が巻き戻れば、元通りになれば、この関係も0に戻ってしまうだろうに。私がこの生活を手放せないでいるのも事実。

 手放せない。だから、どうしても気になってしまうのだ。




「そうだね。そうかも。家族っていうものはよくわからないけれど、これが家族なのかもしれないし」

「だろ?」

「じゃあ、アルベドの話聞かせてよ。もっと、弟のこととか」

「ラヴィ……の。あいつのことかよ」




 と、そういってアルベドは頭をかいた。やはり、彼らの溝は完全に埋まり切ったのではないとそう実感する。まあ、簡単に埋まるものではないと思っているので、いつものことだとは思うが、アルベド自身もかなりラヴァインについては思うことが多くあるようだ。兄弟のことだから放っておけばいいのだが、それができないでいるのは私の性格からか。




「私は、トワイライトのことならずっとはなせるけど?」

「お前らとは違うんだよ。それに、俺は、お前とあの聖女様の関係はよく知らねえ。姉妹みたいな関係だっつうことくらいは知ってるが、どれほど仲がいいとかは全くな」

「まあ、おいおいはなしまーす」

「軽いな、おい。はあ……俺の家族はそんなに仲が良くない。そもそも、貴族で仲がいいやつのほうが少ないだろう。結局義務とか、責任とかそういう重圧を親から子へと継承していく。そのために、後継者として育てる必要があんだよ。それが、愛だというのなら、愛なのかもしれねえ。躾だというのであれば、躾だ。どっちとしてとるかは、そいつら次第だな」

「それが、貴族の愛のカタチ?」

「俺はそう思わねえけど。ただの形式。いや、でも現レイ公爵……俺の父親は違うのかもな」

「でも、殺し合わせたというか。どっちかが、生き残って……みたいな話してなかった?」




 以前聞いた話では、残ったどちらかが爵位をうんぬんといっていた気がした。だから、てっきり、そういう関係だと思っていたが、その認識は少しずれていたようだ。アルベドは、よく覚えているなといったうえで、私の顔を覗き込んだ。その行動が何を意味しているかさっぱり分からなかったが、何かしら意味があるのだろうと、私はひきつる頬を上げて笑った。

 貴族の生活はよく知らない。フィーバス卿のもとにいても、どれが正解だとかよくわからないでいる。それぞれの家庭だと思っていたが、それもまた違うような気もしてきて、やはり正解がないようにも思えるのだ。

 アルベドの家族は、家はそういうのだったという認識だったが、それをアルベドが愛だと認識している可能性も出てきたわけだ。




「そうだよ。その考えがそもそも生まれたのは、ラヴィが父親を殺そうとしたところからだ。そのせいもあって、残り短い人生の中、子供に何を残せるか考えた結果、父親はそんなことを言い出した。それがなきゃ、俺が順当に当主になってただろうな」

「今回の世界では?」




 私の問いに対し、アルベドは難しそうに眉間にしわを寄せていた。

 彼のことをみんなレイ卿ではなく、アルベド・レイ公爵子息様と呼んだからだ。ということは彼はまだ、公爵の地位を得ていない。とても気になったことでもあったので、私は迷わず聞いてみたのだ。

 アルベドは、少し黙った後「この世界ではまだな」といったうえで、もう一度足を組みなおす。




「ラヴィには悪いが任せられねえ。あいつはああ見えてももろいからな。精神的にその重圧に耐えきれないだろう」

「それは、兄として見たとき?」

「……なんか、お前とげとげしいな」

「え、いや、気になっちゃってさ。その、アルベドがーとか、そういうんじゃないから」

「はあ」




 何とも間抜けな声で返され、私はこれでよかったのかと納得できない顔で彼を見つめなおす。

 ラヴァインが精神的にもろいというのは知っている。アルベドほど屈強な精神を持った人間がそもそも少ないというのもあるが、確かにアルベドのいう通りラヴァインはその精神的な弱さゆえに前の世界で暴走した。アルベドが彼をどうやって止めたかは知らないが、ラヴァインはかなり災厄により、負の感情が増幅されていたと記憶している。いろんなものに対し嫉妬を飛ばし、自分を見てくれないアルベドに対し、アルベドのものをすべて奪ってしまおうという考えにまで至って。今の彼が過去の自分を見てどう思うかは気になるところだが、今であっても彼の精神面が強いとは言えない。もちろん、あの時と比べたら強くなったほうではあるとはわかるし、何よりも彼は成長したから。

 だが、それだけではレイ公爵家の当主は務まらない。アルベドも当主という顔はしていないのだが、彼以外に告げる人はそう相違ないだろうし、アルベドであってほしいとは私は思う。だからこそ、彼でいいと。




「俺が、ラヴィをかまってやれなかったせいで、あいつがおかしくなったってお前は思っているだろ?」

「え、違うの?ラヴィ自身がそう言っていたから、そうだと思っていた」

「まあ、それもあるが、いや、それが七割かもしれねえけど、他にも原因はあった。あいつの精神面の弱さはそれだけじゃない。あいつの魔法は、無意識に人を攻撃するイレギュラーがあった。そして、その力で幼くして人を殺した。使用人だった」




 と、アルベドは言うとため息をつく。

 本人の口から語られなかったこと。だから、いってもいのか迷ったのかもしれない。アルベドだって、人のプライバシーは守るだろうし。だったら、何か。

 けれど、その話を聞いて、今回の私の魔力が使えない現象と重なるところがある気がし、私は前のめりになって聞いてしまった。




「ごめん、話続けてもらってもいい?」




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