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266 奪還、固執




(アンタは……本当に)




 かっこいい登場は、私の推しにはかなわないけれど、それでも二番手にしたいくらいはかっこよかった。彼の得意魔法が風だからか、風を一身にまとって、それが演出となって現れる。そして、家紋のピンク色のチューリップが。登場としてはかっこいいし、そして、ビジュアルもめちゃくちゃいいから映える! 最高! なんて表情にも出なかったし、口にも出さなかったけれど思った。オタクの気持ちが、心が死んでいなかったんだなあ、なんてバカみたいな再認識をすると同時に、彼が来てくれたことで、少しだけ心が軽くなった気がしたのだ。もちろん、ラヴァインがいてくれたことで安堵はしたけれど、それでも敵の敷地内にいるということは恐怖すべき危険視すべきで、緊張がほどけずにいたのだ。




「ステラ」

「遅いなあ、兄さん」

「……やっぱ、ここだったのか。まあ、おかげで探す手間は省けたが。んで、返せ。ステラを」

「嫌だよ。そう簡単に返すと思う?」

「あ?」




 アルベドは、手を出して、私を返せと言ってきたが、ラヴァインは私をお姫様抱っこした玉抱きしめて、嫌だねと舌を出す。いや、先ほど早くここを脱出したほうがいいといったのはラヴァインでは? と思ったが、アルベドが助けに来たことにより、ラヴァインが私を守る必要がなくなったと、そして彼が敵に戻ったのだということを私は考えた。

 わざとやっているのか、いや半分は演技だろうが、誰が見ているかもわからないところで、私を受け渡せばラヴァインは怪しまれるだろう。だからこそ、簡単にアルベドに渡さないのだと、そういいたいのだ。

 アルベドもすぐに理解したが、それにしては少し機嫌悪く眉間にしわを寄せていて、先ほどよりもまっすぐと私に向かって手を差し出した。




「おい、いつまでそうやってんだ。帰るぞ」

「か、帰りたいんだけどねえ……」

「どうしたんだよ」




 アルベドは、私の変化に気づいていないようだった。私もラヴァインから離れてアルベドの手を取りたいところだったが、やはり体が動かないのだ。それをどうにか伝えようと思うのだけど、ラヴァインが私を隠すように抱きしめるので、アルベドに意図が伝わらない。やめてほしいとラヴァインに抗議するが彼は敵モード? に入ったみたいで、聞いてはくれなかった。




「兄さんさ。ちょっと遅いんだけど」

「遅い?これでも早く来たつもりだが?」

「……どうせ、何かトラブルでもあったんだろうけどさ。ステラのこと、こーんなにほったらかしにして、俺にとられるとは思ってないわけ?」

「はあ?」

「俺は、兄さんの敵だよ。今も昔も変わらない……」

「……っ」




 そこでアルベドは理解したらしく、「ああ、そうかよ」とナイフを取り出す。

 兄弟げんかなんてやめてほしいし、それが演技だって思いたいのに、真剣ににらみ合うんだから私はどうすればいいかわからなかった。何もできないし、魔法で止めることもできない。どうしてこんな時に限って自分の体が動いてくれないのか不思議で仕方がなかった。

 そうして、私を抱きしめたままラヴァインが魔法を発動しようとしたとき、背後に気配を感じ、ラヴァインが横へ飛んだ。




「……っ、と。一人じゃなかったね。忘れてた」

「……ステラ様を返してください。ラヴァイン・レイ」

「グランツ・グロリアス……どうせ、君には魔法が通じないからね。戦いたくないんだけどさ!」




 私を抱きかかえたまま回し蹴り。それは、背後にいたグランツにあたらかなったものの、グランツの持っていた剣を吹き飛ばし、グランツはくっ、と苦しげにうめく。

 ラヴァインはアルベドと一緒で、体術もそれなりに習得しているから騎士であるグランツに対してもある程度は対応できるのだろう。どんな敵が待ち構えているかわからなかったから、アルベドとグランツは一緒に来たと。それにしても、この二人は仲が悪かったはずなのだが? という疑問はぬぐい切れなかった。




「外すなよ。俺が注意をそらしてやったっていうのに」

「うるさいです。アルベド・レイ……!二人係でなければ無理だといったのは貴方では?」

「言ってねえよ。ただ兄弟げんかをしに来たわけじゃねえからって言ったんだ」




 と、グランツの殺意のこもった言葉に対して、アルベドはのらりくらりとかわすように言うと、私を見た。

 なんとなく理解はできたけれど、確かに二人が共闘する理由にはこれが最適かと思った。アルベドも、ラヴァインとすでに和解していることを悟られないために、証言者としてグランツを連れてきたという感じだろう。グランツがそれを理解しているか同課はわからないけれど、それでも一人で来るよりも良かったと思う。

 グランツはだますような形になっちゃっていたけれど、でも、私を助けに来てくれたことは単純にうれしかった。まあ、ここにラヴァインがいたのは誤算だったけど。




(でも、リースじゃないんだ……)




 てっきり、助けに来てくれるのはリースとばかり思っていた。アルベドはわかるけれど、グランツ? とも。嬉しくないわけじゃない。ただ、リースはやはり、私のことを気にかけていないんじゃないかって思うと、胸が苦しくなる。




「二人も相手するの、いくらお前でも大変だろ?さっさと、ステラを渡して帰れよ」

「何それ。そっちのほうが誘拐犯みたいじゃん。てかさあ、ステラが勝手にこっちに来たのに俺が悪いみたいに言わないでくれるかな?」




 確かにそれはめちゃくちゃそうなんですけどね?

 言い返すことなんてできやしなかった。私が誤ってあの魔法陣に飛び込んでここにきてしまったのだから、ラヴァインが責められるなんてことないし、完全にとばっちりだ。それでも、私を返さない、というところでラヴァインが彼らに剣を向けられるのは当然で、そういうシチュエーションだと思えばむしろ成り立っているようでよかった。

 囚われのお姫様、だなんて自分のことを思うつもりはないけれど、この状況じゃそういえる気がして少し恥ずかしい。アルベドもそこでようやく、私が今抵抗できない環境にあると気づいたのか、もう一度大きな舌打ちをしてナイフを構えなおした。




「お前、ステラに何かしたか?」

「するわけないじゃん。兄さんの、大切な大切な婚約者なんだから、丁寧に扱っているに決まってる」

「あっそうかよ。気持ち悪いい方すんな」




 アルベドを煽るのも忘れないのはラヴァインらしいけど、それが本当にいいことなのかはさておいて、そこまでする必要があるのかと私も思ってしまう。アルベドの舌打ちが増えるほどに、私は冷汗が止まらなくなる。あとで殴られても文句言えないと思うんだけど、それはそれでラヴァインがかわいそうで……

 そうすることで、グランツをだませるのかもしれないけれど、やっぱりやりすぎ感は否めない。

 それと、アルベドにラヴァインは勝てないだろうし、それプラスでグランツがいる状況で私を守りながら戦うって相当じゃないかと思った。




「ステラ様を返してください」

「ねえ、君はそれしか言わないわけ?」

「……ステラ様を返せ」

「……はあ。なんで? なんで君はそこまでステラに固執するの?」

「貴方には関係ないです」




 ラヴァインはグランツに対して問いかける。それは、私も気になったことで、私が言うよりも、ラヴァインが言ったほうが破壊力があると思う。私が言うことで、ERROR表示が出るのもそうだし……

 ラヴァインはこの状況を逆手にとって、グランツの記憶を取り戻させようとしているのだろう。




「関係あるよ。だって、君がみているのは、ステラじゃないでしょ?」




 

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