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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第三章 拗れ始める関係

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03 負傷したアルベド




「金持ちに何あげたところで喜ばれないよね……くそぉ、あの双子め」




 次の日の午前、私は魔道具を専門に扱うお店に足を運んでいた。


というのも、この間双子に助けてもらい、共闘したときのお礼を返さねばと思ったからだ。勿論、あの子達はいらないとかやっすいものしか買えないんだね。と馬鹿にしてきそうな所だが、私なりの誠意というか感謝を伝えるべきだろうと考えた。



 しかし、いざ来てみたは良いものの、やはりどうすればいいのか分からず、取りあえず適当に良さげなものをいくつか買ってみるか……と店内をぐるりと一周してみるが、めぼしいものは愚か、そもそも私はあの双子の趣味を知らないんだったと頭を抱えた。

 外ではグランツが待機しており、グランツに聞くべきかと思ったが彼も彼で魔法が使えないため聞いても当てにならないだろう……失礼だが。




「まあ、別にあげなくたって良いんだけどね。どうせ馬鹿にされるだけだし」




 そう言いつつも、結局のところ何かしらのプレゼントを用意してしまおうというあたり私の性格は堅いと自分でも思う。

 まあ、彼らは星流祭を一緒にまわらないと決めているから少しでも好感度をそこで上げようかという下心はない事もない。


 私はもう一度店内をぐるっと回り、良さそうな魔道具を見ては値段を見てため息をついた。


 魔道具をプレゼントしようと思ったきっかけは、彼らが魔法に長けているから。勿論、長けているのは兄のルクスの方で、ルフレはそれにコンプレックスを感じているわけだが、ルフレにはルフレで魔法を補える武器やら道具があればそれをプレゼントしようと思っている。


 私は良識のある大人だから。




「うーん、ルクスのはこれで良いかな……」




 手に取ったのは魔力蓄積道具。これは、魔力が枯渇したとき以前ためていた魔力を使いない分の魔力を補える道具である。

 ルクスの魔法は見た感じ協力だがコスパが悪そうで、それはまだ子供だからかも知れないが魔力の枯渇は死に繋がることもある為貯蓄は必要だと思った。


 問題はルフレのほうである。


 双子だしルクスと同じもので良いかと一瞬思ったが、双子であっても得意不得意があるわけで、ルフレの魔力の少なさを補える魔道具がいいと思った。ただそれだけでは、彼のプライドを傷つけるだろうと、彼の長所を存分に発揮できるものが良いと。



 けれど、そんなもの本当にあるのだろうか。


 そう思いつつ、さらに店内をゆっくりまわっていると、ふとあるものが目についたのだ。それは、少ない魔力量で凄まじい威力を出せる弓矢だ。




「これ、良いかも」




 私はそれを手に取り、じっくりと眺める。 

 弓本体はも特殊な気で作られているようで黒々と光っている。ルフレのあの弓の腕ならこの弓を使いこなせるだろう。矢尻の部分から弦まで、その全てが綺麗に輝いている。




(これなら、高そうに見えるしルフレは納得してくれるだろう。ルクスのほうはまだいまいち掴みきれていないけど……)




 これを渡せば、きっと喜んでくれる。


 そう確信した私は、すぐに会計を済ませ、買った品を一度聖女殿に送るよう店主に言い店を後にする。

 これで、双子へのお礼は大丈夫。




「グランツーあれ?確か、店の前で待っててくれた筈なんだけどな」




 店の外を見渡すと、確かにグランツの姿はなかった。




(ま、まさか迷子!?)




