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282 兆し




「本当にもう大丈夫なのか?」

「うん……っていいたいところだけど、まだまだ気になる点というか、体は万全じゃないかもね」

「かもねって、お前自分の体だろう」

「わかってる!わかってるんだけど、それでも、わからない部分は確かにあるっていうか……まあ、大丈夫でしょ」

「ほんと、お前なあ……」




 満月の瞳が細められ、私は苦笑してしまう。

 本当に気遣ってくれているのに、私ができることといえばこんなことというか。事実をありのままに伝えることで、彼に対して恩返しというか、彼を安心させることができるのではないかと。アルベドは私にやさしい嘘をつくときはあるけれど、私は彼に対してはうそをあまりつかないようにしたいとは思った。ベルのことは仕方がない。いったら絶対に離れろっていわれるのが見えているので、これだけは言えなかった。

 あの後、ベルは何事もなかったように消えてしまい、私だけが残った。彼から得られた情報というのは大きく、今後も約経つことだった。魔力がなくなったのではなく外に出てしまったこと。そして、私を守るように魔力が私を抱きしめていること。これをアルベドに言って信じてもらえるかはわからなかったが、話す機会は重要だろうと思った。

 私が、チリンとベルを鳴らせばメイドが来てくれて、アルベドにこのことを話してほしいと頼んだ。すると、ものの数分後アルベドが部屋を訪ねてきてくれ、話し合うことになったのだが、アルベドは外で話そうといって私を連れだした。確かに部屋の中にいては息が詰まるなと思ったし、いい気分転換になるかもと思った。

 目の前にはあのピンク色のチューリップが風で揺れており、かわいいそのフォルムを見ながら、私たちはシートを敷いて話していた。顔をあまり見ないようにしているのは、お互いに気遣ってのこと。別に、気まずいとかそんなんじゃない。




「……ったく。でも、さっきより顔色が良くなったみたいで少し安心だな」

「ありがとう。毎回心配してくれて。心配されないようにこれからは頑張るね」

「頑張り方よ……それ」

「これも一つの頑張り方じゃない?」




 と、私が聞けば、アルベドは「かもしれねえけど」といった後、認めざるを得ない雰囲気になって、そうだな、と返した。半ば強引に言わせてしまったが、私はこれでいいと思い膝を立てる。

 頑張り方は本当にそれぞれだ。魔法が使えない今、頑張ることと言ったら、メンタル面の自己管理じゃないだろうか。そこを怠ってしまえば、また付け込まれる可能性があって、そして、心配もされて、周りの士気が下がる。




「てか、お前俺に隠していることあるだろ」

「え!?」

「んだよ、その反応。本当に、まさか……」

「いやいや、アルベドに隠し事って何!?私は、いつだって、アルベドに対して正直者なんですけど!?」

「自分で言うところが怪しいよな、お前」




 じっと見つめられてしまい、私はなんていえばいいかわからなかった。

 それは、ベルのことをさしているのだろうか。それとも、他の? なんとなく今回はベルの気もしたが、本当にそういうところ勘がいいというか。私が顔に出やすいタイプであることにも変わりないけれど。




「何もないって。それで、えーっと話変わるけど。魔力のこと」

「魔力……いや、本当に心配すんな。俺がどうにかする」

「どうにかって……その、私を守るとかじゃないよね?」

「……」

「まって図星じゃん!」




 アルベドは視線をものすごい勢いでそらした。

 私にむちゃするなという割には、アルベドもむちゃしている。だからお互い様だとはとても思う。

 アルベドは「それしかないだろ」と消えそうな声でつぶやいた後、こちらを見て、むっとした表情で睨みつけた。




「あの、待って、話聞いて」

「何だよ」

「魔力……えっと、ええーと。分析したの!」

「魔力がないのに、どう分析すんだよ」

「うっ……」

「んで?分析してどうなんだよ」

「あれ、聞いてくれるんだ」

「お前が言い出したんだろ。責任もて」




 無責任すぎる! と、私はころころと変わるアルベドの注文に対応できずにいた。確かに、今の切り出し方では、怪しまれて当然。怪しまれないほうがおかしいくらいに、私の切り出し方はだめだった。これでは、誰かが私の魔力について言及して、私がそれをさも自分が分析したように言うのがいけないと。

 アルベド相手だと気が抜けない。抜いたら最後、変なところを刺されて、ぼろが出ると思う。




(とりあえず、信じてもらえるように言わなきゃ……)




 嘘になるといえば、これも嘘になるというか、だます行為かもしれない。でも、今回は違うと言い聞かせたうえで、私はアルベドのほうを見た。




「私の中からごっそり魔力が消えたこと。多分、私の中の魔力が私と乖離したの」

「いや、それをいきなり信じろといわれてもな……」

「わ、わかるけど。多分そうで。それで、すっごくイレギュラーだってこれも思っているんだけど。魔力が意思を持ってたの」

「は?」

「だから、魔力が意思を!」

「いや、聞こえてんだよ。だが、まあ、そう……んなこと、ありえ……あー」




 と、アルベドは私を否定しないよう努め、頭を悩ませていた。

 やはり、アルベドでも、これは受け入れがたい、信じがたいことなのだろう。私もその自覚はある。だけど、決定的に違うのは、魔法の予備知識があるか、ないかだろう。あればあるほど、この状態がおかしいことは明白だし。なければ柔軟に対応できるといったところか。そんなところだし、ベル自身も、この世界は虚構の世界だとわかったうえで、私に話しかけてきているから人間が作ったものでも、それを超える時だってある、そんな恐ろしさを垣間見た気がするのだ。

 アルベドを納得させようとしているわけでもない。ただ、そういうことになったということだけは伝えておきたかった。隠し事話だから。もちろん、ベル以外のことで。




「そんなこと、あるのか」

「多分。でも、目に見えないから感じているというか。でも、アルベドは感じない?」

「なんで俺が」

「私には見えないんだけど、見える人がいるかもしれないから……見えないかあ」

「いや、見えねえだろ。確かに、魔法の鑑定とか、感じるつう話はありだとは思うぜ?でも、今のところ何にも感じねえな」

「じゃあ、私に魔法を放ってみてよ」

「はあ!?」




 あまりにもわかりやすすぎる、はあ!? が飛び出し、私は思わず耳をふさいでしまった。まあ、誰でもこんなことをいきなり言われたら、はあ!? という感情が出てきてしまうのかもしれない。

 ベルが言う通りなら、私を守るように魔力が覆っている。だったら、誰かからの攻撃も防げるのではないだろうかと思ったのだ。そんな安直な話じゃないかもしれないが、試してみる価値はある。私自身が魔法を使えないのだから、頼める相手といえばアルベドしかいないだろう。

 アルベドは私を見た後、できないというように心苦しそうに首を横に振る。その反応もまた正解だった。




(まあ、そうだよね。いくら私がいっても、アルベドにも私の魔力が感じられないんだもん)




 でも、もし、本当に守るように魔力が備わっているというのなら、それを確かめてみたかった。いつか、魔力が戻ってくる……そんな兆しを、可能性をみたかったのだ。

 私はアルベドの手をぎゅっと握って、もう一度彼に真剣なまなざしを向ける。




「お願い、アルベド。一回だけでいいからやってみてほしいの」

「それで、お前がけがしたら!」

「手加減はしてくれるってわかってる!それに、可能性を信じてみたいの。魔法の……」

「……」

「お願い。アルベド」




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