 そんな考えが頭によぎる私は完全に可笑しな奴だっただろう。彼は子供ではない。それぐらい分かっていたが、何というかグランツに対しては庇護欲が働くというか、守られているのは私の方なんだけど何処か寂しげで隣にいてあげたくなるような気持ちになるのだ。


 グランツには私が必要と思うほどに。


 私は、店から離れグランツを探してまわった。本来なら待ち合わせ場所に留まっているのが正解なのだろうが私にはそんな頭はない。というか、待つのは嫌いだ。



 それに、グランツが勝手に居なくなった可能性もある。もしそうならば探してあげないと。

 でも、彼は何も言わずにいなくなるタイプではないし私の護衛騎士だし。と、誘拐の可能性まで頭によぎってしまうのだから、私はかなり焦っていたのだと思う。

 この場合、私の方が迷子なのではと思うほどに。


 そう思いながら探し回るも、やはりなかなか見つからず、土地感覚のない私は案の定迷子になってしまった。

 そうして、とぼとぼと途方に暮れているとき、ふと鼻をさす匂いがし私は匂いのする方向に身体を向けた。




「……血の臭い」




 微かにだが確かに、人の血液特有の鉄臭さを感じる。


 見れば暗い路地の方へ転々と血痕が続いており、私は何故か誘導されるようにその痕を追う。普段ならこんなこと絶対にしないのに、危ないとわかりきっているのに自然と足が進むのだ。


 その時にはもうグランツの事など頭にはなく、この血痕の終着点には誰が、何がいるのか気になってしまった。

 死体も痛いのも嫌いなはずなのに、本当に洗脳か誘導されるかのように。


 私が足を進めると、賑やかな城下町の雰囲気とは一変し暗くじめっとした空気が流れ始めた。暫く歩くと水路が現われ、さらに陰気くささが増す。それでも、私の足が止ることはなかった。そして、血の臭いが強くなったと思った瞬間、低い呻き声のようなものが聞えた。




「……うぅ」

「ひぃいい!だ、誰!?」




 その声を聞いてふと我に返り、何故自分がこんな所に来ているのだろうかとか、ここは何処だろうかと頭が真っ白になった。

 声の低さからして、きっと男性だろうと予想し私は一歩後ろに下がった。このまま逃げてしまいたかったのに次の一歩が如何しても動かない。




「誰だ?そこにいる奴は……」




と、角を曲がったところから先ほど呻き声を上げていた男性が私の気配に気づいたのか声をかける。




 その声は焦りや緊張感などが入り交じっているように感じ、私は何故だか助けなければ。と、思った。

 

 そうして意を決して角を曲がり、私は思わず目を見開く。


 そこには、血だらけでボロ雑巾のように横たわる青年の姿があった。彼の顔は青白く、息をしているかも分からないぐらいに衰弱していたのだ。


 だけど、その青白さとは真逆に私の目に飛び込んできたのは紅蓮の髪。




「アルベド!?」

「……その、声は……エトワールか?」




 紅蓮の髪の青年、アルベド・レイは無理矢理身体を私の方に向け苦しそうな表情でそう私の名前を呼んだ。

 見間違うはずもない、一度見たら脳裏に焼き付いて離れないような紅蓮の髪に、満月のような金色の瞳。それは、誰がどう見てもアルベド・レイだった。アルベド・レイ公爵……




「な、なんで、ど、如何して!?」

「うるせぇ、喋んな……ってぇ……」




 私が驚きと困惑の声を上げると彼は苦痛に満ちた顔をし、傷口を抑えながら上半身を起こした。そんな彼に私は慌てて駆け寄る。

 彼は怪我を負っていた。よく見ると黒を基調とした高そうな服にも血が滲んでおり、出血量からするとかなりの重傷に見える。


 しかし、そんな痛々しい姿よりも何故彼がこんな所に?という疑問の方が増さる。

 私に彼を心配する心はないのかと自分で突っ込みたくなるほどに、何故公爵家のそれも闇魔法を使う彼がこんな日中に?城下町からかなり彼の領地は屋敷は離れているはずなのに。




「アルベド、う、動かないで……傷口が!」

「……ああ、そうだエトワール。ちょうど良いところに来た……頼みたいことがある」

「え、え……嫌」




 おい、それはねえだろ。とアルベドはいつもの口調で私の頭をぽこんと一発殴る。そのげんこつに力は入っておらず痛みは全く感じなかった。それほどまでに彼は衰弱していると言うことだ。

 それからアルベドは息を切らしながら、聖女なんだから……と、私の肩に手を置く。


 彼がこれから言おうと、私に頼もうとしていることを私は察しゴクリと固唾を呑み込む。




「……今すぐ、俺を治療しろ。聖女様」






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